技術負債を減らしてイノベーションを加速:今こそ進めたいリアーキテクチャのポイント

1.【はじめに】なぜ今、リアーキテクチャが注目されるのか?

1-1. DX推進や市場競争激化で高まるアプリケーション刷新の必要性

今、日本国内でも積極的にデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進が企業活動の最重要課題の一つとして挙げられています。顧客との接点をオンラインやモバイルで強化し、サービスを迅速に提供できる企業が競争優位を獲得する時代です。中でも、フィンテックやEC、クラウドサービスなどの成長が著しい市場では、一歩先のイノベーションを追求し続けることが求められています。

しかし、既存システムが複雑化・肥大化している企業は、思うように新機能を開発できず、DX推進が停滞するケースが多いのが現状です。

こうした背景の中で注目されているのが「リアーキテクチャ(Re-Architecture)」です。これは、単なるコード修正ではなく、アプリケーションの構造や基盤を抜本的に再設計することで、ビジネスに柔軟性と拡張性をもたらすアプローチを指します。変化の早い市場で競争力を維持するために、リアーキテクチャは必要不可欠な取り組みとなりつつあります。

1-2. リファクタリングだけでは解消しきれない「根本的課題」へのアプローチ

「システムの改善」と聞くと、まずはリファクタリングを思い浮かべる方も多いでしょう。リファクタリングは既存コードの可読性や保守性を向上させるために、コードの内部構造を整理し、外部から見た動作を変えずに改善していく手法です。

非常に効果的な手法でAPPSWINGBYでも多くのリファクタリングプロジェクトで成果をあげている手法ですが、以下のような大きな課題が潜んでいる場合は、リファクタリングだけでは解決が難しくなります。

  • アーキテクチャ上の制限で負荷分散や機能追加が困難
    単一の大規模モノリシック構造を採用していると、サービス全体を停止しなければ部分的な改修ができないなど、ビジネス上のタイムロスが大きい。
  • 技術スタックそのものがレガシー化している
    旧来の開発言語やフレームワークを使い続けている場合、新機能実装時に大きな障壁となり、新しいサービス形態にも対応しにくい。
  • ビジネス要件の変化に柔軟に対応できない
    製品やサービスモデルが変わりやすい時代に、巨大なコードベースが足かせとなり、タイムリーなリリースが困難になる。

こうした深刻かつ根本的課題を解決する手法として、システムアーキテクチャを大きく見直すリアーキテクチャが必要になります。クラウドネイティブやマイクロサービス化といった最新の技術要素を取り入れることで、高い拡張性・柔軟性・可用性を備えた仕組みを構築できるのです。

2.技術負債がビジネスに及ぼす影響

2-1. 機能追加やスケーラビリティの制約によるイノベーション停滞

大企業のIT部門や開発部門では、新機能開発に膨大な時間とコストを要する現状があります。特に、レガシーコードを抱える大規模モノリシックアプリケーションの場合、既存機能との整合性確認、テスト工数の増大などにより、アジャイルな開発が困難です。

その結果、市場競争力を左右する新サービスの投入時期が遅れ、ビジネスチャンスを逸してしまうリスクが高まります。

さらに、負荷が集中するピーク時にシステムがダウンする恐れがある場合は、スケーラビリティを高める対応が欠かせません。技術負債が重なると、従来の拡張手法では限界があり、応急処置的なパッチ対応を積み重ねるうちに、より大きな負債を生み出すという悪循環に陥りやすくるのです。

2-2. レガシーシステムの維持コストとセキュリティリスク

レガシー化したシステムを長年運用し続けていると、ハードウェアの老朽化やOS・ミドルウェアのバージョンアップのサポート終了などが起こり、予想外のコストを強いられるケースも少なくありません。

また、新たな脆弱性が発見されても、レガシー環境ではセキュリティパッチの適用が難しくなる場合があり、結果的にセキュリティホールを抱えたまま運用せざるを得なくなります。

サイバー攻撃の手口が高度化する中、既存システムの防御体制に綻びが生じれば、企業の信用問題に直結します。特に金融サービスや大量の個人情報を扱う事業では、一度のセキュリティインシデントで大きなダメージを負うリスクが高いです。今のうちにリアーキテクチャを行い、最新のセキュリティ対策やアップデートが常に適用できる状態を整えておくことは非常に重要となります。

