クラウドネイティブ時代のリアーキテクチャ戦略
- 1. 1.なぜ今、リアーキテクチャが必要なのか?
- 1.1. クラウドネイティブ時代の到来とレガシーシステムの課題
- 1.1.1. クラウドネイティブ時代の到来とレガシーシステムの課題
- 1.2. リアーキテクチャの目的とメリット
- 1.3. システム担当者が直面するリアーキテクチャのジレンマ
- 2. 2. リアーキテクチャの基礎知識: 重要な概念とアプローチ
- 2.1. 1.モノリシックアーキテクチャ vs. マイクロサービスアーキテクチャ
- 2.1.1.1. モノリシックアーキテクチャ
- 2.1.1.2. マイクロサービスアーキテクチャ
- 2.2. 2.ストラングラーパターンと段階的リアーキテクチャ
- 2.3. 3.コンテナ技術とオーケストレーションツールの活用
- 2.3.1.1. コンテナ技術 (Dockerなど)
- 2.3.1.2. オーケストレーションツール (Kubernetesなど)
- 3. 3. クラウドを活用したリアーキテクチャ戦略:AWS、GCP、Azure
- 3.1.1. AWS
- 3.1.2. GCP
- 3.1.3. Azure
- 3.1. サーバーレスアーキテクチャとマネージドサービスの活用
- 3.1.1. サーバーレスアーキテクチャ
- 3.1.2. マネージドサービス
- 3.2. クラウドネイティブデータベースの導入とデータ移行戦略
- 4. 4. リアーキテクチャプロジェクトの計画と実行:避けては通れない課題と対策
- 4.1.1. ステークホルダーとの合意形成とコミュニケーション
- 4.1.1.1. 課題
- 4.1.1.2. 対策
- 4.1. リスク管理とコスト最適化
- 4.1.1.1. 課題
- 4.1.1.2. 対策
- 4.2. 開発チームのスキルアップと体制構築
- 4.2.1. 課題
- 4.2.2. 対策
- 5. 5.まとめ:リアーキテクチャの未来とシステム担当者の役割
- 5.1. クラウドネイティブ時代のリアーキテクチャの展望
- 5.2. システム担当者が担うべき責任とリーダーシップ
- 5.3. 継続的な改善とイノベーションへの取り組み
- 6. おわりに
1.なぜ今、リアーキテクチャが必要なのか?
クラウドネイティブ時代の到来とレガシーシステムの課題
クラウド、コンテナ、マイクロサービス、そしてDevOps。これらの技術の進化は、IT業界に「クラウドネイティブ」という新たなパラダイムをもたらしました。このパラダイムシフトは、企業にアジリティ、スケーラビリティ、そしてコスト効率の向上といった多大なメリットをもたらす一方で、既存のレガシーシステムとの深刻なギャップを生み出しています。
クラウドネイティブ時代の到来とレガシーシステムの課題
レガシーシステムは、長年の運用の中で複雑化し、技術的負債を抱えていることが多く、クラウドネイティブな環境への適応が困難です。レガシーシステムが抱える課題として、しばしば以下のようなポイントが挙げられています。
- スケーラビリティの限界: トラフィックの急増に対応できず、システム全体の性能が低下する。
- 柔軟性の欠如: 新機能の追加や変更に時間がかかり、ビジネスの変化に迅速に対応できない。
- 運用コストの増大: 老朽化したハードウェアやソフトウェアの保守費用が嵩む。
- セキュリティリスクの増大: 脆弱性への対応が遅れ、サイバー攻撃の標的になりやすい。
これらの課題は、企業の競争力を低下させ、デジタルトランスフォーメーション(DX)の足かせとなる可能性があります。
リアーキテクチャの目的とメリット
リアーキテクチャとは、既存のシステムを根本的に再設計し、新たな技術やアーキテクチャを採用することで、上記のような課題を解決する取り組みです。リアーキテクチャの主な目的とメリットは、以下の通りです。
- クラウドネイティブ化によるアジリティとスケーラビリティの向上: クラウドの特性を最大限に活かし、ビジネスの変化に柔軟かつ迅速に対応できるシステムを実現する。
- マイクロサービスアーキテクチャによる開発効率と保守性の向上: システムを独立性の高い小さなサービスに分割することで、開発チームの自律性を高め、継続的なデリバリーを可能にする。
- 運用コストの削減: クラウドの従量課金制やマネージドサービスを活用することで、ハードウェアやソフトウェアの保守費用を削減する。
- セキュリティの強化: 最新のセキュリティ技術やプラクティスを導入することで、システムの脆弱性を解消し、セキュリティリスクを低減する。
システム担当者が直面するリアーキテクチャのジレンマ
リアーキテクチャは、企業にとって多大なメリットをもたらす一方で、システム担当者にとっては大きな挑戦でもあります。
既存システムの維持と新システム開発の両立が必要となるリアーキテクチャは、既存システムの運用を継続しながら、新システムの開発を進める必要がある1ため、リソースやスケジュールの管理の難易度が高くなります。また、レガシーシステムに蓄積された技術的負債を解消するためには、多大な時間と労力が必要にもなります。
