ストレージエリアネットワークとは

ストレージエリアネットワーク(Storage Area Network: SAN)とは、複数のサーバーとストレージデバイスを高速な専用ネットワークで接続し、サーバーからストレージをあたかも直接接続されたディスク(ローカルディスク)のように利用できるようにするシステム構成を指します。

これにより、従来のサーバーごとにストレージを持つ構成に比べて、データの集中管理、共有、バックアップ、災害対策などを効率的かつ柔軟に行うことが可能になります。

ストレージエリアネットワークの基本的な概念

SANは、エンタープライズシステムや大規模なデータセンターにおいて、データ管理の効率化と性能向上を実現するために不可欠なインフラ技術です。

主な概念は以下の通りです。

  1. サーバー(Server): データにアクセスして処理を行うコンピュータです。SAN環境では、複数のサーバーが同じストレージリソースを共有できます。
  2. ストレージデバイス(Storage Device): ハードディスクアレイ、SSDアレイ、テープライブラリなど、データを保存するための物理的な機器です。SANでは、これらのデバイスが統合的に管理されます。
  3. 専用ネットワーク(Dedicated Network): サーバーとストレージ間のデータ転送のために、通常の業務ネットワーク(LAN)とは別に構築される高速なネットワークです。これにより、データ転送の帯域幅が確保され、他のネットワークトラフィックの影響を受けにくくなります。
  4. ブロックアクセス(Block Access): SANは、ストレージ上のデータを「ブロック」という単位でサーバーに提供します。これは、サーバーのOSが直接ディスクの物理セクタにアクセスするのと同様の低レベルなアクセスであり、ファイルサーバー(NAS)が提供するファイル単位のアクセスとは異なります。
  5. LUN(Logical Unit Number): SAN環境において、ストレージアレイが提供する論理的なディスクドライブの単位です。各LUNは、サーバーから見ると独立した一つのディスクとして認識され、OSによってフォーマットされ、ファイルシステムが構築されます。

ストレージエリアネットワークの構成要素

SANは、いくつかの主要なコンポーネントで構成されます。

  1. SANスイッチ(SAN Switch): サーバーとストレージデバイスを相互接続するための専用のスイッチです。SANの基盤となるネットワークを構築します。
    • 主要なプロトコル:
      • ファイバーチャネル(Fibre Channel: FC): 最も一般的なSANのプロトコルで、高速かつ信頼性の高いデータ転送を特徴とします。専用のHBA(Host Bus Adapter)と光ファイバーケーブルを使用します。
      • iSCSI(Internet Small Computer System Interface): SCSIコマンドをTCP/IPネットワーク上でカプセル化して転送するプロトコルです。既存のイーサネットネットワークを利用できるため、比較的安価にSANを構築できます。
      • FCoE(Fibre Channel over Ethernet): ファイバーチャネルのフレームをイーサネット上で転送するプロトコルで、イーサネットインフラでFCの利点を享受することを目指します。
  2. ホストバスアダプター(Host Bus Adapter: HBA): サーバー側に搭載される専用のインターフェースカードで、サーバーとSANスイッチを接続します。SCSIコントローラと同様の役割を果たし、SANプロトコルに合わせた物理層の接続を提供します。iSCSIの場合は、通常のNIC(Network Interface Card)で代用できることもあります。
  3. ストレージアレイ(Storage Array): 複数のディスクドライブを統合し、RAIDなどの技術で冗長性や性能を高めたストレージシステムです。SAN環境で共有されるデータの実体を格納します。
  4. ケーブル(Cables): ファイバーチャネルの場合は光ファイバーケーブル、iSCSIの場合はイーサネットケーブルを使用します。

ストレージエリアネットワークの主な利点

SANは、従来のサーバー直結型ストレージやファイルサーバーと比較して、多くのメリットを提供します。

  1. ストレージの統合と共有: 複数のサーバーが単一のストレージプールを共有できるため、ストレージリソースの利用効率が向上します。サーバーごとに個別のストレージを用意する必要がなくなり、容量の無駄を削減できます。
  2. 高いスケーラビリティ: ストレージ容量が不足した場合でも、サーバーを停止することなく、必要に応じてストレージアレイにディスクを追加したり、新しいストレージアレイをSANに追加したりして、柔軟に容量を拡張できます。
  3. 高いパフォーマンス: 専用の高速ネットワーク(ファイバーチャネルなど)を使用し、ブロックレベルでのアクセスを行うため、大量のデータ転送や高IOPS(Input/Output Operations Per Second)が必要なワークロードに適しています。通常のLANトラフィックの影響を受けないため、安定した性能を発揮します。
  4. 管理性の向上: ストレージリソースが一元的に管理されるため、バックアップ、リストア、レプリケーション、スナップショットなどのデータ管理操作を効率的に行えます。
  5. 可用性と耐障害性の向上: 複数のサーバーから同じデータにアクセスできるため、サーバーに障害が発生した場合でも、残りの健全なサーバーからデータにアクセスし続けられます(HAクラスターとの連携)。ストレージアレイ自体もRAIDなどの冗長化機能を持つため、ディスク故障にも強いです。
  6. 災害対策(DR)の実現: 遠隔地のSANへデータをレプリケーションすることで、大規模災害発生時でもデータの継続性を確保し、事業継続計画(BCP)を強化できます。

ストレージエリアネットワークの課題

一方で、SANには以下のようなデメリットも存在します。

  1. 高コスト: 専用のHBA、SANスイッチ、光ファイバーケーブル、高性能なストレージアレイなど、高価な機器が必要となるため、導入コストが非常に高くなります。
  2. 複雑な設計と構築: ファイバーチャネルのゾーニング設定やLUNマッピングなど、専門的な知識と技術が必要となり、設計、構築、運用が複雑になります。
  3. 運用管理の専門性: SANの性能監視、障害対応、容量計画などには、専門的なスキルを持つIT管理者が求められます。
  4. 単一障害点のリスク: SANスイッチやHBAが二重化されていない場合、それらが単一障害点となる可能性があります。高い可用性を実現するためには、これらのコンポーネントも冗長化する必要があります。

ストレージエリアネットワーク(Storage Area Network: SAN)とは、複数のサーバーとストレージデバイスをファイバーチャネルやiSCSIといった高速な専用ネットワークで接続し、ストレージリソースをブロックレベルで共有可能にするシステム構成です。

これにより、データの統合管理、容量の柔軟な拡張、高いパフォーマンスの実現、可用性と耐障害性の向上、そして効率的な災害対策が可能となります。特に大規模なエンタープライズシステムや高い性能と信頼性が求められる環境において、SANは不可欠なインフラ技術として広く採用されています。

しかし、高コストや設計・運用の複雑性といった課題も存在するため、システムの要件や予算を慎重に検討し、最適なストレージ戦略を選択することが重要です。

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