トップダウン構文解析とは
トップダウン構文解析(Top-Down Parsing)とは、構文木の根から葉に向かって、つまり文法規則の左辺から右辺への導出を試みながら構文解析を進める手法のこと。
トップダウン構文解析(Top-Down Parsing)は、コンパイラやインタプリタにおける構文解析(Parsing)の主要な手法の一つであり、プログラムのソースコードが与えられた文法規則(生成規則)に合致するかを検証する際に、構文木の「根(ルート)」から「葉(リーフ)」へと、つまり文法規則の左辺から右辺への導出を試みながら解析を進める手法です。これは、非終端記号を順次展開して、最終的に入力トークン列と一致するかの検証を行います。
トップダウン構文解析 の基本的な概念
構文解析の目的は、字句解析によって生成されたトークン列が、プログラミング言語の文法規則に適合しているかを判断し、その構造を構文木(Parse Tree)または抽象構文木(Abstract Syntax Tree, AST)として表現することです。トップダウン構文解析は、この過程を予測的または探索的に行います。
主要な概念は以下の通りです。
- 予測(Prediction): 現在の非終端記号を、どの文法規則(生成規則)の右辺に展開すれば、次の入力トークンと一致するかを予測します。
- 例: 文法規則
Statement -> Expression;
とExpression -> ID = Expression
があり、入力がx = 10;
であれば、Statement
をExpression;
に予測展開します。
- 例: 文法規則
- マッチング(Matching): 予測した文法規則の右辺にある終端記号(トークン)が、現在の入力トークンと一致するかを確認します。一致すれば、入力ポインタを進めます。一致しない場合は、エラーと判断するか、別の予測を試みます(バックトラック)。
- 再帰的下降(Recursive Descent): 最も一般的なトップダウン構文解析の実装方法です。文法規則の各非終端記号に対して、それぞれ専用の関数(またはメソッド)を作成し、関数呼び出しの再帰によって構文解析を進めます。
- 例: 非終端記号
Expression
に対応する関数parseExpression()
は、その右辺の構成要素(他の非終端記号や終端記号)に対応する関数を呼び出します。
- 例: 非終端記号
トップダウン構文解析 の種類
トップダウン構文解析は、その予測とバックトラックの有無によって、さらにいくつかの種類に分類されます。
- バックトラックを伴う再帰的下降パーサ(Recursive Descent Parser with Backtracking): 最も直感的な実装方法です。複数の文法規則の右辺に展開できる可能性がある場合、一つずつ試していき、失敗すれば前の状態に戻って(バックトラック)別の規則を試します。
- 利点: 文法を直接的に実装できるため、理解しやすい。
- 欠点: バックトラックによる効率の低下、無限ループに陥る可能性(左再帰の問題)。
- LLパーサ(Left-to-Right, Leftmost derivation): 入力トークン列を左から右へ読み込み(L)、最も左側の非終端記号を導出(L)するパーサです。バックトラックを伴わないため、効率的です。これを実現するためには、文法が特定の条件(LL(k)条件)を満たす必要があります。
- LL(k)パーサ: 先読み(lookahead)するトークン数が k 個であることを意味します。
- 利点: 高速で効率的。実装が比較的容易(特にLL(1))。
- 欠点: 文法に厳しい制約がある(左再帰の除去、共通接頭辞の因数分解が必要)。
- 例: 再帰的下降パーサ(バックトラックなし)、LL(1)テーブル駆動パーサ。
トップダウン構文解析 の動作原理(再帰的下降パーサの例)
文法規則の例: S -> A B
A -> a | epsilon
(epsilon
は空文字列) B -> b
入力トークン列: ab
- 開始記号
S
から解析を開始するため、parseS()
関数を呼び出します。 parseS()
はS -> A B
に基づき、parseA()
関数を呼び出し、次にparseB()
関数を呼び出します。parseA()
関数は、現在の入力トークンがa
であることを確認します。もしa
であれば、A -> a
を選択し、入力ポインタを進めます。そうでなければ、A -> epsilon
を選択し、入力ポインタはそのままです。- 入力
ab
の場合、parseA()
はa
を読み込み、入力はb
となります。
- 入力
- 次に
parseB()
関数を呼び出します。 parseB()
関数は、現在の入力トークンがb
であることを確認し、入力ポインタを進めます。- 入力
b
の場合、parseB()
はb
を読み込み、入力は空となります。
- 入力
- 全ての入力トークンが消費され、構文木が完成すれば、解析成功です。
トップダウン構文解析 の利点
- 実装の直感性: 特に再帰的下降パーサは、文法規則とプログラム構造が直接的に対応するため、手書きで実装しやすいです。
- エラー検出の容易さ: 不適切な入力トークンが予測された場合、比較的早期に構文エラーを検出できます。
- デバッグのしやすさ: 再帰的な構造のため、デバッグが比較的容易です。
トップダウン構文解析 の課題と限界
- 左再帰の問題(Left Recursion):
Expression -> Expression + Term
のような左再帰を含む文法規則は、再帰的下降パーサで無限ループを引き起こします。これを解決するためには、文法を書き換える(左再帰を除去する)必要があります。- 変換例:
Expression -> Term Expression'
Expression' -> + Term Expression' | epsilon
- 変換例:
- 共通接頭辞の問題(Common Prefixes):
Statement -> if ( Condition ) { Block }
Statement -> if ( Condition ) { Block } else { Block }
のような共通の接頭辞を持つ文法規則は、先読みなしではどちらの規則を適用すべきか判断できません。これを解決するためには、因数分解(Factoring)が必要です。- 変換例:
Statement -> if ( Condition ) { Block } StatementTail
StatementTail -> else { Block } | epsilon
- 変換例:
- 文法の制約: バックトラックなしの効率的なトップダウン解析(LLパーサ)を可能にするためには、文法が特定のLL(k)条件を満たす必要があり、元の文法を書き換える手間が生じることがあります。
- 大規模文法への対応: 大規模で複雑な文法に対して手書きでパーサを作成するのは困難であり、パーサジェネレータの利用が一般的です。
トップダウン構文解析は、構文木の根から葉に向かって、つまり文法規則の左辺から右辺への導出を試みながら構文解析を進める手法です。再帰的下降パーサやLLパーサがその代表的な実装であり、実装の直感性やエラー検出の容易さといった利点を持つ一方で、左再帰や共通接頭辞といった文法の問題への対処、および文法の制約といった課題も存在します。これらの課題を克服するための文法変換や、パーサジェネレータの利用が、現代のコンパイラ構築において重要視されています。
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