PHRを活用したデジタルヘルスケアDX:データ統合と個別化医療の未来

PHRを活用したデジタルヘルスケアDX:データ統合と個別化医療の未来

1. はじめに

1.1 PHRとは?その定義と役割

PHR(Personal Health Record:パーソナルヘルスレコード)とは、患者自身が管理する医療・健康データのことです。

従来の医療情報は、医療機関ごとに管理されるEHR(Electronic Health Record:電子カルテ)として蓄積されていました。しかし、PHRの概念が広がることで、患者は自身の健康データを統合・管理し、必要に応じて医療機関やヘルスケア企業と共有できる近未来が描かれ始めようとしています。

PHRには、以下のような情報が含まれます。

  • 診療記録(医療機関での受診履歴)
  • 投薬情報(処方された薬の履歴)
  • 検査結果(血液検査、画像診断結果など)
  • 生活習慣データ(運動、睡眠、食事、ストレスレベルなど)
  • ウェアラブルデバイスから取得されたバイタルデータ(心拍数、血圧、血糖値など)

このように、PHRは従来のEHRを補完し、患者中心の医療を推進するための重要なツールとなるものです。

1.2 デジタルヘルスケアDXにおけるPHRの重要性

デジタルヘルスケアDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進において、PHRの活用は不可欠です。

医療機関やヘルステック企業は、PHRを活用することで、医療の質を向上させるとともに、業務効率の改善や新たなサービス開発の可能性を広げることができます。以下にPHRがもたらす主なメリットをリストします。

PHRがもたらす主なメリット

  1. 医療の質の向上
    • 患者自身が過去の診療情報や検査データを持ち運び、適切な治療を受けやすくなる
    • 医療機関間でのデータ共有がスムーズになり、診断の精度向上につながる
  2. 業務効率の改善
    • 医療機関は患者からの正確な情報を受け取ることで、問診や診察の時間を短縮できる
    • 重複した検査や不要な処方を防ぎ、医療コストを削減できる
  3. 新たなサービスの創出
    • PHRを活用した個別化医療(Precision Medicine)の実現
    • 予防医療やリモートモニタリングサービスの開発
    • 製薬企業がリアルワールドデータを活用した臨床研究を推進

このように、PHRは医療データの標準化や相互運用性(Interoperability)を支える要素であり、医療DXの根幹を担う重要な技術と言えます。

1.3 本レポートの目的と想定読者

本記事では、PHRの活用によるデジタルヘルスケアDXの推進について解説し、特に企業がどのようにPHRを活用し、医療データの統合や個別化医療の実現に取り組むべきかについて実践的な指針をご紹介します。

本レポートの目的

  • PHRの技術的概要と導入方法を明確にする
  • PHRとEHRの統合による医療DXの可能性を提示する
  • 企業がPHRを活用する際の課題と解決策を示す
  • 最新の市場動向とビジネスチャンスを提供する

本レポートを通じて、医療機関や企業がPHRを活用し、デジタルヘルスケアの未来を切り拓くための実践的な知見を得ることを目指します。

2. PHRとEHRの統合によるデータ活用の進化

PHRとEHRの統合によるデータ活用の進化

デジタルヘルスケアの発展に伴い、EHR(電子カルテ)とPHR(パーソナルヘルスレコード)の統合が重要なテーマとなっています。

従来、医療データは医療機関ごとに管理されるEHRとして保存されていましたが、患者自身が健康データを管理するPHRが普及することで、より包括的な医療データの活用が可能になります。

このセクションでは、EHRとPHRの違いや補完関係、FHIR(Fast Healthcare Interoperability Resources)を活用した統合のメリットと課題、そして医療データの相互運用性(Interoperability)の向上がもたらす効果について解説します。

2.1 EHRとPHRの違いと補完関係

ここで一旦、EHT(電子カルテ)とPHR(パーソナルヘルスレコード)の基本についておさらいしておきます。

EHR(電子カルテ)とは?

EHR(Electronic Health Record)は、病院や診療所などの医療機関が患者の診療情報を記録・管理するためのシステムです。主に以下のような情報が含まれます。

  • 診療履歴(受診記録、診断結果)
  • 検査データ(血液検査、MRI・CTなどの画像診断結果)
  • 処方情報(薬剤の種類、服薬指導)
  • アレルギー・既往歴(患者の健康状態に関する詳細情報)

EHRは医療機関の内部で使用され、主に医師や医療従事者が診療のために参照します。

PHR(パーソナルヘルスレコード)とは?

一方で、PHR(Personal Health Record)は、患者が自身の健康データを管理し、必要に応じて医療機関やヘルステック企業と共有するための仕組みです。PHRには、EHRの情報に加え、ウェアラブルデバイスや健康アプリから取得されたデータも含まれます。

  • 日々のバイタルデータ(血圧、心拍数、体温)
  • フィットネスデータ(歩数、運動量、消費カロリー)
  • 睡眠データ(睡眠時間、睡眠の質)
  • 食事記録(摂取カロリー、栄養バランス)
  • 自己記録(体調や気分の変化)

