AIアクションサミットから見えてくるAIをめぐる世界の最新動向

ARTIFICIAL INTELLINGENCE ACTION SUMMIT

2025年2月6日から11日まで、パリで「AIアクションサミット」が開催され、人工知能(AI)の公共の利益への活用と国際的な協力強化が議論されました。

このサミットは、フランスのエマニュエル・マクロン大統領とインドのナレンドラ・モディ首相が共同議長を務め、100カ国以上から政府関係者、企業、研究者、アーティスト、市民社会の代表者、ジャーナリストなど約1,500人が参加しました。

日本国内ではあまり報じられていませんが、この国際会合から世界各国の動向、思惑、今後の展望などが見えてきますので、参考までにまとめておきます。

AIアクションサミットの主な目的とテーマ

サミットは以下の3つの主要目標を掲げていましたので、ご紹介しておきます。

  1. 独立した安全で信頼できるAIへのアクセス拡大:より多くの人々が安全で信頼性の高いAI技術を利用できるようにする。
  2. 環境に優しい低消費電力のAI開発:AI技術のエネルギー効率を高め、環境への影響を最小限に抑える。
  3. 効果的かつ包括的なAIのグローバルガバナンスの確立:国際的な協力を通じて、AIの倫理的かつ持続可能な開発と利用を推進する。

これらの目標を達成するため、サミットでは以下の5つの主要テーマが設定されました。

  1. 公共の利益に資するAI:医療、教育、環境保護などの分野でAIを活用し、社会全体の利益を追求する。
  2. 労働の未来:AIが労働市場や雇用に与える影響を検討し、労働者のスキル向上や新たな雇用機会の創出を支援する。
  3. イノベーションと文化:AIを活用した文化的・創造的産業の発展と、多様な文化表現の促進。
  4. 信頼できるAI:AIシステムの透明性、公平性、プライバシー保護を確保し、社会からの信頼を築く。
  5. AIのグローバルガバナンス:国際的な政策調整と協力を通じて、AIの倫理的かつ持続可能な開発を推進する。

「AIアクションサミット」までの動線

「AIアクションサミット」開催までの主なイベントと成果
  • 科学会議「AI、科学と社会」(2月6日・7日):パリ工科大学で開催され、AIの科学的基盤と社会への影響について議論が行われました。
  • 文化とAIに関する一般公開イベント(2月8日・9日):パリ市内で開催され、AIと文化の融合や創造性に関する展示やワークショップが行われました。
  • サミット開幕フォーラム(2月10日):グラン・パレで開催され、世界中から多くの関係者が集まり、AIの未来について意見交換が行われました。
  • 首脳会議(2月11日):全体会議の中で、AI分野の主要な共同行動に関する議論が行われ、各国首脳が参加。

サミット期間中、フランス政府は「Current AI」という公共利益のためのAIプラットフォームとインキュベーターを立ち上げ、4億ドルの初期投資を発表しています。このプロジェクトは、フランス、インド、ドイツ、チリ、ケニア、モロッコ、ナイジェリア、フィンランド、スロベニア、スイスなどの政府や民間企業の支援を受けているということです。

共同声明と国際的な反応

サミットの共同声明では、AI技術の透明性や安全性の確保が謳われましたが、米国と英国はこの声明への署名を見送りました。 米国のバンス副大統領は、AI規制がイノベーションを阻害する可能性があるとの懸念を示し、より緩やかな規制を主張しました。過度な規制はAIの進化を妨げるといった内容の主張をされたということです。

その他、このサミットではAIのエネルギー消費や環境への影響についても議論が行われ、フランスはクリーンエネルギーを活用したAIインフラの構築に注力する姿勢を示しました。あくまでも私見ですが、フランスのクリーンを謳った政策については過去の事例もありますので、ストレートに受け取らず、慎重に見極めることが重要かと思います。

