生成AIのPoC、何度やっても本番化できない本当の理由 ~乖離

本記事は、「生成AIのPoC、何度やっても本番化できない本当の理由」の続きです。
前回の記事をまだお読みになっていない方は、是非、こちらのリンクから読んでみてください。
1-2.日本企業のAI投資額と事業化率の乖離
前回の記事の中で、国内外の複数のリサーチ会社が調査した”PoC成功率80%、本番化率10%”という現実についてご紹介しました。
この数字自体は海外も含む平均値です。日本国内の実態はどのような状況になっているのでしょう?
総務省の「情報通信白書」や国内リサーチ企業の国内AI市場予測によれば、日本企業のAI関連投資は2020年から2024年にかけて約5倍の規模に拡大しており、2024年度には4兆円超に達するという推計が出ています。
ところが、投資額の拡大と事業化率は、まったく逆の方向に動いています。
複数の調査をまとめてみると、2020年頃には約18%あったとされる本番化率が、2024年には10%前後まで低下しているという推計が浮かび上がりました。これは「AI開発の民主化」が進み、誰でも手軽にPoCを始められるようになった結果、質よりも量のPoCが増加したことの裏返しとも言えます。
つまり現在の日本企業の状況は、「投資は増えているが、成果に結びついていない」という構造的なジレンマに陥っているということです。
この乖離こそが、「AI墓場」問題が今まさに深刻化している根本的な背景です。
1-3. 「AI墓場」とは何か——埋葬されるプロトタイプたち
「AI墓場(AI PoC Graveyard)」とは、概念実証として開発されたAIシステムやソフトウェアが、本番化されることなく、社内のサーバーやドキュメント管理ツールの片隅に放置されてしまう現象のことを指した言葉です。
この言葉は、2020年頃から欧米のテック業界で使われ始め、現在では日本のDX推進担当者の間でも広く知られるようになりました。
AI墓場に送られるプロジェクトの共通パターン
AI墓場に送られるプロジェクトには、次のような共通パターンがあります。
まず、「デモは完璧だったが、本番では動かない」パターンです。
PoCの段階では用意された理想的なデータセットと限られた処理量でのみ動作しており、実際の業務データや大量のリクエストには対応できないことが本番化の段階で判明します。
次に、「成功判定のまま、誰も次を決めない」パターンです。
PoCが「成功した」と判定されたにもかかわらず、次のフェーズに進む意思決定者がいない、あるいは本番化に向けた予算申請の方法がわからず、そのままフェーズが終了してしまうケースです。
さらに、「担当者が異動したら誰も触れなくなった」パターンもあります。
PoCを主導していたエンジニアや推進担当者が異動・退職したことで、引き継ぎが行われないまま塩漬けになるケースは、現場で特に多く見られます。
「我が社のあのプロジェクトがまさにこれだ」と思われた方も多いと思うのですが、AI墓場は、特定の企業だけの問題ではなく、日本のDX推進全体が直面している構造的な課題なのです。
1-4. 本番化できないことの機会損失を試算する
「本番化できなかった」ことのコストは、単にPoC費用の無駄遣いにとどまりません。より本質的な問題は、「本番化していれば得られたはずの事業価値」が永遠に失われることです。
仮に、年間5件のPoCを実施し、1件あたり2,000万円の費用がかかっているとすると、年間の総投資額は1億円になります。このうち90%——すなわち9,000万円——が本番化されずに埋没しているとすれば、5年間の累積機会損失は4.5億円に達します。
しかしこれは、直接費用だけの計算です。実際には以下のような「見えないコスト」も加算されます。
エンジニアの稼働コストとして、PoCに関わったエンジニアが費やした数ヶ月の工数が、事業貢献ゼロのまま終わります。
市場機会の損失として、競合他社が同様のAI機能を本番サービスとして展開している間、自社は「検証中」のままです。
組織モチベーションの低下として、「また止まった」という経験を繰り返すことで、DX推進部門のエンジニアや担当者が疲弊し、次のチャレンジに踏み出せなくなります。
米リサーチ企業のレポートでは、AIプロジェクトの本番化に成功した企業は、そうでない企業と比較して、5年間で平均20〜25%の収益改善効果を得ているというデータも報告されています。
AI墓場の問題は、単なるコスト問題ではなく、企業の競争力を長期にわたって蝕む戦略的リスクと言えるでしょう。
次章では、なぜこれほど多くのプロジェクトが本番化に失敗してしまうのか、その「本当の理由」を深く掘り下げていきます。
関連ソリューション:AI Prototype Productionization | AI開発プロトタイプの本番化
解説記事「生成AIのPoC、何度やっても本番化できない本当の理由」の続きは
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この記事を書いた人

株式会社APPSWINGBY マーケティング
APPSWINGBY(アップスイングバイ)は、アプリケーション開発事業を通して、お客様のビジネスの加速に貢献することを目指すITソリューションを提供する会社です。
ご支援業種
情報・通信、医療、製造、金融(銀行・証券・保険・決済)、メディア、流通・EC・運輸 など多数

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監修

株式会社APPSWINGBY CTO 川嶋秀一
動画系スタートアップや東証プライム上場企業のR&D部門を経て、2019年5月より株式会社APPSWINGBY 取締役兼CTO。
Webシステム開発からアプリ開発、AI導入、リアーキテクチャ、リファクタリングプロジェクトまで幅広く携わる。
C, C++, C#, JavaScript, TypeScript, Go, Python, PHP, Java などに精通し、Vue.js, React, Angular, Flutterを活用した開発経験を持つ。
特にGoのシンプルさと高パフォーマンスを好み、マイクロサービス開発やリファクタリングに強みを持つ。
「レガシーと最新技術の橋渡し」をテーマに、エンジニアリングを通じて事業の成長を支えることに情熱を注いでいる。

株式会社APPSWINGBY CTO 川嶋秀一
動画系スタートアップや東証プライム上場企業のR&D部門を経て、2019年5月より株式会社APPSWINGBY 取締役兼CTO。
Webシステム開発からアプリ開発、AI導入、リアーキテクチャ、リファクタリングプロジェクトまで幅広く携わる。
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