AdamWとは

AdamWは、ディープラーニングにおけるニューラルネットワークのパラメータ(重み)を最適化するためのアルゴリズムの一つであり、従来のAdam最適化手法が抱える、重み減衰(Weight Decay)と学習率(Learning Rate)の相互作用による汎化性能の低下という課題を解決するために提案された手法のことです。

AdamWの概要とAdamからの進化

AdamW(Adam with decoupled Weight decay、重み減衰を分離したAdam)は、2017年に発表された最適化アルゴリズム(Optimizer)です。深層学習モデルの訓練において、モデルの性能を向上させるためには、学習の安定性と、訓練データ以外の未知のデータに対する予測能力(汎化性能)が重要となります。

従来のAdam(Adaptive Moment Estimation)は、高速な収束で広く利用されていますが、L2正則化($L_2$ Regularization)と重み減衰を適用する際に、学習率の適応的スケーリング(調整)が正則化の効果を弱めてしまうという問題(結合問題)を抱えていました。その結果、Adamで訓練されたモデルは、他の最適化手法(例:SGD with Momentum)と比較して汎化性能が低下する傾向がありました。

AdamWは、この問題を解決するため、重み減衰の処理を勾配更新のステップから分離(decouple)させ、独立して適用するように改良されました。

主な目的は、Adamの持つ高速な収束という利点を維持しつつ、適切な重み減衰を適用することで、モデルの汎化性能を大幅に向上させることです。

AdamWの技術的仕組みと重み減衰の分離

L2正則化と重み減衰は、どちらもモデルの重み $w$ の大きさにペナルティを課すことで過学習を防ぐ手法ですが、最適化の文脈では異なる意味を持ちます。

1. 従来のAdam + L2正則化(結合された処理)

従来のAdamでは、L2正則化は損失関数に項を追加することで実装されていました。

L_{Adam} = L(\theta) + \frac{\lambda}{2} \sum_{i} w_i^2

ここで、$\lambda$ は正則化係数です。この損失 $L_{Adam}$ の勾配を計算すると、重み $w$ の勾配 $g$ は以下のようになります。

g' = \frac{\partial L}{\partial w} + \lambda w

この勾配 $g’$ を用いてAdamの更新式が適用されますが、Adamの更新では、勾配 $g’$ が過去の二乗勾配 $\hat{v}_t$ の平方根で割られます。この適応的スケーリングにより、重み減衰項 $\lambda w$ の効果もスケーリングされ、意図した正則化の効果が弱まったり、均一に適用されなくなったりする問題が発生していました。

2. AdamWによる重み減衰の分離(分離された処理)

AdamWでは、L2正則化の項を損失関数から取り除き、重み減衰を勾配更新ステップの後に独立して適用します。

AdamWの重み更新ステップは、以下の2つの部分に分離されます。

  1. Adamによる勾配更新: L2正則化を含まない純粋な損失 $L(\theta)$ の勾配 $\frac{\partial L}{\partial w}$ のみを用いて、Adamの更新を行います。
  2. 分離された重み減衰: その後、更新された重み $w_t$ に対して、学習率 $\alpha$ に正則化係数 $\lambda$ を乗じた項を用いて、線形的に重みを減衰させます。

w_{t+1} = w_{t+1} - \alpha \lambda w_t

この分離により、重み減衰はアダプティブなスケーリングの影響を受けることなく、全ての重みに均一に適用されるようになり、SGD with Momentumと同様の強力な正則化効果が得られます。

AdamWの優位性

  • 汎化性能の向上: 正しい重み減衰が適用されることで、モデルが過学習に陥りにくくなり、未知のデータに対する予測精度(汎化性能)が向上します。
  • Adamのメリット維持: Adamの持つ高速な収束性や、スパースな勾配に対する適応性のメリットはそのまま維持されます。

AdamWは、現在、自然言語処理(NLP)分野のTransformerモデルをはじめ、画像認識や大規模モデルの訓練において、最も広く推奨される最適化手法の一つとなっています。

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