シンボリックAIとは

シンボリックAI(Symbolic AI)とは、人間の思考プロセスや知識を、記号(シンボル)と記号間の関係性を示すルールを用いて表現し、それらの記号を操作・推論することで問題を解決しようとする、人工知能(AI)における古典的なアプローチを指します。

別名「記号主義AI」とも呼ばれ、知識ベースと推論エンジンの組み合わせによって、人間の専門知識や論理を模倣することを目指しました。

シンボリックAIの基本的な概念

シンボリックAIは、人間の認知をシンボル操作として捉え、高レベルの抽象的な概念を直接扱うことに重点を置いています。

主な概念は以下の通りです。

  1. 記号(シンボル:Symbol): 現実世界のオブジェクト、概念、関係性などを抽象的に表現したものです。
    • 例: 「人間」「犬」「食べる」「所有する」といった単語やフレーズ。
  2. 知識表現(Knowledge Representation): 人間が持つ知識を、コンピュータが理解し、操作できる形式で表現する方法です。
    • ルールベース(Rule-based Systems): 「もしXならばYである」といった形式のルール(プロダクションルール)を用いて知識を表現します。
    • セマンティックネットワーク(Semantic Networks): オブジェクトや概念をノードとして、それらの関係性をリンクで結び、ネットワーク構造で知識を表現します。
    • フレーム(Frames): 特定の概念や事物を表現するために、属性(スロット)と値の集合を用いる構造です。
  3. 推論エンジン(Inference Engine): 知識ベースに格納されたルールや事実に基づいて、新しい知識を導き出したり、問題の解を探索したりするメカニズムです。
  4. 探索(Search): 問題空間において、目標状態に到達するための最適な一連の行動や解を探索するプロセスです。シンボリックAIでは、状態空間探索(State-Space Search)がよく用いられます。

シンボリックAIの主なアプローチと特徴

シンボリックAIは、その起源がAI研究の初期に遡る、歴史的に重要なアプローチです。

  1. エキスパートシステム(Expert Systems): 特定の専門分野における人間の専門家(エキスパート)の知識をルールベースで表現し、その知識を用いて問題解決や意思決定を支援するシステムです。
    • 特徴:
      • 専門知識の明示的表現: 知識が人間が理解しやすい形式(IF-THENルールなど)で表現されているため、システムの振る舞いを追跡しやすく、説明責任(Explainability)が高い。
      • 推論能力: 知識ベースと推論エンジンにより、複雑な論理的推論を実行できる。
      • 適用分野: 医療診断、金融アドバイス、システムの故障診断など。
    • : MYCIN(医療診断システム)
  2. 論理プログラミング(Logic Programming): 述語論理に基づいて問題を記述し、その論理的な関係性から解を導き出すプログラミングパラダイムです。Prologなどが代表的です。
    • 特徴:
      • 宣言的な記述: 「何を」計算するかを記述し、「どう」計算するかはソルバーに任せる。
      • 強力な推論機能: 論理的な推論を効率的に実行できる。
  3. 知識ベースシステム(Knowledge-Based Systems): 特定のドメインに関する大量の知識を格納し、それを利用して質問応答や推論を行うシステム全般を指します。シンボリックAIの中核をなす考え方です。

シンボリックAIの強み

  • 説明可能性(Explainability / Interpretability): 知識がルールや論理として明示的に表現されているため、AIがなぜそのような結論に至ったのか、その推論過程を人間が理解しやすく、説明しやすいという大きな利点があります。これは、特に医療や法律など、透明性が求められる分野で重要です。
  • 論理的推論: 複雑な論理関係や因果関係を正確にモデル化し、堅牢な推論を実行する能力に優れています。
  • 少量のデータでの学習: 人間が知識を直接記述するため、大量の訓練データを必要としない場合があります。

シンボリックAIの限界

  • 知識獲得のボトルネック: 人間の専門知識をコンピュータが理解できる記号とルールに変換するプロセス(知識獲得)は、非常に時間とコストがかかり、困難な作業です。
  • 柔軟性の欠如: 定義されたルールや知識ベースにない、予期せぬ状況や曖昧な情報に対応することが苦手です。世界が複雑で変化に富むと、ルールの数が爆発的に増大し、管理が困難になります。
  • パターン認識の難しさ: 画像認識や音声認識といった、大量のデータから特徴やパターンを自動的に学習するようなタスクには不向きです。

シンボリックAIとコネクショニストAI(深層学習)の対比

AI研究は、大きく分けてシンボリックAIとコネクショニストAI(特に深層学習)の2つのパラダイムに分けられます。

  • シンボリックAI:
    • アプローチ: トップダウン、記号操作、論理的推論。
    • 特徴: 説明可能性が高い、複雑な論理問題に強い、知識獲得が困難。
    • 得意なタスク: 記号操作、計画、専門家システム、論理的推論。
  • コネクショニストAI(深層学習など):
    • アプローチ: ボトムアップ、データ駆動、統計的パターン認識。
    • 特徴: 大量のデータから自動的に特徴を学習、パターン認識に強い、説明可能性が低い。
    • 得意なタスク: 画像認識、音声認識、自然言語処理、ゲームプレイ(強化学習)。

近年、深層学習の目覚ましい発展により、AIの主流はコネクショニストAIへと移行しました。しかし、深層学習の「ブラックボックス」問題や、論理的推論が苦手という弱点を補うために、シンボリックAIのアプローチが見直され、両者の良い点を組み合わせる「ハイブリッドAI」や「ニューロシンボリックAI」の研究が進められています。これは、深層学習で低レベルのパターンを認識し、その結果をシンボリックAIで高レベルな推論や説明に活用しようとする試みです。

シンボリックAI(Symbolic AI)とは、人間の知識や論理を記号(シンボル)とルール(例: IF-THENルール)として明示的に表現し、それらを操作する推論エンジンによって問題を解決する人工知能の古典的アプローチです。

エキスパートシステムや論理プログラミングなどがその代表例です。このアプローチは、推論過程の「説明可能性」が高く、複雑な論理問題に強いというメリットを持つ一方で、知識の獲得が困難である点や、曖昧な情報や大量のデータからのパターン認識に不向きであるという限界がありました。

近年は深層学習を中心としたコネクショニストAIが主流ですが、シンボリックAIの持つ論理的推論能力や説明可能性の利点を見直し、両者の統合を目指す「ニューロシンボリックAI」といったハイブリッドアプローチの研究が進められています。

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