米国で加速するワークフロー整理とAI活用 「マルチエージェント型AI」とは
米国では業務効率化と自動化を目的として、AIの導入が急速に進んでおり、その中でも複数のAIを組み合わせる「マルチエージェント型AI」のアプローチが注目を集めています。今回は米国内で導入と試行錯誤が行われている「マルチエージェント型AI」の動向についてご紹介します。
ワークフロー見直しとAI化の加速している背景
生産性と業務最適化への要請
米国では、リモートワークやデジタルトランスフォーメーション(DX)の流れが一段と加速しており、企業では「業務効率の抜本的な見直し」や「ワークフロー自体の再設計」が急務となっています。これに伴い、AIによる一部業務の自動化・省力化が一気に火が付き、AI導入が拡大しました。
特に、日々のルーティンとなっている様な事務作業やレポート作成など、人間が行うには時間がかかる業務をAIに任せ、クリエイティブな領域や専門性の高い業務に人材リソースを集中させる傾向が強まっています。
単一AIモデルでは対応しきれないケースの増加
これまで、GPTなどの大規模言語モデル(LLM)やRPAなどのツールを「単独」で導入し、業務を大きく自動化する試みが多く見られました。
しかし、実際には「文章生成」や「意思決定サポート」、「画像認識」、「音声認識」など、業務の種類や性質によって必要となるAIのアルゴリズムやデータの種類は多岐にわたるため、単一のAIで一元的に対応しようとすると性能に限界があったり、カスタマイズが難しかったりするケースが増えたため、各工程やタスクごとに最適なAIを選び、組み合わせる“マルチエージェント型”のアプローチが注目されるようになりました。
マルチエージェント型AIが注目される理由
マルチエージェント型AIが注目される理由について簡潔にまとめてみます。
1.専門性の高いAIの登場
米国のスタートアップや大手IT企業は、特定の業務プロセスに特化したAIソリューションを次々と開発しています。以下はAIソリューションの一例です。
- 画像解析: 医療画像解析に特化したAI、製造ラインの異常検知に特化したAIなど
- 自然言語処理: カスタマーサポート特化型、法務文書レビュー特化型など
- データ分析: BI(Business Intelligence)ダッシュボードと連携して高度な予測分析を行うAIなど
ここでご紹介する”業務”はそれぞれの領域での専門性が高く、AIの単一モデルではなく「複数の専門AIを組み合わせて使う」ほうが大きな効果が出ると認識されるようになっています。
2.柔軟なワークフロー構築と拡張性
複数AIを連携させることで、
- 個々のAIの弱点を補い合える
- 要件の変更やサービス拡大にも対応しやすい
という利点があります。大規模言語モデルをベースにしつつ、画像解析は専門のコンピュータビジョンAIを使う、データ分析には特化型AIを使うといった「ブロック的」な設計が可能になることで、必要に応じて各ブロックを入れ替えたり追加したりできる拡張性が大きな魅力となっています。
マルチエージェントAIが注目される背景には、単一AIでは対応が難しい複雑なタスクの存在や特定のタスクに特化したAIの方が高いパフォーマンスを発揮する場合があることの他、異なるAIエージェント間の協調や競争を通じて、より高度な知能や問題解決能力を獲得できる可能性があることなどが挙げられます。
マルチエージェント型AIの具体的な活用事例
マルチエージェント型AIの具体的な活用事例をご紹介します。以下は調査結果からの一例ではありますが、既に多くの業務をAIに置き変えようとする動きが加速していることがわかります。
- AIレポート作成エージェント: 結果を文書化し、社内向けにわかりやすいレポートを作成するAI
- アイデア生成エージェント: LLMを活用し新キャンペーンのコンセプトを提案
- 効果予測エージェント: 過去の売上データや類似キャンペーンの結果から売上予測を行う
- 顧客調査エージェント: SNS上の投稿や顧客レビューを解析(自然言語処理特化AI)
- サプライチェーン管理: 複数のAIエージェントが、需要予測、在庫管理、物流最適化などを連携して行うことで、サプライチェーン全体の効率性を向上させる。
- 顧客サービス: 複数のAIエージェントが、顧客からの問い合わせ対応、問題解決、パーソナライズされたサービス提供などを連携して行うことで、顧客満足度を向上させる。
- 金融取引: 複数のAIエージェントが、不正検知、リスク管理、ポートフォリオ最適化などを連携して行うことで、取引の安全性と効率性を向上させる。
- 医療診断: 複数のAIエージェントが、画像診断、病状分析、治療計画策定などを連携して行うことで、診断の精度と効率性を向上させる。