2-3. 社内リソースの過度な消耗と人材流出リスク

技術負債を抱えた大規模システムの保守運用には、膨大な時間と専門知識が必要です。そのため、優秀なエンジニアが新サービスの開発やDXプロジェクトに注力できず、日々の保守対応に追われてしまう現場を多く見かけます。このような状態が続くと、エンジニアのモチベーションは低下し、結果として人材流出を招いてしまう可能性が高まります。

さらに、レガシー技術に固執する企業は、新卒や若手エンジニアから敬遠されるリスクもあります。イノベーションを創出するためには、新技術を柔軟に取り入れ、開発者が創造性を発揮できる環境を整備することが欠かせません。リアーキテクチャによって最新技術の導入を見据えたアプリケーション構造へ移行することで、組織全体のスキルアップや採用力の向上にも寄与します。

3.リアーキテクチャがもたらすイノベーション加速の仕組み

前章では、技術負債がビジネスにもたらす悪影響を取り上げました。ここからは、その技術負債を抜本的に解消するための「リアーキテクチャ」が、いかにイノベーションを加速させるのかを解説します。アーキテクチャ再設計による柔軟性の獲得や、組織全体の生産性向上、さらにクラウドネイティブやマイクロサービスの活用による市場対応力の向上まで、具体的なポイントを見ていきましょう。

3-1. アーキテクチャ再設計で生まれる柔軟性と拡張性

大規模化・複雑化したシステム構造を見直す意義

企業が成長するにつれて、システムは新機能の追加や周辺サービスとの連携などで次第に複雑化し、技術的負債が蓄積していきます。リアーキテクチャは、このように機能が詰め込まれたモノリシックな構造を再設計し、必要に応じてモジュール化や疎結合化を図るアプローチです。再設計により、以下のようなメリットが生まれます。

  • 拡張しやすい構造
    機能単位で開発やテストが行えるため、新サービスや新機能の追加が容易になる。
  • 保守性の向上
    ソースコードやデータベースの依存関係を明確化することで、障害対応やバージョンアップがスムーズに進む。
  • 段階的な移行が可能
    全面刷新ではなく、一部の機能から順次移行できるため、大規模プロジェクトでもリスクを抑えられる。
変化の早いビジネスニーズへの即応

リアーキテクチャでは、アプリケーションの構造を柔軟に再編することが大きなポイントです。

たとえば市場や顧客ニーズの変化に合わせて、新しいサービス連携機能を追加したり、UI/UXを刷新したりする場合にも、変更が局所化されていれば大規模な影響を最小限に抑えることができます。

これにより、開発部門がビジネスサイドと連携して、素早く実装からリリースまでを回す「アジャイル開発」が実現しやすくなります。ビジネス課題に対して即応できるシステム構造は、変動の激しい市場環境で競合他社と差別化するうえで重要な役割を果たすのです。

3-2. 技術負債削減がもたらすエンジニアリング組織の生産性向上

保守・運用の負荷軽減がイノベーションを生む

「技術負債」が重くのしかかったシステムでは、エンジニアが日々の保守や運用対応に追われ、新しい機能開発や研究・検証に時間を割けないという問題が起こりがちです。これにより、スピーディーなサービス改善や市場への対応が困難になるだけでなく、エンジニア自身のモチベーション低下や組織内イノベーションの停滞を招きます。

リアーキテクチャを実施し、システム全体を最新技術や最適な設計原則に沿って再構築することで、保守運用に掛かる工数や突発的トラブル対応の頻度を大幅に削減できます。その結果、エンジニアが新たなサービス創造や高度な技術検証に時間を投下しやすくなり、組織全体としてのイノベーション創出力が高まります。

若手エンジニアや新規人材の獲得にも有利

また、リアーキテクチャを通じて導入される最新の開発言語やフレームワーク、クラウドサービスなどは、エンジニアにとって魅力的な学習機会となります。レガシー環境の保守に終始していた組織が、モダンな開発環境へとアップデートすることで、以下のような効果が期待できます。

  • 若手エンジニアの育成: 新しい技術スタックでの開発経験を積む機会が増え、組織内でのキャリア形成にも寄与。
  • 人材流出リスクの低減: レガシー保守に消耗せず、最新技術へチャレンジできる環境を整えることで、優秀な人材の離職を防ぐ。
  • 採用力の向上: 「モダンなテクノロジーに触れられる企業」としてのブランディングが確立でき、採用市場での競争力が高まる。

