アドレスデコーディングとは

アドレスデコーディング(Address Decoding)とは、コンピュータシステムにおいて、CPU(中央演算処理装置)がメモリやI/O(入出力)デバイスなどの様々な周辺機器と通信する際に使用するアドレス信号を、それぞれのデバイスが固有に持つアドレス範囲(アドレス空間)に変換し、目的のデバイスを正確に選択・識別するプロセスを指します。

これにより、CPUからのアクセスが、意図したメモリ位置や周辺機器にのみ到達することを保証します。

アドレスデコーディングの基本的な概念

CPUは、特定のメモリ位置や周辺機器にデータを読み書きする際、アドレスバスにアドレス信号を出力します。このアドレス信号は、単なる数値の羅列ではなく、システム内の各デバイスに割り当てられたユニークな番地を示しています。アドレスデコーディングは、この番地を解釈し、対応するデバイスを「選択(Enable)」するための重要な回路機能です。

主な概念は以下の通りです。

  1. アドレス空間(Address Space): CPUがアクセス可能なすべてのメモリ位置とI/Oポートに割り当てられた一連のユニークなアドレスの範囲です。各デバイスは、このアドレス空間内の特定のアドレス範囲を占有します。
  2. アドレスバス(Address Bus): CPUがアドレス信号を出力するために使用する物理的な配線の集合です。アドレスバスの幅(ビット数)が、CPUが直接アクセスできるアドレス空間の最大サイズを決定します(例: 32ビットアドレスバスなら 232 アドレス)。
  3. チップセレクト(Chip Select, CS)/デバイスイネーブル(Device Enable, CE): 各メモリチップや周辺機器には、自身へのアクセスを有効にするための制御ピン(チップセレクトピン)があります。アドレスデコーダは、CPUが出力するアドレス信号を解析し、適切なデバイスのチップセレクトピンをアクティブ(通常はLOW)にすることで、そのデバイスがCPUからのアクセスを受け付けるようにします。
  4. アドレスマップ(Address Map): システム内の各デバイスが占有するアドレス範囲を定義したものです。設計段階で決定され、システム全体のメモリやI/Oの配置を示します。

アドレスデコーディングの必要性

アドレスデコーディングは、以下の理由からコンピュータシステムにおいて不可欠な機能です。

  1. デバイスの識別と競合防止: システム内には複数のメモリチップ、ROM、RAM、各種I/Oポート(シリアルポート、パラレルポート、ネットワークインターフェースなど)が存在します。これらのデバイスはそれぞれ異なるアドレス範囲に配置されており、CPUが特定のアドレスにアクセスした際に、複数のデバイスが同時に応答してしまう「アドレス競合」を防ぐ必要があります。アドレスデコーダは、指定されたアドレスに対応するデバイスのみを正確に選択します。
  2. アドレス空間の効率的な利用: 限られたアドレス空間を複数のデバイスで効率的に共有するために、デコーディングが必要です。例えば、わずか数バイトしか使用しないI/Oデバイスに対しても、ある程度のアドレス範囲を割り当てる必要があります。デコーダは、これらの割り当てを適切に管理します。
  3. 拡張性: 将来的に新しいメモリやI/Oデバイスを追加する際に、既存のアドレス空間と競合しないように、柔軟なアドレス割り当てとデコーディングを可能にします。

アドレスデコーディングの方式

アドレスデコーディングには、主に以下の方式があります。

  1. 完全デコーディング(Full Decoding):
    • 概要: CPUのアドレスバスのすべてのビットをアドレスデコーダへの入力として使用し、各デバイスに厳密にユニークなアドレス範囲を割り当てる方式です。
    • 利点: アドレス競合が発生せず、アドレス空間を最も効率的に使用できます。
    • 課題: デコーダ回路が複雑になり、コストが増大します。特にアドレスバスの幅が広い場合、論理ゲートの数が増加します。
  2. 部分デコーディング(Partial Decoding):
    • 概要: CPUのアドレスバスの一部のビットのみをアドレスデコーダへの入力として使用し、残りのアドレスビットは無視する方式です。
    • 利点: デコーダ回路が単純になり、コストを削減できます。実装が容易です。
    • 課題: 未使用のアドレスビットがあるため、同じデバイスが複数のアドレスにマッピングされる「ミラーリング(Mirroring)」が発生する可能性があります。これにより、アドレス空間の利用効率は低下し、将来の拡張性が制限されることがあります。アドレス競合のリスクも存在します。
  3. その他のデコーディング方式:
    • ORゲートによるデコーディング: 複数のアドレス範囲を一つのデバイスに割り当てる簡易的な方法。
    • プログラマブルロジックデバイス(PLD/CPLD/FPGA)によるデコーディング: 複雑なアドレスデコーディングロジックを柔軟に実装でき、設計変更にも対応しやすい。現代のシステムで広く採用されています。

アドレスデコーディングの構成要素

アドレスデコーディング回路は、通常、以下のような論理素子を組み合わせて構成されます。

  • 論理ゲート(AND, OR, NOTゲート): アドレスビットの組み合わせを検出するために使用されます。
  • デコーダIC(例: 74LS138 3-to-8ラインデコーダ): 複数の入力ビットの組み合わせから、単一の出力を選択的にアクティブにする汎用デコーダICがよく用いられます。
  • コンパレータIC: アドレスバスの値と特定のアドレス範囲の上限/下限を比較するために使用されることがあります。

アドレスデコーディングは、CPUがメモリやI/Oデバイスにアクセスする際に、アドレス信号を解釈し、目的のデバイスを正確に選択・識別するためのプロセスです。アドレス競合の防止、アドレス空間の効率的な利用、将来の拡張性確保のために不可欠な機能です。完全デコーディングは厳密なアドレス割り当てを可能にする一方で回路が複雑になり、部分デコーディングは回路が単純ですがアドレス空間の効率性や拡張性に課題を抱えます。現代のシステムでは、プログラマブルロジックデバイスを用いて複雑かつ柔軟なデコーディングロジックが実装されることが一般的です。アドレスデコーディングは、コンピュータシステムの基盤を支える重要なハードウェア設計要素の一つです。

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