システムの「負債コード」

システムの負債コード

企業のデジタル基盤を支える”ソフトウェア”が、知らぬ間に巨額の損失を生み出している事実をご存知でしょうか。

これは「負債コード」と呼ばれる現象で、一見正常に動作するシステムの内部に蓄積された技術的な問題が、企業の競争力を静かに蝕んでいる状況を指します。

本記事では、多くの企業が直面している負債コードの実態を詳細に分析し、その深刻な影響と対策について専門的な視点から解説いたします。

あなたのシステムに潜む「負債コード」の実態

負債コードがもたらす年間損失額の試算

日本国内で「負債コード」に対する影響を調査した報告やレポートの類を見つけることができなかったので、米国のCISQで調査された内容をご紹介しておきます。

 Cost of Poor Software Quality in the U.S.: A 2022 Report ※外部リンク

内容をざっくりと要約すると、

  • 米国だけで蓄積された技術的負債の総額は約1.52兆ドル(約228兆円)に達していた。
  • 既存のコードベースを変更する上で大きな障害となっている。
  • サイバーセキュリティとソフトウェアサプライチェーンの問題、特にオープンソースコンポーネントの問題が、この問題の重要な要因となっている。
  • ソフトウェア品質の低さによる総コストは、技術的負債や運用上の失敗などの問題により、少なくとも 2.41 兆ドルに達した。

詳しく知りたい方は、上記のリンクからCISQのレポートを是非読んでみてください。

開発者の時間損失

米SaaSの開発者が、開発者の時間損失について調査した結果、開発者は週42%の時間(13.5時間)を技術的負債の対応に費やしており、これは年間約850億ドルの機会損失を生み出しているという結果をまとめました。

開発者の働く時間のほぼ半分が、本来不要だった作業に奪われてしまっているということになります。

過去の重大インシデント事例

負債コードは単なる開発効率の問題ではないということは前述した通りですが、実際のビジネスの現場で深刻な影響を与えた事例をご紹介します。

事例1: 金融システムの大規模障害

2019年、海外の大手銀行のオンラインバンキングシステムで発生した3日間のサービス停止は、長年蓄積された負債コードが原因でした。

以下に、”障害の発端となった原因“と”障害発生後に発生した問題“をまとめてご紹介します。

障害の発端と障害対応時に発生した問題:

  • 古いコードベースに新機能を継ぎ足し続けた結果、システム全体が複雑化された状態だった
  • 一つのモジュールの更新が予期しない連鎖障害を引き起こした
  • 復旧作業中も負債コードが障害となり、対応時間が大幅に延長した

影響

  • 直接的損失: 約50億円(取引停止による機会損失)
  • 間接的損失: 顧客離れによる長期的収益減少
  • 対応コスト: 緊急対策チーム編成で約2億円

事例2: ECプラットフォームの大幅パフォーマンス低下

大手ECサイトにおける「セール期間中のアクセス集中による性能劣化」事件では、負債コードが根本原因となりました。

技術的背景:

  • 短期的な修正を重ねた結果、データベースクエリが非効率化
  • キャッシュ機能の実装が不完全で、同一処理の重複実行が頻発
  • モニタリング機能の負債により、問題の早期発見が困難

ビジネス影響:

  • 売上機会損失: 約15億円(2日間のサイト不安定化)
  • カスタマーサポート対応増加: 約3,000万円
  • ブランドイメージ毀損による中長期的影響

事例3: 製造業DXプロジェクトの頓挫

ある製造業企業でのデジタル変革プロジェクトが、既存システムの負債コードにより予算超過で中断された事例です。

プロジェクト概要:

  • 予算: 10億円
  • 期間: 2年間
  • 目標: 生産管理システムのデジタル化

負債コードの影響:

  • 既存システムとの連携部分で想定外の複雑性が発覚
  • レガシーコードの解析に6ヶ月の追加期間が必要
  • 最終的にプロジェクト予算が2倍に膨張し、中断を余儀なくされる

