シーケンス学習とは

シーケンス学習は、時間的または論理的な順序を持つ一連のデータ(シーケンスデータ)のパターンや依存関係を分析し、学習するための機械学習の手法のことであり、自然言語処理、音声認識、株価予測などの分野で、過去の入力情報に基づいて次の要素や将来の傾向を予測するための、リカレントニューラルネットワーク(RNN)やTransformerなどに代表される深層学習モデルを用いた処理体系のことです。

シーケンス学習の概要と特徴

シーケンス学習(Sequence Learning)は、データ要素が互いに独立していると仮定する従来の機械学習手法とは異なり、データ要素間に存在する順序性時間的な依存関係をモデル化することを目的とします。

1. シーケンスデータの特性

シーケンスデータは、以下のような特徴を持ちます。

  • 順序性: データの並び順が意味を持つ(例: 「太郎は花子を愛している」と「花子は太郎を愛している」は単語は同じだが意味が異なる)。
  • 可変長: シーケンスの長さが一定ではない(例: 文章の長さ、発話の長さ、時系列データの期間は一定ではない)。
  • 長期的な依存関係: 遠く離れた過去のデータが、現在の予測に影響を与える可能性がある(例: 文章の冒頭で定義された主語が、文章末尾の動詞の形を決定する)。

2. モデルの進化

シーケンス学習は、特にディープラーニングの発展とともに進化してきました。

  • リカレントニューラルネットワーク(RNN): 過去の情報を「隠れ状態(Hidden State)」として保持し、次のステップの入力とともに再利用することで、順序性を学習する初期の主要モデル。しかし、長期的な依存関係の学習が難しいという勾配消失問題を抱えていました。
  • LSTM/GRU: RNNの長期依存関係の問題を克服するために、ゲート機構を導入したLong Short-Term Memory(LSTM)Gated Recurrent Unit(GRU)が開発されました。
  • Transformer: 後の自然言語処理の主流となったモデルで、RNNのような順次処理を行わず、自己注意機構(Self-Attention Mechanism)を用いてシーケンス内のすべての要素間の依存関係を並列的に計算・学習します。

主な目的は、入力シーケンス $X = (x_1, x_2, \ldots, x_T)$ が与えられたとき、出力シーケンス $Y = (y_1, y_2, \ldots, y_K)$ を生成する最適な写像を学習することです。

シーケンス学習の主要なタスクと応用

シーケンス学習モデルは、入力と出力のシーケンスの長さや対応関係によって、さまざまなタスクに応用されます。

1. シーケンス-トゥ-シーケンス(Seq2Seq)

入力と出力の両方がシーケンスであり、長さが異なる場合があるタスクです。

  • 応用例: 機械翻訳(例: 日本語の文章 $\to$ 英語の文章)、要約(長い文章 $\to$ 短い文章)、対話システム(発話 $\to$ 応答)。

2. シーケンス-トゥ-ベクター(Sequence-to-Vector)

入力はシーケンスですが、出力は単一のデータポイント(ベクター)であるタスクです。

  • 応用例: 感情分析(レビュー文章 $\to$ 肯定/否定)、時系列分類(一定期間の株価データ $\to$ 上昇/下落)、発話識別(音声 $\to$ 話者ID)。

3. ベクター-トゥ-シーケンス(Vector-to-Sequence)

入力は単一のデータポイント(ベクター)ですが、出力はシーケンスであるタスクです。

  • 応用例: 画像キャプション生成(画像 $\to$ 画像の内容を説明する文章)、音楽生成(ジャンルやテーマ $\to$ 楽曲)。

長期的な依存関係の学習

シーケンス学習における最も重要な技術的課題は、長期的な依存関係を効果的に捉えることです。

1. LSTMによるゲート機構

LSTMは、以下の3種類のゲートを通じて、過去の情報(隠れ状態 $h$ とセル状態 $c$)の流れを制御します。

  • 忘却ゲート(Forget Gate): 過去のセル状態 $c_{t-1}$ のうち、どれだけを忘れるべきかを決定します。
  • 入力ゲート(Input Gate): 現在の入力 $x_t$ から、新しい情報としてどれだけセル状態に追加すべきかを決定します。
  • 出力ゲート(Output Gate): 新しいセル状態 $c_t$ のうち、どれだけを次の隠れ状態 $h_t$(出力)として露出させるかを決定します。

このゲート機構により、誤差の勾配が長距離を移動する際にも減衰しにくくなり、数十、数百ステップ前の情報でも学習に利用できるようになります。

2. Transformerと自己注意機構

Transformerは、シーケンス内の任意の2つの要素間で、その関連度(注意度)を直接計算する自己注意機構(Self-Attention)を採用することで、シーケンスの長さに依存せず、すべての要素間の依存関係を並列的に学習することを可能にしました。これにより、特に長文の自然言語処理タスクにおいて、LSTM/GRUを凌駕する性能を実現しました。

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