スパースとは

スパース(Sparse、疎)とは、数学、情報科学、特に機械学習の分野において、ベクトル、行列、テンソルなどのデータ構造において、その要素の大部分がゼロである状態を指す用語です。

対義語は「密(Dense)」であり、密なデータ構造では、ほとんどの要素が非ゼロの値を持っています。スパースなデータ構造は、メモリ使用量の削減や計算効率の向上に寄与する場合があります。

スパース の基本概念

多くの実世界のデータは、本質的にスパースな性質を持っています。例えば、自然言語処理における文書の単語出現頻度を表すベクトルは、語彙数が数万以上に及ぶのに対し、一つの文書に実際に現れる単語はごく一部であるため、ほとんどの要素がゼロになります。ソーシャルネットワークの隣接行列も、ノード数が非常に多い一方で、各ノードが直接接続しているノード数は限られているため、多くの要素がゼロとなります。

スパースなデータ構造をそのまま密な形式で扱うと、大量の不要なゼロを格納するためにメモリを浪費し、ゼロを含む要素に対しても無駄な計算を行うことになり、効率が悪くなります。そのため、スパースなデータを効率的に表現し、処理するための様々な手法が開発されています。

スパース表現の形式

スパースなデータ構造を効率的に表現するための主な形式には、以下のようなものがあります。

  1. 座標形式(Coordinate Format, COO): (行インデックス, 列インデックス, 値) のタプルのリストで非ゼロ要素を表現します。テンソルの場合は、次元数に応じてインデックスの数が変わります。 例:​100​020​003​​ は、COO形式で [(0, 0, 1), (1, 1, 2), (2, 2, 3)] と表現できます。
  2. 圧縮行形式(Compressed Sparse Row, CSR)/圧縮列形式(Compressed Sparse Column, CSC): 行(または列)ごとの非ゼロ要素とその列(または行)インデックス、および各行(または列)の非ゼロ要素の開始位置を格納します。CSRは行方向のアクセス、CSCは列方向のアクセスに効率的です。 例(CSR):​100​020​003​​ は、 値:[1, 2, 3] 列インデックス:[0, 1, 2] 行ポインタ:[0, 1, 2, 3] と表現できます。行ポインタの i 番目の要素は、i 行目の非ゼロ要素が「値」と「列インデックス」の配列のどこから始まるかを示します。
  3. 辞書形式(Dictionary of Keys, DOK): 非ゼロ要素のインデックスをキーとし、その値をバリューとする辞書(ハッシュマップ)で表現します。要素へのランダムアクセスが効率的です。 例:​100​020​003​​ は、DOK形式で {(0, 0): 1, (1, 1): 2, (2, 2): 3} と表現できます。

スパース性 の利用

スパースな性質を持つデータを効率的に扱うことは、計算資源の節約やアルゴリズムの高速化に繋がります。

  • メモリ効率: ゼロ要素を明示的に格納しないため、データサイズを大幅に削減できます。特に大規模なデータセットにおいて有効です。
  • 計算効率: スパースなデータ構造に対応したアルゴリズムを用いることで、ゼロ要素に対する不要な計算をスキップし、非ゼロ要素のみに焦点を当てた効率的な処理が可能になります。例えば、スパース行列同士の乗算では、非ゼロ要素の積のみを計算することで計算量を削減できます。
  • 特徴選択: 機械学習において、多くの特徴量が目的変数と無関係である場合、特徴ベクトルはスパースになります。スパースなデータを扱うアルゴリズムは、このような高次元でスパースなデータに対して有効な場合があります。
  • 正則化: L1正則化(Lasso回帰など)は、モデルのパラメータをスパースにする効果があり、不要な特徴量の重みをゼロにすることで、モデルの汎化性能を向上させることがあります。

機械学習におけるスパース性

機械学習の分野では、スパース性は様々な場面で重要となります。

  • 自然言語処理 (NLP): TF-IDF(Term Frequency-Inverse Document Frequency)で表現された文書ベクトルや、単語の共起行列などは典型的なスパースデータです。
  • 推薦システム: ユーザーとアイテムのインタラクションを表す行列(例:評価値行列)は、ほとんどのユーザーが全アイテムを評価しているわけではないため、非常にスパースになります。
  • グラフニューラルネットワーク (GNN): 大規模なグラフの隣接行列はスパースであり、スパース行列演算を効率的に行うことがGNNの性能に影響を与えます。
  • 深層学習: モデルの重みや活性化も、特定の条件下でスパースになることが研究されています。スパースなニューラルネットワークは、推論の高速化や省メモリ化に貢献する可能性があります。

スパース(疎)とは、データ構造の大部分がゼロで構成されている状態を指し、メモリ効率や計算効率の向上に貢献する重要な概念です。座標形式、圧縮行形式/圧縮列形式、辞書形式など、様々なスパース表現形式が存在し、データの特性や利用目的に応じて適切な形式が選択されます。機械学習をはじめとする多くの情報科学の分野において、スパースなデータの効率的な取り扱いは、大規模データ分析やリソース制約のある環境での応用において不可欠な技術となっています。

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