負債コードを放置したことが理由で、大きな障害につながったケースをご紹介しました。

次は、負債コードを放置した結果発生するリスクをマトリックス表でまとめたましたので、下記に貼り付けておきます。

負債コードを放置するリスクマトリックス

以下は、負債コードのリスクを体系的に評価するため、影響度と発生確率のマトリックスで整理したものです。

予想損失額(年間)は、システムの規模に大きく影響するものですので、あくまで参考として、影響の大きさを金額という数値で表した指標となる数字です。

リスクマトリックス表

リスクカテゴリ発生確率影響度リスクレベル予想損失額(年間)
システム障害極大1億円〜50億円
開発効率低下極高3,000万円〜3億円
セキュリティ脆弱性極高5億円〜100億円
技術者離職1,000万円〜1億円
競争力低下5,000万円〜10億円
新機能開発遅延極高2,000万円〜2億円
負債コードを放置するリスクマトリックス

まとめ

本章で明らかになった負債コードの実態は、多くの企業にとって看過できない深刻な問題です。年間数億円から数十億円の損失、開発者の生産性の大幅な低下、そして企業の競争力に直結するシステム障害リスクの増大など、負債コードは企業経営の根幹を脅かす要因となっています。

特に注目すべきは、これらの問題が時間の経過とともに指数関数的に悪化する点です。今日の小さな問題が、明日の経営危機につながる可能性があるのです。

企業の持続的成長のためには、負債コードへの戦略的な取り組みが不可欠であることを、ぜひご理解ください。

APPSWINGBYは、最先端の技術の活用と、お客様のビジネスに最適な形で実装する専門知識を有しております。システムのセキュリティ対策としてのシステムアーキテクチャの再設計からソースコードに潜むセキュリティ脆弱性の改修の他、リファクタリング、リアーキテクチャ、DevOps環境の構築、ハイブリッドクラウド環境の構築、テクノロジーコンサルティングサービスなど提供しています。

貴社の負債コードへの対策等についてご相談されたい方は、お問い合わせフォームからお気軽にご連絡ください。システムの専門家が、貴社の課題解決をサポートいたします。

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この記事を書いた人
株式会社APPSWINGBY
株式会社APPSWINGBY マーケティング

APPSWINGBY(アップスイングバイ)は、アプリケーション開発事業を通して、お客様のビジネスの加速に貢献することを目指すITソリューションを提供する会社です。

ご支援業種

情報・通信、医療、製造、金融(銀行・証券・保険・決済)、メディア、流通・EC・運輸 など多数

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監修
APPSWINGBY CTO川嶋秀一
株式会社APPSWINGBY  CTO 川嶋秀一

動画系スタートアップや東証プライム上場企業のR&D部門を経て、2019年5月より株式会社APPSWINGBY 取締役兼CTO。
Webシステム開発からアプリ開発、AI導入、リアーキテクチャ、リファクタリングプロジェクトまで幅広く携わる。
C, C++, C#, JavaScript, TypeScript, Go, Python, PHP, Java などに精通し、Vue.js, React, Angular, Flutterを活用した開発経験を持つ。
特にGoのシンプルさと高パフォーマンスを好み、マイクロサービス開発やリファクタリングに強みを持つ。
「レガシーと最新技術の橋渡し」をテーマに、エンジニアリングを通じて事業の成長を支えることに情熱を注いでいる。

APPSWINGBY CTO川嶋秀一
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動画系スタートアップや東証プライム上場企業のR&D部門を経て、2019年5月より株式会社APPSWINGBY 取締役兼CTO。
Webシステム開発からアプリ開発、AI導入、リアーキテクチャ、リファクタリングプロジェクトまで幅広く携わる。
C, C++, C#, JavaScript, TypeScript, Go, Python, PHP, Java などに精通し、Vue.js, React, Angular, Flutterを活用した開発経験を持つ。
特にGoのシンプルさと高パフォーマンスを好み、マイクロサービス開発やリファクタリングに強みを持つ。
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