Multi-Regionとは
Multi-Regionは、クラウドコンピューティングにおいて、アプリケーションやデータストアを地理的に離れた複数のリージョン(地域)にデプロイし、グローバルな冗長性と低遅延なサービス提供を実現するための設計パターンのことです。
Multi-Regionの概要とグローバルインフラストラクチャ
Multi-Region(マルチリージョン)構成は、単一のクラウドリージョン内での障害に対応するMulti-AZ(マルチアベイラビリティゾーン)構成よりも、さらに高いレベルのグローバルな耐障害性とパフォーマンスを追求するアーキテクチャ戦略です。
リージョンとは、AWSやAzureなどのクラウドサービス事業者が物理的にデータセンター群を展開している地理的なエリア(例:東京、バージニア、フランクフルト)を指し、各リージョンは互いに独立しています。
この構成を採用する主な理由は、以下の2点に集約されます。
- 究極の災害対策(DR): 地震や広域ネットワーク障害など、リージョン全体を巻き込む大規模な自然災害や障害が発生した場合でも、他のリージョンでサービスを継続的に提供できるようにすること。
- グローバルなユーザー体験の向上: ユーザーの地理的な位置に近いリージョンからサービスを提供することで、ネットワーク遅延(レイテンシ)を最小限に抑え、快適なユーザー体験を実現すること。
主な目的は、地理的な大規模障害からの回復力(レジリエンス)を確保し、世界中のユーザーに対して一貫した高いパフォーマンスのサービスを提供することです。
Multi-Regionの技術的設計パターン
Multi-Region構成を実装するには、データとアプリケーションの同期、およびトラフィックのルーティングにおいて高度な設計が求められます。
1. データレプリケーション(データの同期)
複数のリージョン間でデータを共有することは、最も技術的に複雑な課題の一つです。
- 非同期レプリケーション: ほとんどのアプリケーションでは、リージョン間のネットワーク遅延が大きいため、非同期でデータを複製する手法が一般的です。この場合、障害発生時にわずかなデータ損失(RPO > 0)が発生する可能性がありますが、サービスのパフォーマンスを維持できます。
- アクティブ・アクティブ(Active-Active): 複数のリージョンで同時に読み書き(Read/Write)のトラフィックを処理する構成です。ユーザーに最も近いリージョンで処理が行われるため、低遅延を実現しますが、競合(Conflict)の解決やデータの整合性維持が非常に難しくなります。
- アクティブ・パッシブ(Active-Passive): 一つのリージョンをプライマリ(アクティブ)とし、他のリージョンをスタンバイ(パッシブ)として待機させる構成です。フェイルオーバー時には手動または自動で切り替えが発生しますが、データの整合性管理は比較的容易です。
2. グローバルなトラフィックルーティング
ユーザーからのアクセスを、最も近い、または最も応答性の高いリージョンにインテリジェントに誘導する必要があります。
- DNSベースルーティング: Amazon Route 53などのグローバルDNSサービスが提供するレイテンシベースルーティングや地理的ルーティング機能を使用し、リクエスト元に最も近いリージョンまたは最高のパフォーマンスを示すリージョンへトラフィックを誘導します。
- ロードバランシング: 各リージョンに配置されたロードバランサーが、リージョン内のリソースにトラフィックを分散します。
導入における考慮事項
Multi-Region構成は、高いメリットをもたらしますが、同時に以下の複雑な課題を伴います。
- データ整合性(Consistency): データが複数のリージョンに分散されるため、データの整合性を厳密に保つことが困難になります。結果整合性(Eventual Consistency)を受け入れるか、整合性を確保するための複雑なメカニズム(例:分散トランザクション)を実装する必要があります。
- 法規制の遵守: データの物理的な保存場所が複数の国や地域にまたがるため、GDPR(EU一般データ保護規則)やその他の地域のデータ主権に関する法律を遵守するための複雑な対応が求められます。
- コスト増大: 複数のリージョンでインフラストラクチャを維持し、リージョン間でデータを転送(複製)するためのネットワーク費用が発生するため、コストが単一リージョン構成よりも大幅に増加します。
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