企業が独自で“AIオーケストレーション”基盤を構築する事例
大手企業やITコンサルティング企業の中には、複数のAIを管理・連携する“オーケストレーション基盤”を自社開発する動きもあります。
例えば、
- 製造業: 製造ラインの工程ごとに別の異常検知AIを導入し、それらの判定結果を集約して経営層や管理者が把握しやすいダッシュボードを提供。
- 金融業: 不正検知AI、リスク評価AI、顧客問い合わせサポートAIなどを連携させて、顧客と社内担当者の両面をサポートするソリューションを構築。
これらは自社業務の“ノウハウ”や業界特有の規制要件を反映させやすい利点があり、独自にプラットフォームを開発している企業も多く見られます。
課題と今後の展望
マルチエージェント型AIは、今後発展が期待されるシステムです。当然のことではありますが、現在抱えている課題とこれから作り出していくだろう輝かしい未来の展望について、簡単ににまとめておきます。
課題:データガバナンスと倫理面
複数のAIを組み合わせると、データの流れが複雑になり、
- プライバシーやセキュリティのリスク
- データ品質やバイアスの管理
といった課題がさらに大きくなります。システムを設計し開発する上でこの問題は様々な点を考慮する必要があり、表面にはでずらい問題ではありますがシステムを開発し運用管理する側の人々にとっては大きな課題となっています。
特に業界規制が厳しい金融やヘルスケア分野では、どのエージェントがどのデータにアクセスできるか、監査ログやコンプライアンスをどう確保するかが重要な検討事項となっています。
今後の展望:専門人材とプラットフォームの充実
米国におけるAI活用は今後ますます加速していくと予想されます。
特に、マルチエージェント型AIは、複雑な問題解決や高度な業務プロセスの最適化において重要な役割を果たすと考えられます。今後は、異なるAIエージェント間の連携や協調をどのように実現するか、また、マルチエージェントシステム全体の設計や管理をどのように行うかなどが重要な課題となってくることでしょう。
その為、「複数のAIを組み合わせる設計と運用を専門とする人材」=AIオーケストレーターやAIアーキテクトなどと呼ばれるポジションの需要が高まると予想しています。
また、マルチエージェント型AIのための共通プラットフォームやオープンスタンダードの確立も必要とされるくることでしょう。クラウド大手(AWS、Azure、Google Cloudなど)やITコンサル大手がこの領域に大規模投資を行い、機能やサポートを拡充していく流れは続く思われます。
まとめ
- 米国ではDX推進の一環として業務プロセス全体を見直し、AIで置き換えられるタスクを積極的に自動化する動きが加速している。
- 単一のAIモデルでは対応が難しいタスクが増えたことから、各タスクに最適なAIを組み合わせる“マルチエージェント型”が注目されている。
- Auto-GPTのように自律的に複数エージェントを動かす仕組みや、LangChainなどの連携フレームワークが普及し、導入ハードルは下がっている。
- 一方で、データガバナンスやセキュリティ、規制対応などの課題も増えており、それを統合的に管理する“オーケストレーション基盤”や専門人材の需要が高まっている。
米国では今後もマルチエージェント型AIの導入が進み、単発のツール導入からさらに踏み込んだ“業務改革”や“価値創造”に向けた活用が広がると見られます。企業や組織は、既存の業務をただ機械化するだけでなく、AIを複数組み合わせることで相乗効果を得られる体制の確立に注力しており、日本を含めた世界の企業にもその潮流が波及しつつあります。
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この記事を書いた人
株式会社APPSWINGBY マーケティング
APPSWINGBY(アップスイングバイ)は、アプリケーション開発事業を通して、お客様のビジネスの加速に貢献することを目指すITソリューションを提供する会社です。
ご支援業種
情報・通信、医療、製造、金融(銀行・証券・保険・決済)、メディア、流通・EC・運輸 など多数
監修
株式会社APPSWINGBY
CTO 川嶋秀一
動画系スタートアップ、東証プライム R&D部門を経験した後に2019年5月に株式会社APPSWINGBY 取締役兼CTOに就任。
Webシステム開発からアプリ開発、AI、リアーキテクチャ、リファクタリングプロジェクトを担当。C,C++,C#,JavaScript,TypeScript,Go,Python,PHP,Vue.js,React,Angular,Flutter,Ember,Backboneを中心に開発。お気に入りはGo。