技術負債を削減することは、エンジニアリング組織の活性化と長期的な成長にも直結する重要な施策なのです。

3-3. クラウドネイティブやマイクロサービス活用による市場対応力の向上

クラウドネイティブ化がもたらすメリット

クラウドネイティブとは、AWS、Azure、GCPなどのクラウドプラットフォームの特性を最大限に活用してシステムを設計・開発・運用するアプローチです。

オンプレミス環境とは異なり、必要に応じてリソースを柔軟に増減できるため、大規模トラフィックへのスケーリングや新機能追加のスピードが格段に向上します。加えて、高い可用性や自動復旧(Self-Healing)機能を備えたクラウドサービスを利用することで、運用の手間を軽減できるのも大きな利点です。

  • コスト最適化: リソースの利用状況に応じて費用が変動するため、無駄なハードウェア投資を削減。
  • スピード感のある開発・リリース: インフラ構築やサーバー準備に掛かる時間を大幅に短縮。
  • 運用負荷の分散: クラウドサービス提供元の大規模インフラを活用し、保守・管理作業を抑制。
マイクロサービスアーキテクチャで得られる俊敏性

リアーキテクチャの一環として、マイクロサービスアーキテクチャを導入する企業も増えています。これは、アプリケーションを小さなサービス単位に分割し、それぞれが独立して開発・デプロイ・スケーリングできる形態です。

  • 部分的なアップデートが容易: 単一のマイクロサービスだけをリリースすることができるため、システム全体を止めずに新機能を投入できる。
  • 障害の局所化: あるサービスで障害が発生しても、他のサービスに影響を及ぼしにくい設計。
  • 技術選択の自由度: 各サービスごとに最適な言語やフレームワークを選定でき、機能の実装効率が向上。

このように、クラウドネイティブやマイクロサービスの活用は、市場の変化に対して俊敏かつ柔軟に対応できる強みを組織にもたらします。顧客ニーズの変化にリアルタイムで追随し、新サービスや新機能をスピーディーに展開することで、競合他社との差別化を図ることが可能です。

本記事では、リアーキテクチャが注目される背景と、企業が抱える技術負債がビジネスに及ぼす深刻な影響について解説しました。既存システムの刷新は大きなプロジェクトではありますが、将来的なコスト削減とビジネス競争力強化のために避けては通れない道です。

特にDX推進が急務となっている大企業ほど、レガシーシステムの影響が大きく、迅速な対応が必要とされています。

次回は、「リアーキテクチャを成功させるための3つのステップ」を中心に過去の事例に基づくリスクや対策についてご紹介する予定です。

APPSWINGBYでは、アーキテクチャ刷新やリファクタリング、クラウドネイティブ化などのソフトウエアエンジニアリング事業を通じて、多くのお客様が抱える技術負債の解消を支援してまいりました。

  • 現行システムのアセスメント
  • 最適な移行計画の策定
  • リアーキテクチャ ~クラウドネイティブなシステム開発
  • モダンアーキテクチャ設計・実装
  • リファクタリング ~既存システムの最適化
  • 運用・保守サポート

これらの工程を一貫してサポートし、安心してシステム刷新に取り組んでいただくための高い技術力と体制を整えています。技術負債の削減やDX推進に向けて、一歩踏み出したいとお考えの方は、ぜひ以下の「お問い合わせフォーム」よりお気軽にご連絡ください。貴社の現状に合わせた最適なソリューションをご提案いたします。

システム開発にお困りではありませんか?

この記事を書いた人

株式会社APPSWINGBY

株式会社APPSWINGBY マーケティング

APPSWINGBY(アップスイングバイ)は、アプリケーション開発事業を通して、お客様のビジネスの加速に貢献することを目指すITソリューションを提供する会社です。

ご支援業種

情報・通信、医療、製造、金融(銀行・証券・保険・決済)、メディア、流通・EC・運輸 など多数

監修

APPSWINGBY CTO川嶋秀一

株式会社APPSWINGBY
CTO 川嶋秀一

動画系スタートアップ、東証プライム R&D部門を経験した後に2019年5月に株式会社APPSWINGBY 取締役兼CTOに就任。
Webシステム開発からアプリ開発、AI、リアーキテクチャ、リファクタリングプロジェクトを担当。C,C++,C#,JavaScript,TypeScript,Go,Python,PHP,Vue.js,React,Angular,Flutter,Ember,Backboneを中心に開発。お気に入りはGo。