当然、リアーキテクチャは、企業のビジネスに大きな影響を与えるため、経営層や関係部署との合意形成が不可欠となります。また、リアーキテクチャは、システムの停止やデータ損失などのリスクを伴うため、綿密な計画とリスク管理が求められます。
これらのジレンマを乗り越えるためには、リアーキテクチャの目的とメリットを明確にし、ステークホルダーとのコミュニケーションを密にすることが重要です。また、段階的なアプローチを採用することで、リスクを最小限に抑えながら、リアーキテクチャを進めることができます。
2. リアーキテクチャの基礎知識: 重要な概念とアプローチ
リアーキテクチャを成功させるためには、その基礎となる概念とアプローチを理解することが重要です。ここでは、リアーキテクチャの戦略を立てる上で欠かせない3つの要素について詳しく解説します。
1.モノリシックアーキテクチャ vs. マイクロサービスアーキテクチャ
リアーキテクチャを考える上で、まず理解しておきたいのが「モノリシックアーキテクチャ」と「マイクロサービスアーキテクチャ」の違いです。
モノリシックアーキテクチャ
- 全ての機能が一つのアプリケーションに統合されている
- 単一のコードベースで管理される
- シンプルで開発しやすいが、規模が大きくなると複雑化し、変更が困難になる
- 一部の変更が他の部分に影響を与える可能性があるため、デプロイリスクが高い
マイクロサービスアーキテクチャ
- アプリケーションを独立した小さなサービスに分割する
- 各サービスは独自のコードベースとデータストアを持つ
- サービス間の通信はAPIを介して行われる
- 開発、デプロイ、スケーリングが独立して行えるため、柔軟性が高い
- 一部の障害がシステム全体に波及するリスクが低い
クラウドネイティブな環境では、マイクロサービスアーキテクチャが主流となっています。これは、マイクロサービスがクラウドの特性であるスケーラビリティ、可用性、耐障害性と親和性が高いためです。
2.ストラングラーパターンと段階的リアーキテクチャ
リアーキテクチャを一度に実施することは、リスクが高く、現実的ではありません。そこで有効なのが、「ストラングラーパターン」と呼ばれる段階的なアプローチです。
ストラングラーパターンでは、既存のモノリシックアプリケーションを徐々に新しいマイクロサービスに置き換えていきます。具体的には、以下の手順で行います。
- 新しい機能はマイクロサービスとして開発し、既存のモノリシックアプリケーションから呼び出す
- 既存の機能を徐々にマイクロサービスに移行する
- 最終的に、全ての機能がマイクロサービスに移行され、モノリシックアプリケーションは廃止される
このアプローチにより、リアーキテクチャのリスクを低減し、ビジネスへの影響を最小限に抑えながら、段階的に新システムに移行することができます。
3.コンテナ技術とオーケストレーションツールの活用
リアーキテクチャにおいて、コンテナ技術とオーケストレーションツールは重要な役割を果たします。以下にコンテナ技術とオーケストレーションツールの特長をあげますが、これらの技術を活用することで、リアーキテクチャの効率と信頼性を向上させることができます。
コンテナ技術 (Dockerなど)
- アプリケーションとその依存関係をパッケージ化し、ポータブルな環境で実行できるようにする
- 環境の違いによる問題を解消し、開発、テスト、本番環境の一貫性を確保する
- リソースの効率的な利用を促進する
オーケストレーションツール (Kubernetesなど)
- 大規模なコンテナ環境を管理し、自動化されたデプロイ、スケーリング、自己修復などの機能を提供する
- マイクロサービスアーキテクチャの運用を効率化する
システムアーキテクチャの重要性 ~APPSWINGBYがシステムアーキテクチャを重要視する理由
3. クラウドを活用したリアーキテクチャ戦略:AWS、GCP、Azure
クラウドコンピューティングは、リアーキテクチャを成功させるための強力な武器となります。AWS、GCP、Azureといった主要なクラウドプロバイダーは、それぞれ豊富なサービスと機能を提供しており、これらを効果的に活用することで、レガシーシステムのモダナイゼーションを効率的に進めることができます。
各クラウドプロバイダーが提供するサービスは多岐にわたりますが、リアーキテクチャにおいて特に重要なサービスをいくつか紹介します。
AWS
- EC2 (Elastic Compute Cloud): 仮想サーバーを提供する基盤サービス。オートスケーリングやロードバランシングなどの機能を活用することで、柔軟なインフラ構築が可能。
- Lambda: サーバーレスコンピューティングサービス。イベント駆動型の処理に最適で、インフラ管理の手間を削減。