本題に戻りますが、今回の「AIアクションサミット」は、AI技術の持続可能で包括的な発展に向けた国際的な協力の重要性を再確認する場となりました。今後、各国間での具体的な協力や政策調整が求められます。

フランス政府の思惑と描きたいシナリオ

1. フランス主導のAI国際枠組みの確立

フランス政府が「AIアクションサミット」を開催し、多国間協力を強調した背景には、AIの国際的なガバナンスにおいて主導権を握りたいという意図があると考えられます。現在、AIのルール作りでは米国と中国が圧倒的な技術力と影響力を持つ一方、EUは厳格な規制を進めています。

フランスは、「安全で信頼できるAI」や「環境に優しいAI」という理念を前面に押し出し、欧州型のAIモデルを世界標準として確立しようとしています。

特に、今回のサミットでは「AIのグローバルガバナンス」が主要テーマの一つに挙げられており、フランスが新しい国際基準を主導するポジションを狙っていることが伺えます。これは、EUの「AI規制法」(AI Act)の影響力を強化し、欧州がAIのルールメーカーになるための布石とも考えられます。

2. 米英と距離を置き、グローバルサウスを取り込む戦略

サミットでは100カ国以上が参加しましたが、注目すべきは米国と英国が共同声明に署名しなかった点です。

これは、米英がAI規制に対してより緩やかなアプローチを取る一方、フランスがより厳格なガバナンスを求めていることを示しています。フランスの目的は、「アングロサクソン的な技術覇権」に対抗する形で、新興国やEU諸国を巻き込みつつ、独自のAI政策を推し進めることにあります。

特に、フランスはグローバルサウス(発展途上国・新興国)との連携を強化しようとしています。今回のサミットでも、インド、チリ、ケニア、モロッコ、ナイジェリアといった国々がAIの国際協力の枠組みに賛同しています。これは、米中の対立に巻き込まれず、中立的な立場でAIのルール作りを進めるための外交戦略の一環とも考えられます。

3. フランス国内のAI産業育成と「Current AI」プロジェクト

フランスはAIの開発において、米国のOpenAIや中国のBaiduのような世界的な大手プレイヤーを持たないという課題を抱えています。日本も似たような状況ですが、、、

しかし、フランス政府は今回のサミットを通じて、「Current AI」という公共利益のためのAIプラットフォームを立ち上げ、4億ドルの初期投資を発表しました。これは、フランス国内のAI産業を育成しつつ、欧州におけるAIの競争力を高める狙いがあると考えられます。

「Current AI」はフランスだけでなく、インド、ドイツ、チリ、ケニア、フィンランドなど複数の国と共同で進めるプロジェクトです。これは、AIを国家主導で開発するという中国型のモデルと、完全に市場原理に委ねる米国型のモデルの中間を狙うものとも言えます。フランス政府は、「公益性」と「イノベーション」を両立させるAI開発の枠組みを提案し、欧州や新興国との連携を強めながら、独自のAI経済圏を築こうとしているようです。

4. フランスが描くAIの未来:「持続可能で公平なAI」

サミットのテーマには、「環境に優しいAI」や「労働の未来」といった要素が含まれていました。これは、単なる技術競争ではなく、社会全体の利益を考慮したAI政策を推進するというフランスのビジョンを反映しています。

特に、AIのエネルギー消費に関する議論では、フランスが「クリーンエネルギーを活用したAIインフラの構築」に言及しており、環境面でもリーダーシップを発揮しようとしていることが分かります。これは、AIの持続可能な発展を目指すことで、気候変動対策やエネルギー政策と連携し、フランスの国際的な影響力を強化する狙いがあると考えられます。

当然、フランス主導の「持続可能で公平なAI」でありますので、日本にとっては「持続可能で公平なAI」になるとは限りません。むしろ、環境面を謳っている時点で、集金やいらぬ規制に雁字搦めにされる可能性も否定できません。”環境”を前面に押し出しているという点も見逃せません。