PHRの導入により、患者は自身の健康状態をより深く理解し、医療機関と協力しながら適切な健康管理を行うことが可能になります。

EHRとPHRの補完関係

EHRとPHRは、それぞれ異なる目的とデータの特性を持っていますが、相互に補完し合う関係にあります。

項目EHR(電子カルテ)PHR(パーソナルヘルスレコード)
管理者医療機関患者本人
主な目的診療情報の管理健康管理・予防医療
データ範囲診療履歴・検査結果・処方情報バイタルデータ・運動・食事・睡眠など
アクセス権限医療機関内のみ患者が管理・共有可能
更新頻度受診時に更新日々リアルタイムで更新
EHRとPHRの補完関係

EHRとPHRを適切に統合することで、医療機関と患者がよりスムーズに情報を共有し、診療の質の向上や個別化医療(Precision Medicine)の実現につながります。

2.2 FHIRを活用したEHR統合のメリットと課題

PHRとEHRの統合を実現するためには、異なるシステム間で医療データをスムーズに共有できる仕組みが必要です。FHIR(Fast Healthcare Interoperability Resources)は、EHRとPHRのデータを統一フォーマットで管理し、効率的に連携するための標準規格として注目されています。

FHIRを活用した統合のメリット

  1. 相互運用性の向上
    • 異なるEHRシステム間でデータを統一フォーマットで管理できる
    • PHRとのシームレスな統合が可能
  2. リアルタイムデータの活用
    • ウェアラブルデバイスやモバイルアプリからのデータをリアルタイムでEHRに反映
    • 遠隔医療やリモートモニタリングの精度向上
  3. コスト削減
    • 既存のHL7 v2やCDA(Clinical Document Architecture)よりも軽量で実装が容易
    • システム間のデータ変換作業が削減される
  4. 個別化医療の推進
    • 患者の健康データを活用したAI診断や予測医療が可能になる
    • 医療機関と患者が協力して健康管理を行える

FHIR統合の課題

しかし、FHIRを活用した統合にはいくつかの課題もあります。

  1. セキュリティとプライバシー
    • 患者データを安全に管理・共有するための暗号化技術やアクセス制御が必要
    • データ漏洩や不正アクセスのリスク管理が求められる
  2. 標準化の推進
    • 医療機関ごとに異なるEHRのデータ構造をFHIR形式に統一する必要がある
    • 国内外の規制(HIPAA、GDPRなど)に対応した標準化が求められる
  3. 導入コストと技術的ハードル
    • 既存システムをFHIRに対応させるための技術的な調整が必要
    • エンジニアやIT担当者のFHIRに関する専門知識の習得が必要

2.3 医療データの相互運用性(Interoperability)向上による効果

EHRとPHRの統合により、医療データの相互運用性(Interoperability)が向上します。これにより、以下のようなメリットが期待できます。

1. 医療機関間でのデータ共有が容易に

  • 異なる病院・診療所間での診療情報の共有がスムーズになり、患者が複数の医療機関を利用する際の情報の重複や抜け漏れが減少
  • 遠隔医療の診療精度が向上し、地方医療の質向上に寄与

2. 患者の利便性向上

  • 診察前に自身の健康データを医師と共有し、より適切な治療を受けることが可能
  • スマートフォンアプリを通じてPHRを管理し、健康維持に活用

3. AI・データ分析による医療の高度化

  • PHRのリアルタイムデータを活用したAI診断支援が可能に
  • 医療機関・製薬企業がビッグデータを活用し、より効果的な治療法を開発

本記事は、PHRの活用によるデジタルヘルスケアDXの推進について解説し、特に企業がどのようにPHRを活用し、医療データの統合や個別化医療の実現に取り組むべきかについて実践的な指針等についてご紹介すると共に、PHRを活用したデジタルヘルスケアシステムの導入を検討する企業がどのように実装を進めるべきか、具体的なアプローチを提示します。

PHRをはじめとしたデジタルヘルスケアDXは、医業の安定した稼働基盤となり、今後の医業における競争力の源泉となるでしょう。ぜひ、本記事の内容を活用いただき、デジタルヘルスケアDXの一助としていただければと存じます。

次回は、「3.HRがもたらす医療DXの変革ポイント」「4.PHR導入のビジネスインパクトと市場動向」「5.PHRを実現するための技術要素とアーキテクチャ」などのセクションをご紹介する予定です。

デジタルヘルスケアシステムの導入や改修、DX、システム統合等に関するご提案依頼・お見積もり依頼につきましては、弊社問い合わせフォームよりお気軽にお問い合わせください。

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この記事を書いた人
株式会社APPSWINGBY
株式会社APPSWINGBY マーケティング

APPSWINGBY(アップスイングバイ)は、アプリケーション開発事業を通して、お客様のビジネスの加速に貢献することを目指すITソリューションを提供する会社です。

ご支援業種

情報・通信、医療、製造、金融(銀行・証券・保険・決済)、メディア、流通・EC・運輸 など多数

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監修
APPSWINGBY CTO川嶋秀一
株式会社APPSWINGBY  CTO 川嶋秀一

動画系スタートアップ、東証プライム R&D部門を経験した後に2019年5月に株式会社APPSWINGBY 取締役兼CTOに就任。
Webシステム開発からアプリ開発、AI、リアーキテクチャ、リファクタリングプロジェクトを担当。C,C++,C#,JavaScript,TypeScript,Go,Python,PHP,Vue.js,React,Angular,Flutter,Ember,Backboneを中心に開発。お気に入りはGo。

APPSWINGBY CTO川嶋秀一
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動画系スタートアップ、東証プライム R&D部門を経験した後に2019年5月に株式会社APPSWINGBY 取締役兼CTOに就任。
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