インジェクションとは
インジェクション(Injection)とは、アプリケーションが外部からの入力データを適切に処理しない脆弱性を悪用し、攻撃者が悪意のあるデータやコードをプログラムに「注入(Injection)」することで、アプリケーションやデータベース、OSなどに意図しない動作を引き起こさせるサイバー攻撃の手法を指します。
これにより、情報の漏洩、データの改ざん・破壊、システムの乗っ取りなど、様々な被害が発生する可能性があります。
インジェクション攻撃の基本的な概念
インジェクション攻撃は、入力値の検証が不十分なアプリケーションにおいて発生しやすい脆弱性です。ユーザーからの入力が、プログラム内部でコードやコマンドの一部として解釈されてしまうことが根本原因となります。
主な概念は以下の通りです。
- 脆弱性(Vulnerability): ソフトウェアやシステムに存在する、セキュリティ上の欠陥や弱点のことです。インジェクション攻撃は、入力検証の不備という脆弱性を狙います。
- 入力値検証(Input Validation): ユーザーや外部システムから受け取ったデータが、プログラムが想定する形式、範囲、内容に合致しているかを確認するプロセスです。インジェクション攻撃を防ぐための最も基本的な対策の一つです。
- エスケープ処理(Escaping): 入力データに含まれる特殊な意味を持つ文字(例: SQL文の引用符、シェルコマンドのパイプなど)を、その特殊な意味を失わせるように変換する処理です。これにより、悪意のあるコードがそのまま実行されるのを防ぎます。
- プリペアドステートメント(Prepared Statement)/パラメータ化クエリ(Parameterized Query): データベース操作において、SQL文とユーザー入力データを分離して扱う手法です。これにより、SQLインジェクション攻撃を根本的に防ぐことができます。
代表的なインジェクション攻撃の種類
インジェクション攻撃には様々な種類があり、それぞれ注入される対象や方法が異なります。
1. SQLインジェクション(SQL Injection)
最もよく知られたインジェクション攻撃の一つです。ウェブアプリケーションなどがデータベースにアクセスする際に使用するSQLクエリに、悪意のあるSQLコードを注入します。
- 概要: ユーザーからの入力値(例: ユーザーIDやパスワード)が、SQLクエリの一部として直接連結されてしまう脆弱性を悪用します。攻撃者は、入力欄にSQLの特殊文字やコマンドを挿入することで、データベースから機密情報を抜き出したり、データを改ざん・削除したり、データベースを乗っ取ったりします。
- 攻撃例:
- 正規のSQLクエリ:
SELECT * FROM users WHERE username = '入力されたユーザー名' AND password = '入力されたパスワード';
- 攻撃者がユーザー名に
' OR '1'='1
を入力した場合、クエリは以下のようになる可能性があります。SELECT * FROM users WHERE username = '' OR '1'='1' AND password = '入力されたパスワード';
この場合、「1=1」が常に真であるため、パスワードが不正でも全てのユーザー情報が取得されたり、認証を回避されたりする可能性があります。
- 正規のSQLクエリ:
- 対策: プリペアドステートメントやパラメータ化クエリの使用が最も効果的です。また、エスケープ処理、入力値の厳格な型チェックも重要です。
2. OSコマンドインジェクション(OS Command Injection)
アプリケーションがOSのシェルコマンドを実行する際に、外部からの入力値に悪意のあるコマンドを注入します。
- 概要: ウェブサーバーがユーザーの入力(例: ファイル名、IPアドレスなど)を受け取り、それをOSコマンド(例:
ping
コマンドやls
コマンド)の一部として実行するケースで発生します。攻撃者は、コマンドの区切り文字(例:;
や&
)などを用いて、意図しないコマンドを実行させることができます。 - 攻撃例:
- 正規のコマンド:
ping 192.168.1.1
- 攻撃者が入力欄に
192.168.1.1; rm -rf /
と入力した場合、サーバーは以下のコマンドを実行する可能性があります。ping 192.168.1.1; rm -rf /
これにより、不要なファイル削除コマンドが実行され、システムが破壊される恐れがあります。
- 正規のコマンド:
