テンソルとは

テンソル(Tensor)とは、スカラー、ベクトル、行列を一般化した多次元配列であり、データや物理量を表現するための数学的な概念のこと。

テンソル(Tensor)は、数学、物理学、コンピュータサイエンス、特に機械学習や深層学習の分野において、データや物理量を表現するための基本的な数学的構造です。最も単純な形ではスカラー(0階テンソル)、ベクトル(1階テンソル)、行列(2階テンソル)を拡張したものであり、3次元以上の配列、すなわち多次元配列として理解することができます。

テンソル の基本的な概念

テンソルは、その「階数(rank)」または「次元数(dimension)」によって特徴づけられます。

  • 0階テンソル(スカラー): 単一の数値。例えば、温度や質量などがこれに該当します。
  • 1階テンソル(ベクトル): 数の1次元配列。例えば、速度や力のように、大きさだけでなく方向も持つ量を表現するのに使われます。数学的には、

[x1​,x2​,…,xn​]

  • の形式で表されます。
  • 2階テンソル(行列): 数の2次元配列。画像データ(ピクセル値の行と列)、変換行列、物理学における応力やひずみを表現するのに使われます。数学的には、

 \begin{pmatrix} a_{11} & a_{12} \ a_{21} & a_{22} \end{pmatrix}

  • のような形式で表されます。
  • 3階以上のテンソル: 3次元以上の配列。例えば、カラー画像は、縦(高さ)、横(幅)、そして色チャネル(赤、緑、青)の3つの次元を持つ3階テンソルとして表現できます。動画データは、さらに時間軸が加わり4階テンソルとして扱われます。

テンソルは、座標系の変換(回転、伸縮など)に対しても特定の変換則に従うという性質を持ちます。この性質は、物理学において、座標系によらず普遍的な物理法則を記述する上で重要となります。

機械学習・深層学習における テンソル

機械学習、特に深層学習の分野では、テンソルはデータの表現と計算の基本単位として不可欠です。Googleが開発した深層学習フレームワーク「TensorFlow」の名前も、「テンソル(Tensor)がフロー(Flow)する(流れる、演算される)」ことに由来しています。

機械学習モデルでは、様々な種類のデータがテンソルとして扱われます。

  • 入力データ: 画像、音声、テキストなど、あらゆる種類の入力データは数値化され、テンソルとしてモデルに入力されます。
    • 例:モノクロ画像は2階テンソル(高さ × 幅)、カラー画像は3階テンソル(高さ × 幅 × 色チャネル数)、ミニバッチ処理における複数枚のカラー画像は4階テンソル(バッチサイズ × 高さ × 幅 × 色チャネル数)として表現されます。
    • 例:テキストは単語の埋め込みベクトル(1階テンソル)のシーケンスとして、そのシーケンス全体が2階テンソルとして扱われることがあります。さらにバッチ処理される場合は3階テンソルになります。
  • モデルのパラメータ: ニューラルネットワークの重み(Weights)やバイアス(Biases)もテンソルとして表現されます。これらのテンソルは、学習プロセス中に最適化アルゴリズム(例:勾配降下法)によって更新されます。
  • 中間層の出力: ニューラルネットワークの各層からの出力(活性化値)もテンソルとして伝播していきます。

深層学習フレームワークは、これらのテンソルに対する様々な数学的演算(テンソル積、要素ごとの積、畳み込み、行列積など)を効率的に、特にGPU(Graphics Processing Unit)のような並列計算に適したハードウェア上で実行するための機能を提供します。

テンソル と演算

テンソルに対しては、スカラー、ベクトル、行列と同様に様々な演算が定義されます。

  • 加算・減算: 同じ形状のテンソル同士で要素ごとに加算・減算が行われます。
  • 要素ごとの積(アダマール積): 同じ形状のテンソル同士で要素ごとに積が計算されます。
  • スカラー倍: テンソル全ての要素にスカラー値を乗算します。
  • テンソル積(外積): 2つのテンソルからより高階のテンソルを生成する演算。 例:2つのベクトル A=[a1​,a2​] と B=[b1​,b2​] のテンソル積(外積)は2階テンソル(行列)となります。

 A \otimes B = \begin{pmatrix} a_1 b_1 & a_1 b_2 \ a_2 b_1 & a_2 b_2 \end{pmatrix}

  • 内積・行列積: 特定の次元間で要素の積の和を取る演算。深層学習における層間の計算で頻繁に用いられます。

これらの演算は、多次元のデータを効率的に処理し、複雑な変換を表現するために不可欠です。

テンソルは、スカラー、ベクトル、行列を一般化した多次元配列であり、データや物理量を表現するための中心的な数学的概念です。特に機械学習や深層学習の分野では、入力データ、モデルのパラメータ、中間層の出力など、あらゆる情報がテンソルとして扱われます。テンソルに対する効率的な演算は、深層学習モデルの構築と訓練において極めて重要な役割を果たしており、現代のAI技術の基盤を支える概念の一つと言えるでしょう。

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