ワーキングメモリとは

ワーキングメモリ(Working Memory)とは、一時的に情報を保持し、それを処理・操作することで、複雑な認知活動を可能にする認知システムの一部のこと

ワーキングメモリ(Working Memory)は、認知心理学および認知神経科学の分野における重要な概念であり、私たちの脳が情報を一時的に保持し、同時にその情報を用いて思考や意思決定、問題解決などの複雑な認知タスクを実行する際に機能する、限定された容量の認知システムを指します。これは、単に情報を短期的に記憶する「短期記憶(Short-Term Memory)」とは異なり、保持と処理という二つの側面を兼ね備えている点が特徴です。

ワーキングメモリ の基本的な概念

ワーキングメモリは、私たちが現在意識しており、かつ積極的に利用している情報(例えば、会話中に相手の言葉を理解しながら自分の返答を考える、計算問題の途中の数字を覚えておく、地図を見ながら目的地までの経路を計画する、など)を扱います。その容量は非常に限定的であり、情報が保持される時間も短時間(通常は数秒から数十秒)に限られます。

アラン・バデリー(Alan Baddeley)とグラハム・ヒッチ(Graham Hitch)が1970年代に提唱したワーキングメモリのモデルは、その構造を理解する上で広く受け入れられています。このモデルでは、ワーキングメモリは以下の主要なコンポーネントから構成されるとされます。

  1. 中央実行系(Central Executive): ワーキングメモリの中核をなす部分であり、注意の制御、情報の配分、異なる情報源からの統合、タスクの切り替えなど、全体的な認知資源の管理と調整を担当します。情報の処理・操作を行う「司令塔」のような役割を果たします。
  2. 音韻ループ(Phonological Loop): 言語的な情報(音声や内的な発話、書かれた文字を音に変換したものなど)を一時的に保持・操作するサブシステムです。
    • 音韻ストア(Phonological Store): 音声情報を保持する受動的な記憶システム。
    • 発話性制御プロセス(Articulatory Control Process): 心の中で情報を反復したり、視覚情報を音韻コードに変換したりする活性化システム。
  3. 視空間スケッチパッド(Visuo-spatial Sketchpad): 視覚的および空間的な情報(物の位置、形状、色、空間的な配置など)を一時的に保持・操作するサブシステムです。
    • 視覚キャッシュ(Visual Cache): 視覚情報を保持する。
    • 内的書記(Inner Scribe): 空間的な情報を処理・操作する。
  4. エピソード・バッファ(Episodic Buffer): 2000年代に追加されたコンポーネントで、音韻ループや視空間スケッチパッドからの情報、および長期記憶からの情報(例:過去の経験、知識)を一時的に統合し、新しい統合的なエピソード(出来事のまとまり)を形成する役割を担います。これにより、ワーキングメモリの容量が一時的に拡張され、より複雑な情報の処理が可能になると考えられています。

ワーキングメモリ と短期記憶・長期記憶の違い

ワーキングメモリは短期記憶と混同されがちですが、以下のような明確な違いがあります。

特徴ワーキングメモリ短期記憶長期記憶
機能情報の保持操作・処理情報の一時的な保持のみ永続的な情報保持
容量非常に限定的(例:マジカルナンバー7±2、あるいは4±1など諸説あり)非常に限定的ほぼ無限
保持期間数秒〜数十秒(処理している間)数秒〜数十秒数分〜生涯
計算途中の数字を覚えておく、会話の相手の言葉を理解しつつ応答を考える電話番号をダイヤルするまで覚えておく幼少期の思い出、自転車の乗り方、単語の意味
ワーキングメモリ と短期記憶・長期記憶の違い

ワーキングメモリ の重要性

ワーキングメモリは、私たちの日常生活における様々な認知活動の基盤となります。

  • 学習: 新しい情報を理解し、長期記憶に定着させる過程で重要な役割を果たします。
  • 読解: 文の構造を理解し、単語の意味を統合しながら文章全体の意味を把握する。
  • 問題解決: 問題の条件を記憶し、解決策を検討する。
  • 意思決定: 複数の選択肢を比較検討し、最適なものを選ぶ。
  • 推論: 与えられた情報から論理的な結論を導き出す。

ワーキングメモリの機能が低下すると、集中力の低下、情報の理解困難、計画性の欠如などの問題が生じる可能性があります。ADHD(注意欠陥・多動性障害)や学習障害、加齢による認知機能の低下などとの関連も研究されています。

ワーキングメモリ の評価とトレーニング

ワーキングメモリの容量や効率性を評価するテスト(例:数字逆唱課題、読みの広がり課題など)が存在します。また、ワーキングメモリを鍛えるための様々なトレーニングプログラム(例:Nバック課題、複雑な計算練習など)も開発されており、認知機能の向上や特定の障害の改善に効果があるかどうかが研究されています。

ワーキングメモリは、一時的に情報を保持し、それを処理・操作することで、複雑な認知活動を可能にする、脳の限られた容量の認知システムです。中央実行系、音韻ループ、視空間スケッチパッド、エピソード・バッファといったコンポーネントが協調して機能します。短期記憶とは異なり、情報の「処理」能力を含む点が特徴です。学習、読解、問題解決、意思決定など、私たちの日常生活における広範な認知活動の基盤をなし、その機能は個人の能力や課題解決能力に大きく影響します。

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