- 対策: ユーザーからの入力値をOSコマンドに直接渡さないようにすること、OSコマンドを呼び出す際には安全なAPIを使用すること、そして入力値の**厳格な検証とサニタイズ(無害化)**が不可欠です。
3. クロスサイトスクリプティング(Cross-Site Scripting:XSS)
ウェブページに悪意のあるスクリプトを注入し、そのページを閲覧した他のユーザーのウェブブラウザ上で実行させる攻撃です。厳密には「インジェクション」というよりは「スクリプトの挿入」ですが、広義のインジェクション攻撃として扱われます。
- 概要: ユーザーが入力したデータが、エスケープされずにそのままHTMLとしてウェブページに表示されるような脆弱性を悪用します。攻撃者は、
<script>
タグなどを挿入することで、ユーザーのセッションクッキーを盗んだり、偽のコンテンツを表示したり、フィッシング詐欺を行ったりします。 - 攻撃例: 掲示板やコメント欄に、攻撃者が
<script>alert('Hello, XSS!');</script>
と投稿した場合、他のユーザーがそのページを閲覧すると「Hello, XSS!」というアラートが表示されるだけでなく、より悪質なスクリプトが実行される可能性があります。 - 対策: ユーザーからの入力をウェブページに表示する際には、必ず適切にエスケープ処理を行うこと、ウェブブラウザのセキュリティ機能(Content Security Policyなど)を適切に設定することなどが挙げられます。
4. LDAPインジェクション(LDAP Injection)
LDAP(Lightweight Directory Access Protocol)クエリに悪意のあるデータを注入し、LDAPディレクトリサービスから情報を取得したり、認証を回避したりする攻撃です。
5. XMLインジェクション(XML Injection)
XMLパーサーに渡されるXMLデータに、悪意のあるXML要素やエンティティを注入し、情報漏洩やサービス拒否などを引き起こします。
6. コードインジェクション(Code Injection)
プログラミング言語のコード(例: PHP、Python、JavaScriptなど)が、ユーザー入力によって動的に生成・実行される脆弱性を悪用し、悪意のあるコードを注入します。
インジェクション攻撃の共通の対策原則
これらの多様なインジェクション攻撃に共通する対策原則は以下の通りです。
- 入力値の厳格な検証(Input Validation): 信頼できない全ての入力データ(ユーザー入力、外部システムからのデータ、ファイルからの読み込みなど)に対して、ホワイトリスト方式で、許可された文字、形式、長さ、範囲などを厳格に検証します。
- 適切なエスケープ処理/サニタイズ(Escaping / Sanitization): 入力データがコードやコマンドの一部として解釈されないよう、出力先に応じて特殊文字を適切にエスケープ処理するか、または危険な文字を取り除いて無害化します。
- パラメータ化されたクエリ/プリペアドステートメントの使用: データベースアクセスにおいては、SQLインジェクション対策の最も基本的な手法です。SQL文の構造とデータを完全に分離します。
- 最小権限の原則: アプリケーションやデータベースユーザーに、必要最小限の権限のみを与えます。万が一インジェクション攻撃が成功しても、被害の範囲を限定できます。
- エラーメッセージの限定: エラーメッセージに、デバッグ情報やデータベースの構造など、攻撃者にヒントを与えるような詳細な情報を表示しないようにします。
- セキュリティライブラリ/フレームワークの活用: 多くのプログラミング言語やウェブフレームワークには、インジェクション対策のための機能やライブラリが用意されています。これらを積極的に活用することが重要です。
インジェクション(Injection)とは、外部からの不正なデータやコードをプログラムに注入し、意図しない動作を引き起こすサイバー攻撃手法の総称です。SQLインジェクション、OSコマンドインジェクション、クロスサイトスクリプティングなどが代表的であり、これらはアプリケーションの入力値検証の不備を悪用します。
インジェクション攻撃により、情報の漏洩、データの改ざん・破壊、システムの乗っ取りといった重大な被害が発生する可能性があります。これらの攻撃を防ぐためには、入力値の厳格な検証、適切なエスケープ処理やサニタイズ、プリペアドステートメントの使用、最小権限の原則の適用など、多層的なセキュリティ対策を講じることが不可欠です。
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