AI最先端国家米国の最新AI法規制動向

AI最先端国家米国の最新AI法規制動向

前回は、法整備が最も進んでいる欧州(EU)AI規制法を中心に、AIを安全に使う為のルールづくりがどのように行われ、日本企業としてどのような対策が必要になってくるかについてご紹介しました。今回は、「AI最先端国家米国の最新AI法規制動向」と題して、アメリカの最新AI法規制動向についてご紹介します。

現在、米国では、AI技術の急速な発展に伴い、その利用に関する法規制の議論が活発化しています。EUのように包括的な規制法は本記事執筆時点ではまだありませんが、連邦政府や州レベルで様々な取り組みが進んでいます。

米国連邦政府レベルの取り組み

AIの安全な開発と利用に関する大統領令

AIの安全な開発と利用に関する大統領令が2023年10月にバイデン大統領によって発令されました。この大統領令は、AIの無責任な使用によるリスクを軽減し、利益を最大化することを目的としています。

AIの安全な開発と利用に関する大統領令(外部リンク)

要点を簡単にまとめてみました。

  • 特定のAIモデル開発企業への情報開示義務
  • 大規模計算インフラを持つ企業への報告義務
  • AI開発目的のクラウドサービス提供企業への報告義務
  • 各連邦政府機関へのAIリスク評価の義務化
  • 消費者保護、ヘルスケア、教育など各分野での責任あるAI開発・展開の促進

AIリスクマネジメントフレームワーク(AI RMF)

国立標準技術研究所(NIST)が2023年1月に、AI技術のリスク管理に関する包括的なガイダンスとして「AIリスクマネジメントフレームワーク(AI RMF)」を発表しました。

AIリスクマネジメントフレームワーク(AI RMF)は、AI技術の開発、導入、利用におけるリスクを特定、評価、管理するためのフレームワークを提供し、信頼できるAIシステムの構築を支援することを目的としています。

AI Risk Management Framework(外部リンク)

NIST AI RMF Playbook(外部リンク)

AI RMFは、少々わかりにく部分もありますので、簡単にまとめてみます。

AI RMFの主な特徴
  • 自主的な活用: 企業や組織が自主的に活用することを推奨しており、法的拘束力はありません。
  • 柔軟性: AI技術の多様性と進化に対応するため、特定の技術や手法に依存しない柔軟なフレームワークとなっています。
  • 包括性: AIシステムのライフサイクル全体(設計、開発、導入、運用)におけるリスク管理をカバーしています。
  • 信頼性: AIシステムの信頼性を高めるための要素(正確性、安全性、説明可能性、プライバシー保護など)を重視しています。
AI RMFのコア

AI RMFは、以下のような組織にとって有用です。

  • 統治(Govern): AIリスク管理のための組織体制、ポリシー、手順を確立し、責任と権限を明確にする。
  • マップ(Map): AIシステムの特性、利用目的、影響範囲などを把握し、リスク要因を特定する。
  • 測定(Measure): AIシステムの性能、信頼性、安全性などを評価し、リスクレベルを測定する。
  • 管理(Manage): リスク評価に基づいて、適切なリスク対策を講じ、AIシステムの安全な運用を確保する。

AI RMFの日本企業への影響

AI RMFは、法的拘束力はありませんが、国際的なAIリスク管理のベストプラクティスとして注目されており、日本企業にとっても重要な参考資料となります。特に、以下のような点で役立ちます。

  • AIリスク管理体制の構築:AI RMFを参考に、自社のAIリスク管理体制を強化することができます。
  • 国際的な信頼性向上:AI RMFに準拠することで、国際的な信頼性を向上させることができます。
  • 顧客・社会からの信頼獲得:AIシステムの透明性や説明責任を高めることで、顧客や社会からの信頼を獲得することができます。

AI RMFは、AI技術の安全かつ倫理的な利用を促進するための重要なフレームワークです。日本企業は、AI RMFを活用することで、AIリスクを効果的に管理し、信頼できるAIシステムを構築・運用することができる有用且つ参考になるフレームワークですので、活用を検討してみることをお勧めします。

その他法案

米国でも、EU同様なAIの透明性、説明責任、公平性などを確保するための法案が議会で複数審議中されています。また、州レベルでも同様の審議がすすでいるようですので簡単にご紹介だけしておきます。

