AWSサービスライフサイクル変更とリスク

2025年10月13日にAWSが発表した”AWS サービスの提供状況に関する最新情報 ※外部リンク“について、少しだけ気になる話がありましたので、改めてAWSが発表したサービスとそのリスクについて整理しておきます。
今回のAWSサービス提供状況の変更は、「メンテナンスに移行するサービスと機能」と「廃止されるサービス」の2つのカテゴリに分けられます。それぞれのリストに含まれるサービス群からAWSの戦略的な方向性を読み解き、その影響範囲と将来的にどう対策していくべきかについても考察していきます。
それでは、さっそくはじめていきましょう。
- 1. AWSサービスライフサイクル変更の傾向
- 1.1. 1. メンテナンスに移行するサービスと機能の傾向
- 1.1.1. サービスの傾向
- 1.2. 2. 廃止されるサービス
- 1.2.1. 廃止されるサービス
- 2. AWSサービスライフサイクル変更による将来的なリスク
- 2.1. 1. 運用・技術的リスク
- 2.1.1. 1-1. 移行コストと期間の予測不能性 (隠れた技術的負債)
- 2.1.2. 1-2. 新しい代替サービスの安定性・成熟度のリスク
- 2.1.3. 1-3. ベンダーロックインの深化 (統合による副作用)
- 2.2. 2. 戦略・ビジネス的リスク
- 2.2.1. 2-1. システムロードマップの予期せぬ変更
- 2.2.2. 2-2. ニッチな需要への対応力の低下
- 3. まとめ
- 3.1.1.1. 1.疎結合なアーキテクチャの徹底
- 3.1.1.2. 2.マルチクラウド/ハイブリッドの意識
- 3.1.1.3. 3.継続的な技術監視(ガバナンス)
AWSサービスライフサイクル変更の傾向
1. メンテナンスに移行するサービスと機能の傾向
まずは、2025年11月7日以降、新規の利用受付が停止されているサービスです。既存ユーザーは引き続き利用可能ですが、事実上の新規開発の凍結となりました。
サービスの傾向
- 特定分野のツールの統合・代替:
- DevOps/MLOps系:
Amazon CodeCatalyst、Amazon CodeGuru Reviewer、AWS Systems Manager - Change Manager、AWS Systems Manager - Incident Manager、.NET モダナイゼーションツールなど。これは、機能がより包括的で新しいサービス(例:Amazon Q、新しいCode系のサービス群、より高度なSystems Manager機能)に吸収・統合されている可能性を示唆します。 - データ分析/IoT:
AWS HealthOmics - バリアントストアとアノテーションストア、AWS IoT SiteWise Edge データ処理パック、AWS IoT SiteWise Monitor。特定のニッチな機能や旧来のデータ処理モデルが、より汎用的なサービスや次世代のデータレイク/データメッシュのアーキテクチャに置き換えられつつあると見られます。
- DevOps/MLOps系:
- ストレージの進化と専門サービス:
Amazon Glacier(S3 Glacierの旧来の利用方法、あるいは特定のユースケース)、Amazon S3 Object Lambda。S3の多様なストレージクラス(Instant Retrievalなど)の登場や、よりシンプルで高速なデータ処理パターンへの誘導が見て取れます。
- レガシー移行・VDIの最適化:
AWS Mainframe Modernization サービス、AWS Migration Hub。メインフレームモダナイゼーションは、より新しい、またはパートナーエコシステムに特化したソリューションに移行している可能性があります。VDIのクライアント (PCoIP 用 Amazon Workspaces Web Access クライアント (STXHD)) の移行は、技術の陳腐化や、より高性能なプロトコル(例:WorkSpaces Streaming Protocol (WSP))への集中を意味します。
- エッジ/データ転送:
AWS Snowball Edge Compute Optimized、AWS Snowball Edge Storage Optimized。エッジコンピューティングの需要は高まっていますが、Snowballの特定バージョンが、より高性能な後継機種や、Outpostsなどのより大規模なエッジソリューションに置き換えられている可能性があります。
これらのサービスは、「サービスが提供する機能は今後も必要だが、その提供方法や基盤を刷新・統合する」というAWSの意図を強く示しています。
今後のサービス展開についての発表はまだAWSからはありませんが、ニッチな機能を持つサービスを統合し、主要な中核サービス(S3、EC2、Systems Manager、新しいAI/MLサービスなど)の機能として提供することで、ユーザーエクスペリエンスの統一と、開発リソースの効率化を図っていくのかもしれません。
2. 廃止されるサービス
