スライディングウィンドウとは
スライディングウィンドウ(Sliding Window)とは、データ列(配列、リスト、文字列など)の中から、特定の問題を解決するために、固定長または可変長の連続する部分列(ウィンドウ)を効率的に処理するアルゴリズムの設計パターンを指します。
この手法は、ウィンドウをデータ列に沿って「スライド」させていくことで、すべての部分列を効率的に検査し、計算量を削減することを目的とします。特に、特定の範囲内の合計値、最大値、最小値、頻度などを求める問題や、文字列の部分文字列を探索する問題で非常に有効です。
スライディングウィンドウの基本的な概念
スライディングウィンドウは、多くの場合、線形時間計算量(O(N))で問題を解決できるため、大規模なデータセットの処理に適しています。
主な概念は以下の通りです。
- データ列(Sequence): 処理の対象となる、順序付けられた要素の並びです。配列、リスト、文字列などが該当します。
- ウィンドウ(Window): データ列の中から選択される、連続する部分列のことです。
- ウィンドウサイズ(Window Size): ウィンドウに含まれる要素の数です。これが固定されている場合と、問題の条件によって可変となる場合があります。
- スライド(Slide): ウィンドウをデータ列の次の位置へ移動させる操作です。通常、ウィンドウの先頭要素を削除し、末尾に新しい要素を追加することで実現されます。これにより、毎回ウィンドウ全体を再計算するのではなく、差分計算で効率的な更新が可能になります。
- 時間計算量(Time Complexity): スライディングウィンドウは、各要素を最大でも定数回(ウィンドウへの追加と削除など)しか処理しないため、効率的なアルゴリズムとなります。
スライディングウィンドウの種類と動作原理
スライディングウィンドウには、主に「固定長ウィンドウ」と「可変長ウィンドウ」の2つのタイプがあります。
1. 固定長ウィンドウ(Fixed-size Window)
- 概要: ウィンドウのサイズが事前に決まっており、データ列を1要素ずつ移動させながら処理するタイプです。
- 動作原理:
- まず、指定されたウィンドウサイズの最初の部分列(初期ウィンドウ)を構築し、必要な計算(合計、平均など)を行います。
- 次に、ウィンドウを1要素分右にスライドさせます。このとき、ウィンドウの先頭の要素を削除し、新しい末尾の要素を追加します。
- 計算結果は、先頭要素の削除と末尾要素の追加による差分だけを更新することで、効率的に行われます。
- 例: 配列
[1, 2, 3, 4, 5, 6]
に対して、サイズ3のウィンドウで各部分列の合計を求める場合。- 初期ウィンドウ:
[1, 2, 3]
-> 合計 6 - スライド1:
[1]
を削除、[4]
を追加 ->[2, 3, 4]
-> 合計 6 – 1 + 4 = 9 - スライド2:
[2]
を削除、[5]
を追加 ->[3, 4, 5]
-> 合計 9 – 2 + 5 = 12 - …というように計算を進めます。
- 初期ウィンドウ:
- 応用例:
- 移動平均の計算
- 株価データの特定期間の最大・最小値検索
- 文字列の特定長のサブストリング検索
2. 可変長ウィンドウ(Variable-size Window)
- 概要: ウィンドウのサイズが問題の条件(例: 特定の制約を満たす最小のウィンドウ、最大となるウィンドウなど)に応じて動的に変化するタイプです。
- 動作原理:
- ウィンドウの開始点(左ポインタ)と終了点(右ポインタ)の2つのポインタを使用します。
- 右ポインタを1要素ずつ右に進め、ウィンドウを拡張していきます。
- ウィンドウが特定の条件を満たす、または条件に違反した場合、左ポインタを右に進めてウィンドウを縮小し、条件を再調整します。
- この拡張と縮小を繰り返しながら、問題の解となる最適なウィンドウを見つけます。
- 例: 文字列内の「重複しない文字からなる最長部分文字列」を求める場合。
- 右ポインタを進めて新しい文字を追加。
- 重複が見つかったら、左ポインタを進めて重複する文字がウィンドウ外に出るまで縮小。
- ウィンドウが縮小するたびに、または拡張するたびに、最長となる部分文字列の長さを更新。
- 応用例:
- 特定の条件を満たす最小部分配列の探索
- 特定の文字を含まない最長部分文字列の探索
- 要素の合計がK以下となる最大の部分配列の探索
スライディングウィンドウのメリットと注意点
メリット
- 計算量の削減: 従来の「すべての部分列を列挙して検査する」方法(通常O(N^2) やO(N^3))に比べ、各要素がウィンドウに一度入って一度出るだけなので、線形時間計算量O(N) で問題を解けることが多く、非常に効率的です。
- 空間計算量の削減: ウィンドウ内のデータのみを保持すればよいため、余分なメモリを消費しません。
- 汎用性: 多様な種類の問題に応用できる設計パターンです。
注意点と実装上の考慮事項
- 問題の特定: スライディングウィンドウが適用できる問題は、通常「連続する部分列」に関するもので、かつ「ウィンドウ内のデータを効率的に更新できる」性質を持つものです。
- ウィンドウの更新ロジック: ウィンドウの右端に新しい要素が追加され、左端から古い要素が削除される際に、計算結果をいかに効率的に更新するかが鍵となります。
- エッジケース: 空のデータ列、ウィンドウサイズがデータ列の長さよりも大きい場合、単一要素のデータ列など、特定のエッジケースを適切に処理する必要があります。
- データ構造の選択: ウィンドウ内の要素の追加・削除や、最大・最小値の取得などを効率的に行うために、ハッシュマップ(頻度カウント用)、デキュー(両端キュー、ウィンドウの最大・最小値管理用)などの適切なデータ構造を選択することが重要です。
スライディングウィンドウ(Sliding Window)とは、データ列から固定長または可変長の連続する部分列(ウィンドウ)を効率的に処理するためのアルゴリズム設計パターンです。
ウィンドウをデータ列に沿って「スライド」させ、ウィンドウの先頭要素を削除し、末尾に新しい要素を追加することで、毎回ウィンドウ全体を再計算することなく、差分更新によって効率的な処理を可能にします。これにより、通常は二乗以上の時間計算量を必要とする問題に対して、線形時間計算量 O(N) で解決できることが多く、計算資源の節約に大きく貢献します。
固定長と可変長の2種類があり、移動平均、文字列の部分文字列検索、条件を満たす最適部分列の探索など、幅広い問題に応用されています。スライディングウィンドウを効果的に活用するためには、問題の特性を見極め、適切なウィンドウ更新ロジックとデータ構造を選択することが重要です。
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