- Aurora: MySQLおよびPostgreSQL互換のリレーショナルデータベースサービス。高可用性とスケーラビリティを実現。
GCP
- Compute Engine: 仮想マシンインスタンスを提供するサービス。カスタムマシンタイプやプリエンプティブルVMなど、柔軟な料金体系が特徴。
- Cloud Functions: サーバーレスコンピューティングサービス。イベント駆動型の処理に最適で、開発生産性を向上。
- Cloud Spanner: グローバル規模で水平スケーリング可能なリレーショナルデータベースサービス。高可用性と強整合性を両立。
Azure
- Virtual Machines: 仮想マシンインスタンスを提供するサービス。WindowsやLinuxなど、さまざまなOSに対応。
- Functions: サーバーレスコンピューティングサービス。イベント駆動型の処理に最適で、インフラ管理の手間を削減。
- Cosmos DB: マルチモデルデータベースサービス。NoSQL、リレーショナル、グラフなど、さまざまなデータモデルに対応。
これらのサービスを組み合わせることで、マイクロサービスアーキテクチャやサーバーレスアーキテクチャなど、クラウドネイティブなシステムを構築することができます。
サーバーレスアーキテクチャとマネージドサービスの活用
リアーキテクチャにおいて、サーバーレスアーキテクチャとマネージドサービスの活用は、開発効率と運用コストの削減に大きく貢献します。以下にサーバーレスアーキテクチャとマネージドサービスを挙げますが、これらの技術を活用することで、開発者はビジネスロジックの実装に集中でき、インフラ管理の負担を軽減することができます。
サーバーレスアーキテクチャ
- サーバーのプロビジョニングや管理が不要
- イベント駆動型の処理に最適
- スケーラビリティと可用性が高い
- 利用した分だけ課金されるため、コスト効率が良い
マネージドサービス
- データベース、メッセージキュー、キャッシュなど、さまざまなサービスが提供される
- インフラ管理の手間を削減
- 高可用性とセキュリティを確保
クラウドネイティブデータベースの導入とデータ移行戦略
リアーキテクチャでは、既存のデータベースをクラウドネイティブなデータベースに移行することも重要なステップです。クラウドネイティブデータベースは、クラウド環境に最適化されており、スケーラビリティ、可用性、パフォーマンスに優れています。
データ移行戦略としては、以下のような方法が考えられます。
- リフトアンドシフト: 既存のデータベースをそのままクラウドに移行する
- スキーマ変換: データベースのスキーマを変更して、クラウドネイティブなデータベースに移行する
- 段階的移行: 一部のデータを先行して移行し、徐々に全体を移行する
データ移行は、慎重な計画と実行が必要な作業です。データの整合性や可用性を確保するために、十分なテストと検証を行うことが重要です。
クラウドを活用したリアーキテクチャは、レガシーシステムのモダナイゼーションを加速させ、企業の競争力を高めるための有効な手段です。各クラウドプロバイダーのサービスを最大限に活用し、最適な戦略を立てることで、リアーキテクチャプロジェクトの成功確率を高めることができます。
システム開発プロジェクトにおけるシステムアーキテクチャデザインの設計プロセス
4. リアーキテクチャプロジェクトの計画と実行:避けては通れない課題と対策
リアーキテクチャは、技術的な側面だけでなく、ビジネス、組織、そして人材に関わる多岐にわたる課題を伴う複雑なプロジェクトです。ここでは、リアーキテクチャプロジェクトを成功に導くために考慮すべき重要な課題と、その対策について解説します。
ステークホルダーとの合意形成とコミュニケーション
リアーキテクチャは、企業のビジネスに大きな影響を与える可能性があるため、経営層、IT部門、関連部署など、様々なステークホルダーの理解と協力が不可欠です。
課題
- 経営層は、リアーキテクチャの必要性や投資対効果を理解していない場合がある。
- IT部門は、新しい技術やアーキテクチャへの習熟に時間がかかる場合がある。
- 関連部署は、リアーキテクチャによる業務への影響を懸念する場合がある。
対策
- リアーキテクチャの目的、メリット、リスクを明確に説明し、ステークホルダーの理解と合意を得る。
- 定期的な進捗報告会やワークショップを開催し、ステークホルダーとのコミュニケーションを密にする。
- リアーキテクチャの影響を受ける業務プロセスを洗い出し、関係部署と連携して対応策を検討する。
リスク管理とコスト最適化
リアーキテクチャは、システムの停止やデータ損失などのリスクを伴うため、綿密な計画とリスク管理が求められます。また、コストも重要な考慮事項であり、最適化を図る必要があります。
課題
- リアーキテクチャ中に予期せぬ問題が発生し、スケジュールやコストが超過する可能性がある。
