マルチヘッド注意機構とは

マルチヘッド注意機構(Multi-Head Attention Mechanism)とは、入力系列の異なる部分から異なる「注意」を並列に学習し、それらを統合することで、多様な関係性を捉えることを可能にするニューラルネットワークのメカニズムのこと

マルチヘッド注意機構(Multi-Head Attention Mechanism)は、トランスフォーマー(Transformer)モデルをはじめとする、自然言語処理(NLP)や画像処理などの様々な深層学習モデルで広く採用されている、強力な注意機構(Attention Mechanism)の拡張版です。これは、単一の注意機構では捉えきれない、入力データの異なる表現部分における多様な関係性や依存関係を、複数の「注意ヘッド」を並列に用いて学習し、それらの学習結果を統合することで、より豊かな特徴表現を獲得することを可能にします。


マルチヘッド注意機構 の基本的な概念

従来の単一の注意機構は、クエリ(Query)、キー(Key)、バリュー(Value)という3つの要素間の関連度を計算し、バリューの加重和として出力します。例えば、自然言語処理においては、入力文中のある単語が、他のどの単語と関連が深いかを学習し、その関連度に基づいて情報を集約します。

しかし、この単一の注意機構では、一度に一つの「関連パターン」しか学習できません。例えば、文脈において、ある単語が「文法的な依存関係」と「意味的な関連性」という複数の異なる関係性を同時に持っている場合、単一の注意機構ではどちらか一方の関係性しか十分に捉えられない可能性があります。

マルチヘッド注意機構は、この問題を解決するために導入されました。その基本的なアイデアは、以下の通りです。

  1. 複数の「注意ヘッド」の並列利用: 入力データ(通常は、埋め込み表現されたベクトル)を、線形変換によって複数の異なるサブ空間に射影します。これにより、同じ入力から複数の独立した「ヘッド」を生成します。各ヘッドは、それぞれ独自のクエリ、キー、バリューの重み行列を持ち、独立して注意関数を適用します。

 \text{Head}_i = \text{Attention}(QW_i^Q, KW_i^K, VW_i^V)

  1. ここで、Q,K,V は元の入力から派生したクエリ、キー、バリュー、WiQ​,WiK​,WiV​ は各ヘッド i 固有の学習可能な重み行列です。
  2. 独立した注意計算: 各ヘッドは、それぞれのサブ空間において、異なる側面に「注意」を払い、関連度スコアを計算します。例えば、あるヘッドは文法的な関係に、別のヘッドは意味的な関係に焦点を当てる、といった学習が行われます。
  3. 注意結果の連結と統合: 各ヘッドから得られた出力を全て連結(concatenation)します。その後、この連結された出力を別の線形変換(出力重み行列 WO)に通すことで、最終的なマルチヘッド注意機構の出力が得られます。

 \text{MultiHead}(Q, K, V) = \text{Concat}(\text{Head}_1, \dots, \text{Head}_h) W^O

ここで h は注意ヘッドの数です。

このプロセスにより、モデルは入力系列の異なる部分から複数の異なる「注意」を並列に学習し、それらを統合することで、より包括的で多様な特徴表現を獲得することが可能になります。

マルチヘッド注意機構 の数学的表現

自己注意(Self-Attention)を例にすると、クエリ、キー、バリューが全て同じ入力 X から派生する場合、各ヘッド i の出力はScaled Dot-Product Attentionとして計算されます。

 \text{Attention}(Q, K, V) = \text{softmax}\left(\frac{QK^T}{\sqrt{d_k}}\right)V

ここで、dk​ はキーベクトルの次元数です。この計算が各ヘッドで独立して行われます。

最終的なマルチヘッド注意機構の出力は、各ヘッドの出力を結合し、線形変換を適用したものです。

 \text{MultiHead}(Q, K, V) = \text{Concat}(\text{Attention}(QW_1^Q, KW_1^K, VW_1^V), \dots, \text{Attention}(QW_h^Q, KW_h^K, VW_h^V)) W^O

マルチヘッド注意機構 の利点

  • 多様な関係性の捕捉: 複数の注意ヘッドが異なる表現空間で注意を計算するため、単一のヘッドでは捉えきれない、入力データの異なる側面や粒度(例:短距離の依存関係と長距離の依存関係、文法的な関係と意味的な関係)における多様な関係性を同時に学習できます。
  • 表現能力の向上: 異なる視点からの情報が統合されることで、より豊かで複雑な特徴表現が生成され、モデル全体の表現能力が向上します。
  • 並列計算の容易性: 各注意ヘッドは独立して計算されるため、並列処理に適しており、効率的な学習が可能です。

マルチヘッド注意機構 の応用

マルチヘッド注意機構は、その強力な表現学習能力により、特にトランスフォーマーモデルにおいて中心的な役割を果たしています。

  • 自然言語処理(NLP): 機械翻訳、テキスト要約、質問応答、感情分析、テキスト分類など、多くのNLPタスクでSOTA(State-of-the-Art)性能を達成しています。特に、長距離の依存関係を効率的に捉える能力は、従来のRNNやLSTMなどのリカレントニューラルネットワークの限界を克服しました。
  • 画像処理: Vision Transformer(ViT)などのモデルで画像分類や物体検出に利用され、画像の異なる領域間の関係性を学習します。
  • 音声処理: 音声認識や音声合成など、音声信号の時系列データにおける長期的な依存関係の学習に利用されます。

マルチヘッド注意機構は、入力系列の異なる部分から異なる「注意」を並列に学習し、それらを統合することで、多様な関係性を効率的かつ包括的に捉えることを可能にするニューラルネットワークのメカニズムです。複数の注意ヘッドがそれぞれ独自の視点から情報を抽出し、その結果を統合することで、モデルの表現能力を飛躍的に向上させます。この革新的な機構は、トランスフォーマーモデルの成功の鍵となり、自然言語処理をはじめとする深層学習の様々な分野で、複雑なデータ内の多面的な依存関係を学習するための不可欠な要素となっています。

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