サーバークラスタリングとは

サーバークラスタリング(Server Clustering)とは、複数の独立したサーバーを論理的に連携させ、それらを単一の強力なシステムとして稼働させる技術を指します。

これにより、システムの可用性(Availability)スケーラビリティ(Scalability)を向上させ、障害発生時にもサービスを継続させたり、増大する処理要求に対応したりすることが可能になります。

サーバークラスタリングの基本的な概念

サーバークラスタリングは、エンタープライズシステムやウェブサービスなど、高い信頼性と性能が求められる環境で広く利用されています。

主な概念は以下の通りです。

  1. ノード(Node): クラスタを構成する個々のサーバーのことです。各ノードは、独立した物理サーバーまたは仮想サーバーであり、互いに通信しながら協調動作します。
  2. 可用性(Availability): システムが稼働可能である時間の割合を示す指標です。クラスタリングは、一部のノードに障害が発生してもサービスを継続することで、可用性を高めます。
  3. スケーラビリティ(Scalability): システムが処理能力を増減できる柔軟性を示す指標です。クラスタリングは、ノードを追加することで処理能力を向上させる「スケールアウト」を実現します。
  4. 単一障害点(Single Point of Failure: SPOF): システム内で、そのコンポーネントに障害が発生すると、システム全体が停止してしまうような箇所です。クラスタリングは、この単一障害点を排除することを目的の一つとします。
  5. フェイルオーバー(Failover): 稼働中のノードに障害が発生した場合に、自動的に待機系(スタンバイ)または他の稼働中のノードに処理を引き継ぐ(切り替える)機能です。これにより、サービスの中断時間を最小限に抑えます。
  6. ロードバランシング(Load Balancing): 複数のノード間で、受信する処理要求(負荷)を均等に分散させる機能です。これにより、システム全体の処理効率を最大化し、特定ノードへの負荷集中を防ぎます。

サーバークラスタリングの主な種類

サーバークラスタリングは、その目的と動作原理によっていくつかの主要な種類に分けられます。

1. 高可用性クラスター(High Availability Cluster: HA Cluster)

  • 目的: 主にシステムやサービスの可用性を最大化することです。単一障害点を排除し、一部のサーバーに障害が発生しても、サービスが停止しないように設計されます。
  • 動作原理: 通常、「アクティブ・スタンバイ」または「アクティブ・パッシブ」構成が取られます。
    • アクティブノード: サービス要求を実際に処理しているサーバー。
    • スタンバイノード(パッシブノード): アクティブノードに障害が発生した場合に備えて待機しており、アクティブノードの状態を常に同期または監視しています。
    • 共有ストレージ: 複数のノードが同じデータにアクセスできるよう、共有ストレージ(例: SAN, NAS)を利用することが一般的です。
    • ハートビート: ノード間で定期的に「ハートビート」と呼ばれる信号を送り合い、互いの正常性を監視します。
    • フェイルオーバー: アクティブノードが応答しなくなった場合、スタンバイノードが検知し、自動的に処理を引き継いでサービスを再開します。
  • 特徴:
    • ダウンタイムを極めて短くできる(数秒から数分)。
    • 主にミッションクリティカルなデータベースサーバー、アプリケーションサーバーなどで利用されます。
    • 通常時にスタンバイノードのリソースが有効活用されない場合がある。
  • : Microsoft Failover Cluster, Pacemaker/Corosync (Linux), Oracle RAC (Data Guardはレプリケーション), Veritas Cluster Server

2. ロードバランシングクラスター(Load Balancing Cluster)