カリフォルニア州 消費者プライバシー保護法(CCPA)の改正

消費者プライバシー保護法(CCPA)を改正し、AIによる意思決定の透明性向上と差別防止のための規定を導入しています。

March 29, 2023年3月29日に更新のあったCalifornia Consumer Privacy Act Regulations(外部リンク)を見てみると、Final Regulations Text 以下文書が並んでいることから、カルフォルニア州におけるプライバシーに関する州法が一通り出そろった感があります。

一方で、余談にはなりますが、2024年9月4日にカリフォルニア州プライバシー保護局 (CPPA)のページに更新があり、ダークパターンについての施行勧告(外部リンク)がありました。もし気になる方がいらっしゃいましたら、チェックしてみてください。

コロラド州のAI規制法

米国コロラド州議会は2024年5月8日に、民間による人工知能(AI)の使用を際の規制法案として「S.B.205(外部リンク)を可決しました。

同法案は、2026 年 2 月 1 日以降、高リスク人工知能システム (高リスクシステム) の開発者に、高リスクシステムにおけるアルゴリズムによる差別の既知または合理的に予見可能なリスクから消費者を保護するために合理的な注意を払うことを義務付けています

コロラド州のAI規制法について以下に簡単にまとめてみました。

  • 高リスクシステムの利用者に対して、当該高リスクシステムに関する特定情報を開示する声明文を提供すること。
  • 高リスクシステムの利用者に対して、当該高リスクシステムの影響評価を完了するために必要な情報および文書を提供すること。
  • 開発者が開発または意図的かつ実質的に修正し、現在、利用者または他の開発者に提供している高リスクシステムの種類、およびこれらの各高リスクシステムの開発または意図的かつ実質的な修正から生じる可能性のあるアルゴリズムによる差別の既知または合理的に予見可能なリスクを開発者がどのように管理しているかを要約した公に利用可能な声明を作成すること。
  • 利用者からの信頼できる報告の発見または受領後90日以内に、高リスクシステムが引き起こした、または引き起こした可能性が高いと合理的に考えられる、アルゴリズムによる差別の既知または合理的に予見可能なリスクを、司法長官および既知の利用者または当該高リスクシステムの他の開発者に開示すること。

米国最新AI法規制動向のまとめ

米国では、AI法規制はまだ発展途上ですが、連邦政府や州レベルで様々な取り組みが進んでいます。日本企業も、米国市場への進出や米国企業との取引を検討する際には、これらの動向を注視し、適切な対応を行う必要があります。

特に、以下の点に注意が必要です。

  • AIリスク管理: AI RMFなどを参考に、AIシステムの開発・運用におけるリスク管理体制を強化する。
  • 透明性と説明責任: AIシステムの動作原理や利用データについて、利用者に対してわかりやすく説明する。
  • 公平性: AIシステムによる差別的な取り扱いを防ぐための対策を講じる。
  • プライバシー保護: 個人情報保護法などの関連法規を遵守し、個人データの適切な取り扱いを徹底する。
  • 最新情報の収集: アメリカのAI法規制は急速に変化しているため、常に最新情報を収集し、対応していく必要があります。

米国はAI技術開発において世界をリードしており、その法規制動向は日本を含む他の国々にも大きな影響を与える可能性があります。日本企業は、米国における最新動向を注視し、自社のAI戦略に反映させていくことが重要になります。

(ご注意)本記事は、2024年9月11日時点の情報に基づいています。法規制の内容は今後変更される可能性がありますので、最新情報をご確認ください。また、法の正確な解釈や法に対する対応等々につきましては、各専門家にお問い合わせください。

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この記事を書いた人

株式会社APPSWINGBY

株式会社APPSWINGBY マーケティング

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APPSWINGBY CTO川嶋秀一

株式会社APPSWINGBY
CTO 川嶋秀一

動画系スタートアップ、東証プライム R&D部門を経験した後に2019年5月に株式会社APPSWINGBY 取締役兼CTOに就任。
Webシステム開発からアプリ開発、AI、リアーキテクチャ、リファクタリングプロジェクトを担当。C,C++,C#,JavaScript,TypeScript,Go,Python,PHP,Vue.js,React,Angular,Flutter,Ember,Backboneを中心に開発。お気に入りはGo。