「市場の需要が想定より伸びなかった」または「より強力な代替サービスが登場した」ということで、今回の発表で廃止されるサービスがでてきました。
廃止されるサービス
- 特化型マネージドサービスの再評価
Amazon FinSpace(金融サービスの分析・データ管理)、Amazon Lookout for Equipment(産業機器の予知保全)。これらは特定の業界やユースケースに高度に特化したマネージドサービスですが、利用者が想定ほど伸びなかったか、あるいはAmazon SageMakerなどの汎用的な機械学習サービスで同等以上の機能をユーザー自身がより柔軟に実現できるようになったため、特化型のサービスを維持する必要性が薄れたと考えられます。
- バージョンアップによる置き換え
AWS IoT Greengrass v1。これは明確にv2への移行を促すものです。技術的な進歩やセキュリティ要件の変化に伴い、旧バージョンを維持するコストを削減し、最新バージョンへの集約を図っています。
- 重複による整理
AWS Proton。インフラストラクチャのプロビジョニング・デプロイに関するサービスですが、Infrastructure as Code (IaC) ツール(CloudFormation、CDK、Terraformなど)や、EKS/ECSなどのコンテナオーケストレーションサービス自身が提供する機能で十分と判断された可能性があります。
廃止されるサービスの傾向について考えてみると、「ニッチな市場向けの単一目的のサービスを整理し、汎用性の高いプラットフォームサービス(S3, SageMaker, EKS, v2系サービスなど)にリソースを集中させる」というAWSの戦略が見えてきます。
これにより、今後は、リソースを最も成長性の高い分野や、より多くの顧客に利益をもたらす中核機能にリソースを再配分していくことが考えられます。
今回のライフサイクル変更について、まとめると、「中核サービスの強化と統合」と「イノベーションへのリソース再配分」、そして、「レガシー技術からの脱却」というAWSの戦略的意図を明確に示しています。
この動きは、AWSが成熟期を迎え、より選択と集中のフェーズに入ったことを示唆しており、ユーザー企業に対しては、AWSが推奨する最新のアーキテクチャパターンへの早期移行を促す強いメッセージとなっています。
AWSサービスライフサイクル変更による将来的なリスク
AWSサービスライフサイクル変更によって、大きな影響を受ける企業も一定数いるのではないかと思いますので、AWSサービスライフサイクル変更による将来的なリスクについてもまとめておきます。
AWSのようなメガクラウドプロバイダーがサービスを統合・廃止する動きは、技術進化の必然ではありますが、利用者にとっては無視できない運用上および戦略上のリスクを伴います。
これらのリスクは、予期せぬ運用負荷の増大とビジネス継続性の脅威に集約されます。
1. 運用・技術的リスク
1-1. 移行コストと期間の予測不能性 (隠れた技術的負債)
廃止・移行が発表された際、代替サービスへの切り替えにかかる工数やコストを正確に見積もることが困難です。
特に、依存関係が複雑な大規模システムの場合、移行プロジェクトが長期化し、当初の計画や予算を大幅に超過するリスクがあります。
AWSは通常、サービスの廃止に際して猶予期間(EOL期間)を設けますが、この期間内に移行を完了できない場合、システムの脆弱性やセキュリティリスクを抱えたまま、動作が保証されないサービスに依存し続けることになります。
1-2. 新しい代替サービスの安定性・成熟度のリスク
廃止されたニッチなサービス(例:Amazon Lookout for Equipment)の機能が、より汎用的なサービス(例:SageMaker)で代替される場合、汎用サービス内で同等の機能を実現するための追加の開発やチューニングが必要になります。
代替サービスがまだリリースされたばかりの場合、その安定性やSLAが旧サービスよりも低い可能性も考慮する必要があります。
AWSは「常に新しいものを使うべき」というメッセージを暗に発していますが、利用者は「新しさ=成熟度」ではないという視点を持ち、採用するサービスの技術ロードマップと安定性を評価する必要があります。
1-3. ベンダーロックインの深化 (統合による副作用)
サービスが統合され、より密結合なプラットフォーム(例:AWS Systems Managerの広範な機能、Amazon Qなどの包括的AIサービス)に移行が進むと、特定のAWSサービスに深く依存する度合いが高まります。
これにより、将来的に他のクラウドやオンプレミスへのマルチクラウド戦略への移行コストが跳ね上がるリスクが生じます。
利用者は、便利さを享受しつつも、サービスの統合が進むことで特定の機能がブラックボックス化し、AWSから離脱しづらくなる「ソフトなロックイン」の進行に注意する必要があります。
すごく重要なことを3つあげましたが、いづれもクラウドサービスを利用する上では避けることができないリスクになります。どこまで考えておくかは、その事業の規模や期間的な要素が強いのでここでは何とも言えませんが、クラウドを利用する場合は、これらのリスクを踏まえた上でシステムを開発し運用していく必要があります。