  • 目的: 主にシステムやサービスのスケーラビリティと性能を向上させることです。複数のサーバーに処理負荷を分散させることで、大量の同時アクセスや処理要求に対応します。
  • 動作原理: 通常、「アクティブ・アクティブ」構成が取られます。
    • ロードバランサー: クライアントからの要求を受け取り、クラスタ内の複数のノードに均等に、または特定のアルゴリズム(例: ラウンドロビン、最小コネクション数)に基づいて振り分けます。
    • 各ノードは独立してサービス要求を処理します。
    • 1つのノードに障害が発生しても、ロードバランサーはそのノードへの振り分けを停止し、残りの正常なノードでサービスを継続します。
  • 特徴:
    • 処理能力をスケールアウトできる。
    • 高可用性も副次的に実現できる。
    • 主にWebサーバー、アプリケーションサーバー、キャッシュサーバーなどで利用されます。
  • : Nginx, HAProxy, F5 BIG-IP, AWS ELB (Elastic Load Balancing)

3. ハイパフォーマンスクラスター(High Performance Computing Cluster: HPC Cluster)

  • 目的: 膨大な計算処理能力を必要とする科学技術計算やシミュレーションなど、特定の種類の非常に複雑な問題を高速に解決することです。
  • 動作原理: 多数のノードが緊密に連携し、複雑な計算タスクを並列処理します。各ノードは、特定の計算タスクの一部を担当し、その結果を共有して最終的な解を導き出します。
  • 特徴:
    • 個々のノードの障害耐性よりも、全体の計算能力に重点が置かれることが多い。
    • 特殊な高速ネットワーク(例: InfiniBand)や並列ファイルシステムが使用される。
  • : スーパーコンピュータ、グリッドコンピューティング、ビッグデータ解析基盤の一部

サーバークラスタリングのメリットとデメリット

メリット

  1. 可用性の向上: 一部のノードに障害が発生しても、残りのノードがサービスを引き継ぐため、システム全体のダウンタイムを最小限に抑えられます。これは事業継続性にとって極めて重要です。
  2. スケーラビリティの向上: システムの負荷が増大した場合、新しいノードをクラスタに追加するだけで、処理能力を容易に拡張できます(スケールアウト)。
  3. 性能の向上: ロードバランシングクラスターの場合、複数のノードで処理を分散することで、単一サーバーでは対応できないような大量の同時アクセスや高負荷処理に対応できます。
  4. メンテナンスの容易性: 計画的なメンテナンス(パッチ適用、ハードウェア交換など)を行う際も、一部のノードをクラスタから一時的に切り離して作業を行い、サービスを停止せずにメンテナンスを完了できます。

デメリット

  1. コストの増加: 複数台のサーバー、共有ストレージ、ロードバランサー、クラスタリングソフトウェアなど、単一サーバー構成に比べて初期導入コストと運用コストが増大します。
  2. 複雑性の増加: システム構成が複雑になり、設計、導入、設定、運用、監視、トラブルシューティングがより困難になります。特に、ノード間のデータ同期やフェイルオーバーのロジックは複雑です。
  3. シングルポイントオブアタック(SPOA)のリスク: クラスタソフトウェア自体のバグや、共有ストレージの障害など、クラスタ全体に影響を及ぼす単一障害点が存在する可能性があります。
  4. データ整合性の課題: 特にアクティブ・アクティブ構成や分散トランザクションを扱う場合、複数のノード間でデータの整合性を保つための設計と実装が非常に重要になります。

サーバークラスタリング(Server Clustering)とは、複数の独立したサーバーを論理的に連携させ、それらを単一のシステムとして稼働させる技術です。

この技術は、システムの可用性、スケーラビリティ、性能を向上させることを主な目的とし、障害発生時にもサービスを継続させたり、増大する処理要求に対応したりすることを可能にします。

高可用性クラスター、ロードバランシングクラスター、ハイパフォーマンスクラスターといった種類があり、それぞれ異なる目的と動作原理を持ちます。

サーバークラスタリングは、ダウンタイムの最小化、処理能力の拡張、メンテナンスの容易性といった多くのメリットをもたらしますが、コストの増加やシステム構成の複雑化といったデメリットも伴います。したがって、ビジネスの要件、予算、運用体制などを総合的に考慮し、最適なクラスタリング方式を選択・設計することが、安定したITサービスを構築する上で不可欠です。

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