アドホックレビューとは

アドホックレビュー(Ad Hoc Review)とは、ソフトウェア開発やプロジェクト管理において、特定のルールや手順を厳密に定めず、必要に応じて非公式かつ非定型的に実施されるレビュー手法指します。フォーマルなレビューとは異なり、柔軟性と即時性を重視し、迅速なフィードバックの獲得や、単純なミス、明らかな欠陥の発見を目的とします。

アドホックレビューの基本的な概念

「アドホック(ad hoc)」とは、ラテン語で「特定の目的のための」という意味を持ち、IT分野では「その場限りで」「特定の目的のために」といったニュアンスで使われます。アドホックレビューもこの意味合いを踏襲し、例えば、開発者が同僚に「ちょっとこれ見てくれる?」と声をかけるような、日常的なレビュー活動を指すことが多いです。

主な概念は以下の通りです。

  1. 非公式性(Informality): 明確な会議体や議事録の作成、役割分担、チェックリストなどが必須ではありません。レビューの範囲や深さも、状況に応じて柔軟に決定されます。
  2. 非定型性(Non-standardized): 決まったスケジュールや定期的な実施は求められず、特定の課題が発生した際や、簡単な確認が必要な際に、その都度実施されます。
  3. 即時性(Immediacy): レビューの準備や調整に時間をかけず、迅速にフィードバックを得られる点が大きな特徴です。これにより、問題の早期発見と修正を促します。
  4. 欠陥の早期発見: 形式ばらないカジュアルなレビューであるため、開発者が自身では気づきにくい単純な誤りや、論理的な矛盾などを素早く指摘してもらえる機会となります。
  5. 知識共有とコミュニケーションの促進: レビューを通じて、開発者間でコードや設計に関する意見交換が行われ、相互理解や知識の共有が促進されます。

アドホックレビューの実施例

アドホックレビューは、ソフトウェア開発の様々な局面で自然発生的に行われます。

  1. ピアレビュー(Peer Review)の一形態: 開発者が自身の書いたコードの一部を同僚に口頭で説明したり、画面を共有して見てもらったりしながら、その場で簡単なコメントや指摘をもらうケースです。
  2. 設計の検討: システムの特定の機能やモジュールの設計案について、別の開発者やアーキテクトに意見を求める場合。
  3. 文書の確認: 要件定義の一部や、簡単な技術仕様書などを作成後、他のメンバーに目を通してもらい、誤字脱字や論理的な飛躍がないかを確認する。
  4. バグの再現と原因分析: 特定のバグが発生した際に、複数人でコードやログを見ながら、その原因を特定しようとする共同作業も一種のアドホックレビューと言えます。

アドホックレビューのメリットとデメリット

アドホックレビューは、その柔軟性ゆえにメリットとデメリットを併せ持ちます。

メリット

  • 迅速なフィードバック: 形式的な手続きが不要なため、問題や疑問が生じた際にすぐにレビューを依頼し、その場でフィードバックを得られます。これにより、手戻りの時間を最小限に抑えられます。
  • 心理的ハードルの低さ: 厳格なルールがないため、開発者は気軽にレビューを依頼しやすく、指摘を受ける側も過度なプレッシャーを感じにくいです。
  • コミュニケーションの活性化: 開発者間の活発な議論や情報交換を促し、チーム内の技術力向上や共通認識の形成に寄与します。
  • 単純なミスの早期発見: 構文エラー、明らかなロジックの誤り、タイプミスなど、比較的発見しやすい欠陥を効率的に見つけることができます。

デメリット

  • レビューの質のばらつき: レビューアのスキルや経験、レビューにかける時間によって、レビューの深さや質が大きく異なります。見落としが発生するリスクも高まります。
  • 網羅性の欠如: 体系的なチェックリストや手順がないため、特定の種類の欠陥(例: セキュリティ脆弱性、パフォーマンス問題)や、複雑な相互作用に起因する欠陥を見落としやすいです。
  • 記録が残りにくい: 非公式な性質上、議論の内容や発見された欠陥、その修正状況などが文書として残りにくく、後から追跡するのが困難になる場合があります。
  • 人間関係への依存: レビューの実施が個人の積極性や人間関係に依存しやすく、チームや個人の間でレビューの機会に偏りが生じる可能性があります。
  • 責任の不明確さ: レビュー結果に対する責任の所在が曖昧になりがちです。

他のレビュー手法との比較

アドホックレビューは、以下のような他のレビュー手法と補完的な関係にあります。

  • インスペクション(Inspection): 厳格なルールと役割分担に基づき、体系的に欠陥を発見することを目的とした最もフォーマルなレビュー手法です。計画、準備、会議、修正、フォローアップといった明確なフェーズを持ち、詳細な記録が残ります。アドホックレビューが「素早く気付く」ことに重点を置くのに対し、インスペクションは「見落としなく発見する」ことに重点を置きます。
  • ウォークスルー(Walkthrough): 作成者が成果物を説明し、参加者が自由に質問やコメントを行う比較的非公式なレビュー手法です。主に成果物の理解促進やアイデアの共有を目的とし、インスペクションほど欠陥検出に特化していません。
  • ペアプログラミング(Pair Programming): 二人のプログラマが一台のコンピュータで共同して開発を行うアジャイル開発プラクティスの一つです。一人がコーディングし、もう一人がレビューやアドバイスを行うことで、リアルタイムにコードの品質向上と欠陥の早期発見を促します。これは極めて継続的かつ即時的なアドホックレビューの形態とも言えます。

アドホックレビュー(Ad Hoc Review)は、特定のルールや手順を厳密に定めず、必要に応じて非公式かつ非定型的に実施されるレビュー手法です。迅速なフィードバックの獲得、単純なミスの早期発見、開発者間のコミュニケーション促進といったメリットがある一方で、レビューの質のばらつきや網羅性の欠如、記録が残りにくいといったデメリットも存在します。

インスペクションのようなフォーマルなレビューが発見しにくい種類の欠陥や、迅速な確認が必要な場面で特に有効であり、他のレビュー手法と組み合わせて活用することで、ソフトウェア開発全体の品質と効率を向上させる上で重要な役割を担います。

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