- 新しい技術やアーキテクチャの導入に伴い、セキュリティリスクが発生する可能性がある。
- クラウドサービスの利用料金が想定以上に高額になる可能性がある。最終的には、これは運用コストも入れたトータルでのランニングコストと比較が必要になりますが、その可能性もあるという話です。
対策
- リスクを洗い出し、影響度と発生確率を評価し、優先順位をつけて対策を講じる。
- 段階的なアプローチを採用し、リスクを分散させる。
- クラウドサービスのコスト管理ツールを活用し、利用状況を監視し、最適化を図る。
- セキュリティ対策を徹底し、脆弱性を早期に発見し、対応する。
開発チームのスキルアップと体制構築
リアーキテクチャには、クラウドネイティブな技術やアーキテクチャに関する専門知識が必要です。また、アジャイル開発やDevOpsなどの新しい開発手法を導入することも重要です。
課題
- 開発チームにクラウドネイティブな技術やアーキテクチャの経験がない。
- アジャイル開発やDevOpsの経験がない。
- リアーキテクチャに対応できる人員が不足している。
対策
- 社内研修や外部セミナーなどを活用し、開発チームのスキルアップを図る。
- クラウドベンダーのトレーニングプログラムに参加する。
- アジャイルコーチやDevOpsエンジニアなどの専門家を招聘する。
- 必要に応じて、外部の開発チームと連携する。
リアーキテクチャプロジェクトは、技術的な課題だけでなく、組織的な課題や人的な課題にも直面します。しかし、これらの課題を乗り越えることで、レガシーシステムからの脱却とモダナイゼーションを実現し、企業の競争力を高めることができます。
5.まとめ:リアーキテクチャの未来とシステム担当者の役割
クラウドネイティブ時代のリアーキテクチャの展望
クラウドネイティブな技術の進化は、リアーキテクチャのあり方を変えつつあります。サーバーレスアーキテクチャ、コンテナオーケストレーション、AI/MLの活用など、新たな技術がリアーキテクチャの可能性を広げ、より効率的で柔軟なシステム構築を可能にします。
また、クラウドプロバイダーは、リアーキテクチャを支援するサービスやツールを拡充しており、企業はこれらのサービスを活用することで、よりスムーズにリアーキテクチャを進めることができます。
システム担当者が担うべき責任とリーダーシップ
リアーキテクチャプロジェクトにおいて、システム担当者は技術的な専門知識だけでなく、リーダーシップ、コミュニケーション能力、プロジェクトマネジメント能力など、多岐にわたるスキルが求められます。
- リーダーシップ: リアーキテクチャのビジョンを明確にし、チームを牽引する。
- コミュニケーション能力: ステークホルダーとの合意形成を図り、円滑なコミュニケーションを促進する。
- プロジェクトマネジメント能力: スケジュール、コスト、品質を管理し、プロジェクトを成功に導く。
- 技術力: 新しい技術やアーキテクチャを理解し、適切な技術選定を行う。
システム担当者は、これらのスキルを駆使して、リアーキテクチャプロジェクトを成功に導く責任を担っています。
継続的な改善とイノベーションへの取り組み
リアーキテクチャは、一度実施すれば終わりではありません。ビジネス環境や技術の変化に合わせて、システムを継続的に改善していく必要があります。
システム担当者は、リアーキテクチャ後も、システムの監視、パフォーマンス分析、セキュリティ対策などを継続的に行い、問題点を早期に発見し、改善していく必要があります。
また、新しい技術やアーキテクチャが登場した場合には、それらを積極的に取り入れ、システムの進化を図っていくことも重要です。
保守開発 DevOps :APPSWINGBY Solution
おわりに
クラウドネイティブ時代のリアーキテクチャは、企業にとって競争力を維持し、成長を加速させるための重要な戦略です。既存のシステムにリアーキテクチャの必要性を感じた場合には、一度、APPSWINGBYまでご相談ください。貴社にとっての最適解をご提案します。
この記事を書いた人
株式会社APPSWINGBY マーケティング
APPSWINGBY(アップスイングバイ)は、アプリケーション開発事業を通して、お客様のビジネスの加速に貢献することを目指すITソリューションを提供する会社です。
ご支援業種
情報・通信、医療、製造、金融(銀行・証券・保険・決済)、メディア、流通・EC・運輸 など多数
監修
株式会社APPSWINGBY
CTO 川嶋秀一
動画系スタートアップ、東証プライム R&D部門を経験した後に2019年5月に株式会社APPSWINGBY 取締役兼CTOに就任。
Webシステム開発からアプリ開発、AI、リアーキテクチャ、リファクタリングプロジェクトを担当。C,C++,C#,JavaScript,TypeScript,Go,Python,PHP,Vue.js,React,Angular,Flutter,Ember,Backboneを中心に開発。お気に入りはGo。