2. 戦略・ビジネス的リスク
技術的な話ばっかりになってしまいましたので、少しだけビジネス面でのリスクについても挙げておきます。
2-1. システムロードマップの予期せぬ変更
サービスライフサイクルの変更は、AWSの一方的な決定で行われます。
仮に、利用者の側で「このサービスで今後5年間は運用する」というシステムロードマップを作成していたとしても、AWSの発表一つでその計画を完全に書き直す必要が生じます。これは、経営層にとって、IT部門の戦略的なリソース配分を混乱させる大きな問題です。
しかし、AWSの利用者がこのリスクについて残念ながら予期することはできませんので、AWSを利用する前提として、システムの恒久的な安定性は保証されないという認識が必要になります。
理想的であまり現実的ではありませんが、クラウド環境では、開発・運用リソースの一部を「サービスの予期せぬ変更への対応」のために常時確保しておくことが、将来的なビジネス継続性のために不可欠な状況となっています。
2-2. ニッチな需要への対応力の低下
AWS Mainframe Modernization サービスやAWS HealthOmicsの特定の機能のように、ニッチな業界やユースケースに特化していたサービスが廃止されると、その業界のユーザーは、代替サービスで同等の機能を一から構築し直す必要が生じます。
これは、クラウドのメリットである「マネージド化」が失われ、ユーザー側がインフラ維持の負荷を負うことを意味します。
AWSは市場規模の大きい汎用的なニーズにリソースを集中させるため、非常にニッチな要求を持つユーザーは、独自のカスタムソリューションを構築するか、パートナーエコシステムのソリューションを頼る必要性が高まります。
まとめ
AWSサービスのライフサイクル変更という将来的なリスクに備えるためには、以下の戦略を組織的に組み込むことが求められます。
1.疎結合なアーキテクチャの徹底
特定のAWSサービスに過度に依存するのではなく、抽象化レイヤー(APIゲートウェイ、メッセージキューなど)を設け、サービス間の依存度を低く保つ設計を徹底します。
2.マルチクラウド/ハイブリッドの意識
サービスの選定時に、その機能が他のクラウドで実現可能か、あるいは特定のクラウドの固有機能に深く依存していないかを常にチェックし、技術的負債となるリスクを評価します。
3.継続的な技術監視(ガバナンス)
AWSの「What’s New」や「Service Health Dashboard」を単なるニュースとして見るだけでなく、自社システムへの影響度を定期的に評価するガバナンスプロセスを確立し、移行予算と工数を常に計画に含めておく必要があります。
今回のAWSサービスのライフサイクル変更の発表だけに限った話ではありませんが、クラウドサービスを利用するにあたっては、クラウド利用のメリットである「俊敏性」と「コスト効率」を最大限に享受するよう設計・運用しつつも、サービス変更のリスクを管理することは、このメリットを享受し続けるための「必要コスト」として内包されているものだと再認識する必要性がありそうです。
APPSWINGBYは、最先端の技術の活用と、お客様のビジネスに最適な形で実装する専門知識を有しております。AI開発から既存の業務システムへの統合などの他、リファクタリング、リアーキテクチャ、DevOps環境の構築、ハイブリッドクラウド環境の構築、システムアーキテクチャの再設計からソースコードに潜むセキュリティ脆弱性の改修の他、テクノロジーコンサルティングサービスなど提供しています。
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株式会社APPSWINGBY マーケティング
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監修

株式会社APPSWINGBY CTO 川嶋秀一
動画系スタートアップや東証プライム上場企業のR&D部門を経て、2019年5月より株式会社APPSWINGBY 取締役兼CTO。
Webシステム開発からアプリ開発、AI導入、リアーキテクチャ、リファクタリングプロジェクトまで幅広く携わる。
C, C++, C#, JavaScript, TypeScript, Go, Python, PHP, Java などに精通し、Vue.js, React, Angular, Flutterを活用した開発経験を持つ。
特にGoのシンプルさと高パフォーマンスを好み、マイクロサービス開発やリファクタリングに強みを持つ。
「レガシーと最新技術の橋渡し」をテーマに、エンジニアリングを通じて事業の成長を支えることに情熱を注いでいる。

株式会社APPSWINGBY CTO 川嶋秀一
動画系スタートアップや東証プライム上場企業のR&D部門を経て、2019年5月より株式会社APPSWINGBY 取締役兼CTO。
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