モデルベースクラスタリングとは

モデルベースクラスタリング(Model-Based Clustering)とは?データが特定の確率分布に従うと仮定し、その確率モデルのパラメータを推定することでデータをクラスターに分割するクラスタリング手法のこと

モデルベースクラスタリング(Model-Based Clustering)は、データが特定の確率分布(例えば、多変量正規分布)から生成されたものであるという統計的仮定に基づき、その確率モデルのパラメータを最尤推定などによって推定しながら、データを複数のクラスターに分割するクラスタリング手法です。

このアプローチでは、各クラスターがそれぞれ異なる確率分布に対応すると考え、データ点がいずれかのクラスターに属する確率(メンバーシップ確率)を算出します。これにより、従来の距離ベースのクラスタリング手法とは異なり、クラスターの形状やサイズ、密度が多様なデータセットに対しても、より柔軟かつ統計的に厳密なクラスターを形成することが可能になります。

モデルベースクラスタリング の基本的な概念

従来のクラスタリング手法(例えばk-平均法)が、データ点間の距離に基づいてクラスターを形成するのに対し、モデルベースクラスタリングは、データ生成の背後にある確率モデルを仮定します。このモデルは、混合モデル(Mixture Model)として表現されることが多く、特にガウス混合モデル(Gaussian Mixture Model, GMM)が代表的です。

ガウス混合モデル(GMM)を用いたモデルベースクラスタリングの考え方:

  • クラスターの仮定: データセット全体が、複数の異なるガウス分布(正規分布)の混合によって生成されたものと仮定します。各ガウス分布が、一つのクラスターに対応します。
  • パラメータの推定: 各クラスター(ガウス分布)は、平均ベクトル(μk​)、共分散行列(Σk​)、およびそのクラスターにデータ点が含まれる事前確率または混合比率(πk​)といったパラメータによって特徴付けられます。モデルベースクラスタリングの目標は、これらのパラメータをデータから推定することです。

 p(x|\theta) = \sum_{k=1}^K \pi_k \mathcal{N}(x|\mu_k, \Sigma_k)

  • ここで、p(x∣θ) はデータ点 x の確率密度関数、θ はモデルの全パラメータ(πk​,μk​,Σk​ の集合)、K はクラスター数、N は多変量正規分布です。
  • データ点の割り当て: 各データ点 xi​ は、推定された各ガウス分布に対し、どの程度の確率で属しているか(事後確率またはメンバーシップ確率)が計算されます。

 P(k|x_i, \theta) = \frac{\pi_k \mathcal{N}(x_i|\mu_k, \Sigma_k)}{\sum_{j=1}^K \pi_j \mathcal{N}(x_i|\mu_j, \Sigma_j)}

  • この確率に基づいて、データ点は最も確率の高いクラスターに割り当てられるか、あるいはソフトクラスタリング(複数のクラスターに属する確率を持つ)として扱われます。
  • 最尤推定とEMアルゴリズム: 上記のモデルパラメータの推定には、通常、期待値最大化(Expectation-Maximization, EM)アルゴリズムが用いられます。EMアルゴリズムは、以下の2つのステップを繰り返すことで、パラメータの最尤推定値を導き出します。
    1. Eステップ(Expectation Step): 現在のパラメータの推定値を用いて、各データ点が各クラスターに属する確率(メンバーシップ確率)を計算します。
    2. Mステップ(Maximization Step): 計算されたメンバーシップ確率を用いて、各クラスターのパラメータ(平均、共分散、混合比率)を更新し、尤度関数を最大化します。 このプロセスは、パラメータの収束または所定の反復回数に達するまで繰り返されます。

モデルベースクラスタリング の特徴と利点

モデルベースクラスタリングは、その統計的基盤から以下の優れた特徴と利点を提供します。

  1. 多様なクラスター形状への対応: k-平均法が球状のクラスター(分散が等しい)を前提とするのに対し、モデルベースクラスタリング(特にGMM)は、各クラスターが異なる共分散行列を持つことで、楕円形や様々な向きのクラスターを柔軟に捉えることができます。
  2. クラスター数の客観的な決定: AIC(Akaike Information Criterion)やBIC(Bayesian Information Criterion)といった情報量規準を用いて、統計的に最適なクラスター数を決定することが可能です。これは、試行錯誤に依存しがちな他の手法に比べて大きな利点です。

 \text{BIC} = -2 \log L(\hat{\theta}) + p \log N

  1. こで、L(θ^) は最大尤度、p はモデルのパラメータ数、N はデータ点の数です。BICが最小となるクラスター数が最適とされます。
  2. ソフトクラスタリング: 各データ点が特定のクラスターに属する確率を提示できるため、あいまいな境界を持つクラスターや、複数のクラスターにまたがるデータ点に対しても、より詳細な情報を提供できます。
  3. 外れ値の特定: データ点がどのクラスターにも低い確率でしか属さない場合、そのデータ点を外れ値として特定することができます。
  4. 統計的厳密性: 確率モデルに基づいているため、統計的推論や仮説検定の枠組みで結果を解釈できます。

モデルベースクラスタリング の課題

  • 計算コスト: EMアルゴリズムの反復計算が必要なため、特に大規模なデータセットや高次元データの場合、計算コストが高くなる傾向があります。
  • 初期値への依存: EMアルゴリズムは、初期パラメータの選択に依存して局所最適解に収束する可能性があります。これを緩和するために、複数回のランダムな初期化や、k-平均法などで得られた初期クラスターを利用するなどの工夫が必要です。
  • モデル選択: 適切な確率分布(例:ガウス分布以外にポアソン分布、ベルヌーイ分布など)や、ガウス分布の共分散行列の形状(例:球状、対角、フル共分散)を選択する必要があります。
  • クラスター数の決定: AICやBICといった情報量規準は有用ですが、常に完璧なクラスター数を示すわけではなく、ドメイン知識との併用が重要です。

モデルベースクラスタリング の応用分野

モデルベースクラスタリングは、その柔軟性と統計的厳密性から、多様な分野で応用されています。

  • 画像処理: 画像セグメンテーション(画像内の異なる領域を識別)、画像圧縮、テクスチャ分析など。
  • 音声認識: 話者識別、音響モデルの構築など。
  • バイオインフォマティクス: 遺伝子発現データのサブタイプ分類、疾患の診断など。
  • マーケティング: 顧客セグメンテーション、行動パターン分析など。
  • 異常検知: 正常なデータパターンからの逸脱度を確率的に評価し、異常なデータ点やイベントを特定。

モデルベースクラスタリングは、データが特定の確率分布に従うと仮定し、その確率モデルのパラメータを最尤推定などによって推定することでデータをクラスターに分割するクラスタリング手法です。

特にガウス混合モデル(GMM)とEMアルゴリズムがその中核を成します。このアプローチは、多様なクラスター形状への対応、クラスター数の客観的決定、ソフトクラスタリングの提供、外れ値の特定、そして統計的厳密性といった優れた利点を持つ一方で、計算コストや初期値への依存といった課題も存在します。

画像処理、音声認識、バイオインフォマティクス、マーケティング、異常検知など、データの本質的な構造を確率的に捉えたい様々な分野において、高精度なデータ分析と洞察を提供する強力なツールとして広く活用されています。

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