ソフトウェア冗長化とは
ソフトウェア冗長化(Software Redundancy)とは、システム全体の信頼性や可用性を高めるために、同じ機能を持つソフトウェアコンポーネントを複数用意し、それらを並行して動作させたり、スタンバイさせたりすることで、単一障害点(Single Point of Failure)を排除する技術を指します。
ハードウェアの冗長化と組み合わせることで、システム全体の安定稼働をより確実なものにします。
ソフトウェア冗長化の基本的な概念
システムを構成するソフトウェアの一部に障害が発生した場合でも、全体のサービスが停止したり、データが失われたりする事態を防ぐことが、ソフトウェア冗長化の主要な目的です。これにより、システムの「止まらない」「壊れない」性質を強化できます。
主な概念は以下の通りです。
- 信頼性(Reliability): システムが所定の期間、所定の条件下で、故障することなく要求された機能を実行し続ける能力です。冗長化は信頼性向上に寄与します。
- 可用性(Availability): システムが稼働可能である時間の割合です。冗長化は、障害発生時にもサービスを継続させることで可用性を高めます。
- 単一障害点(Single Point of Failure:SPOF): システム内で、そのコンポーネントに障害が発生すると、システム全体が停止してしまうような箇所のことです。冗長化は、この単一障害点を排除することを目的とします。
- フェイルオーバー(Failover): 稼働中のシステムコンポーネントに障害が発生した場合に、自動的に待機系(スタンバイ)のコンポーネントに処理を引き継ぐ(切り替える)機能です。これにより、サービスの中断時間を最小限に抑えます。
- フォールトトレランス(Fault Tolerance): システムの一部に障害が発生しても、システム全体がその機能を維持し続ける能力です。冗長化はフォールトトレランスを実現するための重要な手段です。
ソフトウェア冗長化の主な方式
ソフトウェア冗長化には、その目的や実現方法に応じていくつかの主要な方式が存在します。
1. ホットスタンバイ(Hot Standby)/ アクティブ・スタンバイ(Active-Standby)
- 概要: 2つのソフトウェアコンポーネントを用意し、一方がアクティブ(稼働系)として処理を行い、もう一方がスタンバイ(待機系)としてアクティブ系の状態を常に同期しながら待機している方式です。アクティブ系に障害が発生した場合、スタンバイ系が直ちに処理を引き継ぎます。
- 特徴:
- 切り替えが高速: スタンバイ系が常に最新の状態を同期しているため、障害発生時のサービス停止時間が短い(数秒から数十秒程度)。
- 状態の同期: データベースのレプリケーションやアプリケーションレベルでのセッション情報同期など、アクティブ系の状態をスタンバイ系にリアルタイムで反映させる仕組みが必要です。
- リソース効率: 待機系は通常、処理を行わないため、リソースの利用効率はアクティブ・アクティブ方式よりも低い。
- 適用例: データベースサーバーの冗長化(マスター・スレーブレプリケーション)、アプリケーションサーバーのクラスタリング、ファイアウォールやロードバランサーの二重化など。
2. コールドスタンバイ(Cold Standby)/ アクティブ・パッシブ(Active-Passive)
- 概要: アクティブ系が稼働している間、スタンバイ系は電源がオフになっているか、非常に最小限の状態で待機している方式です。障害発生時にスタンバイ系を起動し、必要なデータを復旧してから処理を開始します。
- 特徴:
- コスト効率: ハードウェアリソースや電力消費を抑えられるため、コストが低い。
- 切り替えに時間がかかる: スタンバイ系の起動やデータ復旧に時間がかかるため、サービス停止時間が長くなる(数分から数時間程度)。
- 状態の同期: 通常、定期的なバックアップや非同期レプリケーションなど、同期の頻度はホットスタンバイより低い。
- 適用例: 災害復旧(DR)サイト、バックアップシステム、重要度が低く一時的なサービス停止が許容されるシステムなど。
3. アクティブ・アクティブ(Active-Active)
