YCSBとは

YCSBは、クラウドストレージや非リレーショナルデータベース(NoSQL)など、様々なデータストアの性能を公平かつ包括的に評価するために設計されたベンチマークフレームワークであり、実際のアプリケーションの多様なワークロードをシミュレーションし、スループットやレイテンシを測定するためのオープンソースのツールのことです。

YCSBの概要と設計の背景

YCSB(Yahoo! Cloud Serving Benchmark)は、2010年にYahoo!(現:Oath)の研究チームによって開発されました。当時のクラウド環境やNoSQLデータベースの急速な普及に伴い、様々なデータストア(例:Cassandra、MongoDB、Redisなど)の性能を比較・評価するための標準的かつ公平なベンチマークが必要とされました。

YCSBの目的は、特定のデータベースの機能に依存せず、汎用的なデータアクセス操作(CRUD操作:Create, Read, Update, Delete)に基づいたワークロードを定義し、異なるデータストア間での性能比較を可能にすることです。

従来のベンチマークがリレーショナルデータベース(RDB)のOLTP(オンライン・トランザクション処理)に特化していたのに対し、YCSBは、大規模で分散された環境におけるキーバリューストアやドキュメントストアの性能特性を評価することに焦点を当てています。

主な目的は、データストアの選定やインフラの最適化において、理論的な性能値ではなく、実際のアプリケーションが直面するであろう負荷(ワークロード)に基づいた客観的な評価基準を提供することです。

YCSBの主要な構成要素と測定指標

YCSBフレームワークは、以下の主要な要素で構成されており、ユーザーは柔軟にテスト内容を定義できます。

1. ワークロード(Workloads)

YCSBは、実際のアプリケーションで一般的なデータアクセスパターンを模倣するために、いくつかの組み込みワークロードを定義しています。これらは、読み取りと書き込みの比率や、データのアクセス分布が異なります。

ワークロード特徴典型的な応用例
Workload A均等な読み書き(Read 50%, Update 50%)セッションストア、ユーザー認証サービス
Workload B読み取りが優勢(Read 95%, Update 5%)フォトアルバムのキャプション読み込み、ウェブページの表示
Workload C読み取り専用(Read 100%)タイムラインの表示、頻繁に参照されるデータ
Workload D新規挿入が優勢(Read 95%, Insert 5%)ユーザー登録、ログ記録
Workload E短い範囲の読み取りが優勢(Scan 95%, Insert 5%)スレッドのリスト表示、ページネーション

2. アクセス分布(Access Pattern)

データへのアクセスがランダムか否かを定義します。

  • 均一分布(Uniform Distribution): データがランダムにアクセスされます。
  • ジップフ分布(Zipfian Distribution): 実際のアプリケーションで最もアクセスされるデータはごく一部であるという、パレートの法則を模倣したアクセス分布です。頻繁にアクセスされるホットスポット領域のデータストア性能を評価するのに重要です。

3. ドライバー(Drivers)

YCSBは、テスト対象の多様なデータストア(Cassandra、HBase、MongoDB、Redisなど)と通信するためのデータベース固有のドライバーを提供します。これにより、同じYCSBワークロードを、異なる種類のデータベースに対して公平に実行できます。

4. 測定指標

ベンチマークの結果として、以下の主要な性能指標が出力されます。

  • スループット(Throughput): 単位時間あたりに処理された操作の数(Ops/sec)。データストアの最大処理能力を示します。
  • レイテンシ(Latency): 各操作が完了するまでにかかった時間(応答時間)。平均値、中央値、および95パーセンタイル99パーセンタイル(応答時間のばらつき、サービスレベルを測るために重要)などの詳細な統計値が出力されます。

YCSBは、特に分散システムやNoSQL環境の性能評価におけるデファクトスタンダード(事実上の標準)として広く受け入れられています。

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