抽象構文木とは

抽象構文木(Abstract Syntax Tree, AST)とは、ソースコードの構文構造を木構造で抽象的に表現したもの

抽象構文木(ちゅうしょうこうぶんき、Abstract Syntax Tree, AST)は、コンパイラやインタプリタ、その他のコード解析ツールにおいて、ソースコードの構文構造を、プログラミング言語の具体的な構文要素(括弧、セミコロンなど)を排除し、より抽象的かつ階層的な木構造で表現したものです。ASTは、プログラムの論理的な構造と、その中で実行される操作の階層関係を直感的に捉えることを可能にし、ソースコードの意味解析や変換、最適化、そして最終的な機械語への変換(コード生成)の基盤となります。

抽象構文木 の基本的な概念

コンパイラの処理過程において、ソースコードは複数の段階を経て機械語に変換されます。一般的な段階は以下の通りです。

  1. 字句解析(Lexical Analysis): ソースコードの文字列を、意味を持つ最小単位である**トークン(Token)**の並びに変換します(例:「int」「x」「=」「10」「;」)。
  2. 構文解析(Syntax Analysis / Parsing): トークンの並びがプログラミング言語の文法規則に従っているかを検証し、その構文構造をツリー形式で表現します。この段階で生成されるのが**構文木(Parse Tree / Concrete Syntax Tree, CST)**です。CSTは、文法の全ての詳細(例えば、括弧やセミコロンといった冗長な構文要素)を保持します。
  3. 抽象構文木(AST)の生成: CSTから、プログラムのセマンティクス(意味)にとって本質的な要素だけを抽出し、抽象的な木構造として再構成したものがASTです。ASTでは、プログラムの論理構造に直接関係しない構文要素は省略されます。

: x = y + z; というコードを考えます。

  • トークン列: IDENTIFIER(x), ASSIGN_OP(=), IDENTIFIER(y), ADD_OP(+), IDENTIFIER(z), SEMICOLON(;)
  • CST(具体構文木)の簡略イメージ: Statement └── ExpressionStatement └── Expression └── AssignmentExpression ├── Identifier(x) ├── AssignmentOperator(=) ├── AdditiveExpression │ ├── Identifier(y) │ ├── AddOperator(+) │ └── Identifier(z) └── Semicolon(;) このCSTは、セミコロンや代入演算子、加算演算子といった具体的な構文要素を全てノードとして含みます。
  • AST(抽象構文木)の簡略イメージ: Assignment ├── Target: Identifier(x) └── Value: BinaryOperator(+) ├── Left: Identifier(y) └── Right: Identifier(z) このASTでは、セミコロンが省略され、「=+`のような演算子がノードとして表現され、その子ノードとして操作対象(オペランド)が配置されています。これにより、コードの「意味」がより明確に表現されます。

抽象構文木 の特徴と利点

ASTは、コンパイラや開発ツールにとって不可欠な中間表現であり、以下の特徴と利点を提供します。

  1. 意味解析の容易さ: プログラミング言語の論理的な意味(セマンティクス)の解析を容易にします。ASTは、変数のスコープ解決、型チェック、エラー検出など、プログラムの意味に関する情報を追加するのに適しています。
  2. プラットフォーム独立性: ASTは、特定のCPUアーキテクチャやオペレーティングシステムに依存しない抽象的な表現であるため、異なるターゲットマシンへのコード生成を柔軟に行えます。
  3. 最適化の基盤: ASTは、コード最適化の様々な段階で利用されます。例えば、定数畳み込み(x = 1 + 2;x = 3; に変換)、共通部分式の削除、ループ最適化など、プログラムの実行効率を向上させる変換をAST上で行うことができます。
  4. コード生成の簡素化: 最適化されたASTから、最終的な機械語や中間コード(バイトコードなど)を生成するプロセスが簡素化されます。
  5. 多様なツールへの応用: コンパイラやインタプリタだけでなく、コード品質ツール(リンター、静的解析ツール)、リファクタリングツール、IDEのコード補完機能、自動テストケース生成など、幅広い開発ツールでASTが利用されています。

抽象構文木 の応用分野

  • コンパイラとインタプリタ: プログラミング言語のソースコードを機械語やバイトコードに変換する際の、主要な中間表現として不可欠です。
  • 静的コード解析ツール(Static Analysis Tools): プログラムを実行せずに、コードの潜在的なバグ、セキュリティ脆弱性、コーディング規約違反などを検出するためにASTを解析します。
  • 統合開発環境(IDE): コードのハイライト、自動補完、エラー検出、リファクタリング支援、コードナビゲーションなど、プログラマーの生産性を向上させる機能の多くがASTに基づいて実装されています。
  • コード変換ツール(Transpilers): ある言語で書かれたコードを別の言語に変換する際に、変換元のコードをASTに変換し、それを目的言語のASTに変換してからコードを生成します。
  • ドキュメント生成ツール: ソースコードからAPIドキュメントなどを自動生成する際に、ASTを解析して関数やクラスの構造、コメントなどを抽出します。
  • プログラミング教育: コードの構造を視覚的に理解するためのツールや、自動採点システムなどで利用されることがあります。

抽象構文木(AST)は、ソースコードの構文構造を、プログラミング言語の具体的な構文要素を排除し、より抽象的かつ階層的な木構造で表現したものです。これは、コンパイラやインタプリタにおける意味解析、コード最適化、コード生成の基盤として機能します。また、静的解析ツール、IDE、コード変換ツールなど、多様な開発ツールにおいても不可欠な中間表現として利用されています。ASTの概念を理解することは、プログラミング言語の仕組みや、それを扱う各種ツールの動作原理を深く理解するために極めて重要です。

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