一般的に”環境”というと聞こえが良く、人が生きていく上でもっと重要且つ身近なテーマである為、反対意見を言いづらく、世界的な取り組みを謳い世界的な組織をつくれば集金しやすいという側面を持ち合わせています。前のセクションでも少しだけ触れましたが、「クリーン」をそのままストレートに受け取らず、慎重に見極めることが重要です。

また、このサミットでは「労働の未来」にについても議論されました。、AIが雇用を奪うのではなく、新たなスキルの習得や職業の創出を促進することが強調されたようです。これは、労働者の保護を重視するフランスらしい視点であり、国内の労働市場や教育政策とも連携させながら、AI時代の社会モデルをフランス主導で提案し、進めていこうとしていると考えられます。

まとめ:フランスのAI戦略と今後の展望

フランス政府は、「AIアクションサミット」を通じて、米中に依存しない第三のAIモデルを提示し、欧州や新興国を巻き込んだ国際的な枠組みを確立しようとしていると考えられます。

具体的には、以下のシナリオが見えてきています。

  1. フランス主導のAIガバナンスの確立
    • AIの国際的なルール作りを主導し、「欧州型AI規制」を世界基準にする。
    • 米英とは異なる立場を取り、新興国やEU諸国を取り込みながら影響力を強化する。
  2. 公共の利益に資するAIの推進
    • 「Current AI」プロジェクトを通じて、公益性を重視したAI開発を進める。
    • AIの透明性・安全性を高め、信頼できる技術として普及させる。
  3. 持続可能で公平なAIの実現
    • 環境に優しい低消費電力AIの開発を推進し、クリーンエネルギーと結びつける。
    • AIによる雇用の創出やスキル向上を支援し、労働市場の変化に対応する。
  4. AIの多極化とフランスの国際的な役割の拡大
    • 米中のAI覇権に対抗する「第三極」として、新興国との連携を強める。
    • 「技術の民主化」を掲げ、より多くの国がAI技術にアクセスできる仕組みを作る。

この戦略が成功すれば、フランスはAIの「倫理的リーダー」として国際社会における影響力を強化し、AI技術の未来を形成する重要なプレイヤーになる可能性があるでしょう。

日本および日本企業が取るべき対応策

フランス主導の「AIアクションサミット」で示されたAIの国際ガバナンスの方向性は…

解説記事「AIアクションサミットから見えてくるAIをめぐる世界の最新動向」の続きは

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本記事は、単なるサミットやAIの動向解説に留まらず、企業が直面する現実的な課題解決に直結する実践的なアプローチを提供するものです。AI関連システムの開発、導入は、将来的な事業の安定した稼働基盤となり、今後の事業における競争力の源泉となるでしょう。ぜひ、本記事の内容を活用いただき、貴社のAI導入のの一助としていただければと存じます。

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この記事を書いた人
株式会社APPSWINGBY
株式会社APPSWINGBY マーケティング

APPSWINGBY(アップスイングバイ)は、アプリケーション開発事業を通して、お客様のビジネスの加速に貢献することを目指すITソリューションを提供する会社です。

ご支援業種

情報・通信、医療、製造、金融(銀行・証券・保険・決済)、メディア、流通・EC・運輸 など多数

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監修
APPSWINGBY CTO川嶋秀一
株式会社APPSWINGBY  CTO 川嶋秀一

動画系スタートアップ、東証プライム R&D部門を経験した後に2019年5月に株式会社APPSWINGBY 取締役兼CTOに就任。
Webシステム開発からアプリ開発、AI、リアーキテクチャ、リファクタリングプロジェクトを担当。C,C++,C#,JavaScript,TypeScript,Go,Python,PHP,Vue.js,React,Angular,Flutter,Ember,Backboneを中心に開発。お気に入りはGo。

APPSWINGBY CTO川嶋秀一
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動画系スタートアップ、東証プライム R&D部門を経験した後に2019年5月に株式会社APPSWINGBY 取締役兼CTOに就任。
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