ロードバランサーとは

ロードバランサー(Load Balancer)とは、ネットワーク上で複数のサーバーに対し、クライアントからのアクセス要求(通信負荷)を均等に、または特定のルールに基づいて分散させるための装置(ハードウェア)またはソフトウェアを指します。これにより、特定のサーバーへのアクセス集中による負荷過多やダウンを防ぎ、システム全体の安定性、可用性、パフォーマンスを向上させる役割を担います。

ロードバランサーの基本的な概念

現代のウェブサービスやエンタープライズシステムは、日々大量のアクセスを処理しています。単一のサーバーでは、その処理能力には限界があり、アクセス集中時には応答速度の低下やサーバーダウンといった問題が発生しやすくなります。ロードバランサーは、このような課題を解決するために不可欠なコンポーネントです。

主な概念は以下の通りです。

  1. 負荷分散(Load Balancing): 複数のサーバーにクライアントからのリクエストを効率的に割り振り、各サーバーの負荷を平準化する技術です。
  2. 高可用性(High Availability: 特定のサーバーに障害が発生した場合でも、ロードバランサーがそのサーバーへのトラフィックを停止し、他の健全なサーバーに振り分けることで、サービス全体の停止を防ぎます。
  3. スケーラビリティ(Scalability): システムの処理能力を増強する際に、サーバーの台数を追加するだけで対応できるようになります(スケールアウト)。ロードバランサーは、新しいサーバーを容易にシステムに組み込むことを可能にします。
  4. 単一障害点(Single Point of Failure: SPoF)の解消: 単一のサーバーに依存する構造では、そのサーバーが停止するとサービス全体が停止します。ロードバランサーは複数のサーバーにトラフィックを分散することで、この単一障害点を解消します。
  5. セッション維持(Session Persistence/Sticky Sessions): ECサイトのショッピングカートのように、ユーザーが特定のサーバーとのセッションを維持する必要がある場合、ロードバランサーは同じクライアントからの後続のリクエストを常に同じサーバーに送る機能を提供します。

ロードバランサーの主な機能と種類

ロードバランサーは、単にトラフィックを分散するだけでなく、多様な機能を提供します。

  1. 主な機能:
    • ヘルスチェック(Health Check): 配下のサーバーが正常に稼働しているかを定期的に監視します。応答がない、エラーを返すなどの異常を検知した場合、そのサーバーへのトラフィックの振り分けを停止します。
    • 負荷分散アルゴリズム: リクエストをどのサーバーに振り分けるかを決定するための様々なアルゴリズムをサポートします。
      • ラウンドロビン(Round Robin): 各サーバーに均等に順番にリクエストを振り分けます。
      • 最小コネクション(Least Connection): 現在アクティブなコネクション数が最も少ないサーバーにリクエストを振り分けます。
      • IPハッシュ(IP Hash): クライアントのIPアドレスに基づいて、常に同じサーバーにリクエストを振り分けます(セッション維持の一種)。
      • 重み付けラウンドロビン/最小コネクション(Weighted Round Robin/Least Connection): 各サーバーの処理能力に応じて重みを設定し、能力の高いサーバーに多くのリクエストを振り分けます。
    • SSLオフロード(SSL Offloading): SSL/TLS暗号化・復号化の処理をロードバランサーで行い、サーバー側の負荷を軽減します。
    • コンテンツベースルーティング(Content-Based Routing): HTTPリクエストのURLパスやヘッダー情報に基づいて、異なるサーバーグループにリクエストを振り分けます(例:/api/はAPIサーバー群へ、/images/は画像サーバー群へ)。
  2. ロードバランサーの種類:
    • ハードウェアロードバランサー: 専用の物理アプライアンスとして提供され、高い処理能力と安定性、豊富な機能を持ちます。大規模システムや高トラフィック環境で利用されます。
      • 例: F5 BIG-IP, A10 Networks
    • ソフトウェアロードバランサー: 汎用サーバーにソフトウェアとしてインストールして利用します。コストを抑えられ、柔軟な構成変更が可能です。
      • 例: Nginx, HAProxy, LVS (Linux Virtual Server)
    • クラウドロードバランサー(サービス型): AWS ELB (Elastic Load Balancing), Google Cloud Load Balancing, Azure Load Balancerなど、クラウドプロバイダーがサービスとして提供します。インフラ管理の手間が不要で、利用量に応じた従量課金制です。スケールアウトにも自動的に対応します。
      • これらは通常、L4(トランスポート層)とL7(アプリケーション層)の両方で動作するロードバランサーを提供します。

ロードバランサーの動作階層

ロードバランサーは、OSI参照モデルの様々な階層で動作します。

  1. L4(トランスポート層)ロードバランサー: IPアドレスとポート番号に基づき、TCP/UDPコネクションレベルで負荷分散を行います。リクエストの内容(HTTPヘッダーなど)は見ずに、単に接続を振り分けるため、高速に処理できます。主にTCP/UDPベースのアプリケーションや、HTTPS通信のSSLオフロード前の段階で利用されます。
  2. L7(アプリケーション層)ロードバランサー: HTTP/HTTPSなどのアプリケーションプロトコルの情報(URLパス、HTTPヘッダー、クッキーなど)を解析して、よりインテリジェントな負荷分散を行います。特定のURLへのアクセスを特定のサーバー群に振り分けたり、セッションを維持したりするのに適しています。より高度な機能を提供しますが、L4よりも処理負荷は高くなります。

ロードバランサーの導入効果

ロードバランサーを導入することで、システム全体に以下のような効果が期待できます。

  • サービスの安定稼働: アクセス集中や一部サーバーの障害時でもサービスを継続できます。
  • パフォーマンスの向上: リクエストが適切に分散されるため、個々のサーバーの負荷が軽減され、応答速度が向上します。
  • 容易なスケーラビリティ: サービス規模の拡大に合わせてサーバーを追加するだけで、システムの処理能力を柔軟に拡張できます。
  • 運用管理の効率化: 障害サーバーを自動で切り離したり、メンテナンス中のサーバーへのトラフィックを停止したりできるため、運用効率が向上します。
  • コスト効率: スケールアップ(高性能サーバーへの置き換え)よりも、スケールアウト(安価なサーバーの追加)の方がコスト効率が良い場合が多く、ロードバランサーはその実現を支援します。

ロードバランサー(Load Balancer)とは、複数のサーバーに対し、クライアントからのアクセス要求を均等に、または特定のルールに基づいて分散させるための装置またはソフトウェアです。

これにより、特定のサーバーへの負荷集中を防ぎ、システム全体の安定性、高可用性、パフォーマンスを向上させます。ヘルスチェック、多様な負荷分散アルゴリズム、SSLオフロード、コンテンツベースルーティングなどの機能を提供し、ハードウェア型、ソフトウェア型、クラウドサービス型など様々な形態があります。OSI参照モデルのL4(トランスポート層)またはL7(アプリケーション層)で動作し、その導入はサービスの安定稼働、パフォーマンス向上、容易なスケーラビリティ、運用管理の効率化といった多大な効果をもたらします。

現代のウェブサービスや大規模システムにおいて、ロードバランサーは不可欠なインフラコンポーネントとなっています。

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