LLパーサとは

LLパーサ(LL Parser)とは、プログラミング言語のコンパイラインタプリタにおいて、入力されるトークン列を左から右へ(Left-to-right)順に読み込み、最も左端の非終端記号から優先的に導出(Leftmost Derivation)を行うことで、構文解析(パース)を行うダウンアップ型のパーサの一種を指します。

特に、入力トークンを先読み(Lookahead)することで、次に適用すべき文法規則を一意に決定できる特性を持ちます。

LLパーサの基本的な概念

コンパイラがソースコードを機械語に変換する過程で、構文解析は非常に重要なフェーズです。構文解析器(パーサ)は、入力されたトークン列がそのプログラミング言語の文法規則に適合しているかを検証し、プログラムの構造をツリー形式(構文木)で表現します。

主な概念は以下の通りです。

  1. 構文解析(Parsing): プログラムのソースコードを字句解析(Lexical Analysis)によって得られたトークン列が、特定のプログラミング言語の文法規則に合致するかどうかを検証し、プログラムの階層的な構造(構文木または抽象構文木)を構築するプロセスです。
  2. ダウンアップ型パーサ(Top-down Parser): 構文木の根(スタート記号)から葉(トークン)に向かって、上から下へ(文法規則を適用して非終端記号を展開していく)構文解析を進める方式です。LLパーサはこのカテゴリに属します。
  3. LLの意味:
    • 最初の ‘L’: Left-to-right scanning of the input(入力トークンを左から右へ走査する)
    • 二番目の ‘L’: Leftmost derivation(左端導出を行う)
  4. 左端導出(Leftmost Derivation): 文法規則を適用して非終端記号を展開していく際に、常に現在の文形式の中で最も左にある非終端記号から優先的に展開していく方式です。
  5. 先読み(Lookahead): LLパーサは、次に適用すべき文法規則を決定するために、現在の位置から数個先の入力トークンを先読みします。これにより、曖昧さを排除し、バックトラック(誤った選択をして戻ること)なしに構文解析を進めることができます。例えば、LL(1)パーサは1つのトークンを先読みします。

LLパーサの動作原理

LLパーサは、主に以下の要素を使用して構文解析を行います。

  1. 入力バッファ(Input Buffer): 字句解析器から供給される入力トークン列を保持します。パーサはここからトークンを左から順に読み取ります。
  2. スタック(Stack): 構文解析の途中経過を管理するために使用されます。初期状態では、スタックの底には特別な終了記号($など)が、その上には文法の開始記号が積まれます。
  3. 構文解析表(Parsing Table): 現在のスタックのトップにある非終端記号と、現在の入力トークン(先読みトークン)の組み合わせに基づいて、次に適用すべき文法規則(プロダクション)を指示する表です。

動作のステップ:

  1. スタックのトップが開始記号で、入力バッファの最初のトークンが現在の入力記号となります。
  2. スタックのトップが非終端記号Aであり、現在の入力記号がaである場合、構文解析表M[A,a]を参照します。
  3. 参照結果が文法規則A→α(ただしαは記号列)である場合、スタックからAを取り除き、αを逆順にスタックに積みます。
  4. スタックのトップが終端記号(トークン)であり、それが現在の入力記号と一致する場合、スタックからその終端記号を取り除き、入力バッファからそのトークンを消費します。
  5. スタックのトップが終了記号$で、入力バッファも終了記号$になった場合、構文解析は成功です。
  6. 上記以外の状況(構文解析表にエントリがない、終端記号が一致しないなど)が発生した場合、構文エラーを報告します。

LLパーサの特性と適用可能な文法

LLパーサは特定の特性を持つ文法にのみ適用可能です。

  1. 左再帰の排除: LLパーサは左再帰(例:A→Aαのような文法規則)を持つ文法を直接処理できません。左再帰は無限ループを引き起こすため、構文解析前に文法変換によって排除する必要があります。
  2. 曖昧さの排除: 複数の文法規則が同じ先読みトークンで開始されるなど、構文解析表に複数のエントリが生じる曖昧な文法は、LLパーサでは解析できません。構文解析表の各エントリが一意である必要があります。
  3. LL(k)法: k個の先読みトークンを使用して、次に適用すべき文法規則を一意に決定できる文法をLL(k)文法と呼びます。LL(1)パーサは、1つの先読みトークンで決定できる最も一般的なタイプです。多くのプログラミング言語は、適切に設計すればLL(1)文法に適合するように設計可能です。

例: 左再帰の変換 元の文法: E→E+T∣T 変換後:E→TE′ E′→+TE′∣ϵ(ϵは空文字列)

LLパーサのメリットとデメリット

メリット

  • 実装の簡潔さ: 構文解析表を生成することで、パーサの実装が比較的単純になり、手動での実装も可能です(再帰下降パーサなど)。
  • 効率的なエラー検出: 先読み能力があるため、入力の早い段階で構文エラーを検出できます。
  • 高速な解析: バックトラックを行わないため、構文解析の速度が一般的に高速です。
  • 構文木の生成が容易: ダウンアップ型であるため、構文木を自然な形で構築しやすいです。

デメリット

  • 文法の制限: 左再帰や曖昧さを持つ文法を直接解析できないため、コンパイラのフロントエンド設計者は、LLパーサで処理できるように文法を変換する作業が必要です。
  • 先読みトークンの制限: 先読みするトークン数(k)を多くすると、構文解析表が非常に大きくなり、実装が複雑になります。多くの場合、LL(1)が実用的です。
  • 複雑な文法への対応: 現実世界のプログラミング言語の文法は複雑であるため、完全にLL(1)に準拠させるのが難しい場合があります。

LLパーサは、入力トークン列を左から右へ読み込み、左端導出で構文解析を行うダウンアップ型のパーサです。特に、先読みトークン(Lookahead)を用いて次に適用すべき文法規則を一意に決定する点が特徴です。

実装の簡潔さ、効率的なエラー検出、高速な解析といったメリットを持つ一方で、左再帰や曖昧さのない文法であること、先読みトークン数の制限といった制約があります。プログラミング言語のコンパイラやインタプリタの設計において、構文解析器の選択は非常に重要であり、LLパーサはその原理と特性を理解することで、効率的かつ堅牢な言語処理系を構築するための基礎となります。

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