- 概要: 複数のソフトウェアコンポーネントが同時にアクティブとして稼働し、負荷分散装置(ロードバランサーなど)によってトラフィックをそれぞれのコンポーネントに分散させる方式です。
- 特徴:
- 高可用性と高性能: すべてのコンポーネントが処理を行うため、全体の処理能力が高く、一台に障害が発生しても残りのコンポーネントでサービスを継続できる。
- リソース効率: すべてのリソースが活用されるため、リソース利用効率が高い。
- 複雑な状態管理: セッション情報やデータの一貫性を保つためのより高度な同期メカニズムや、分散トランザクション管理が必要となる場合がある。
- 適用例: 大規模なWebアプリケーションサーバー、マイクロサービスアーキテクチャ、分散データベースなど。
4. N-モジュール冗長(N-Modular Redundancy:NMR)
- 概要: 同じ機能を持つN個のソフトウェアモジュールを並行して実行し、その結果を多数決(投票)によって決定する方式です。最も単純な例は三重冗長(Triple Modular Redundancy:TMR)で、3つのモジュールのうち2つ以上が同じ結果を出せばそれが正しいと判断します。
- 特徴:
- 高い信頼性: 単一のモジュール障害だけでなく、複数のモジュール障害に対しても非常に高いフォールトトレランスを持つ。
- コストが高い: N個のコンポーネントと、結果を比較・決定する「投票器」が必要なため、コストと複雑性が高い。
- 適用例: 非常に高い信頼性が求められるミッションクリティカルなシステム(航空宇宙、医療機器、原子力発電所の制御システムなど)。
ソフトウェア冗長化のメリットとデメリット
メリット
- 可用性の向上: 障害発生時でもサービスを継続できるため、ダウンタイムを最小限に抑えられます。
- 信頼性の向上: コンポーネントの故障がシステム全体に波及するリスクを低減し、安定稼働に寄与します。
- データ保護: 複数の場所でデータを保持することで、データ損失のリスクを軽減します。
- パフォーマンス向上(アクティブ・アクティブの場合): 複数のコンポーネントで負荷を分散することで、全体の処理能力を高められます。
- 災害耐性: 遠隔地に冗長システムを配置することで、地域的な災害に対してもサービスを継続できる可能性があります(ディザスタリカバリ)。
デメリット
- コストの増加: ハードウェア、ソフトウェアライセンス、ネットワーク、運用管理など、あらゆる面でコストが増大します。
- 複雑性の増加: システム構成が複雑になり、設計、開発、テスト、運用、監視がより困難になります。特に、複数コンポーネント間のデータ同期や状態管理は大きな課題です。
- テストの難易度向上: 冗長化された環境での障害シナリオやフェイルオーバーのテストは複雑で、網羅的な検証が難しい場合があります。
- 同期の問題: アクティブ・スタンバイ方式などでは、コンポーネント間の状態同期が不完全な場合、切り替え時にデータの不整合が発生するリスクがあります。
- 二重障害のリスク: 冗長化システム自体に共通の原因となるバグや設計ミスが存在すると、冗長化が無効になり、両方のコンポーネントが同時に障害を起こすリスクがあります。
ソフトウェア冗長化(Software Redundancy)とは、システム全体の信頼性と可用性を高めるため、同じ機能を持つソフトウェアコンポーネントを複数配置する技術です。これにより、単一障害点を排除し、障害発生時にもサービスを継続できるようにします。主要な方式には、高速な切り替えが特徴の「ホットスタンバイ」、コスト効率に優れるが切り替えに時間を要する「コールドスタンバイ」、高い可用性と性能を両立する「アクティブ・アクティブ」、そして極めて高い信頼性を追求する「N-モジュール冗長」があります。
これらの冗長化は、可用性の向上やデータ保護といった大きなメリットをもたらしますが、コストの増加、システム構成の複雑化、テストの難易度向上といったデメリットも伴います。システムの要件とリソースを考慮し、適切な冗長化方式を選択し設計することが、安定したITサービスの提供には不可欠です。
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