増分バックアップとは
増分バックアップ(Incremental Backup)とは、データバックアップ戦略の一つで、前回のあらゆる種類のバックアップ(フルバックアップまたは別の増分バックアップ)が行われた時点から、新しく作成されたり、変更されたりしたデータのみを保存する手法を指します。
これにより、バックアップにかかる時間とストレージ容量を大幅に削減できる点が特徴です。データ復旧時には、フルバックアップとそれ以降のすべての増分バックアップが必要となります。
増分バックアップの基本的な概念
増分バックアップは、効率的なデータ保護を実現するために広く利用されるバックアップ方式です。フルバックアップと組み合わせることで、データの世代管理と効率的な運用を両立させます。
主な概念は以下の通りです。
- フルバックアップ(Full Backup): 対象となるすべてのデータを完全に保存するバックアップです。増分バックアップの基準点となります。
- 差分バックアップ(Differential Backup): 前回のフルバックアップ以降に変更・追加されたデータのみを保存するバックアップです。増分バックアップと混同されやすいですが、基準点が異なります。
- 変更管理(Change Tracking): ファイルシステムやバックアップソフトウェアが、どのファイルが変更されたか、あるいは新しく作成されたかを追跡する仕組みです。これには、ファイルの日付情報(更新日時など)やアーカイブビット(Windowsの場合)などが利用されます。
- リカバリポイント目標(Recovery Point Objective: RPO): 障害発生時に許容されるデータ損失の最大量を示す指標です。増分バックアップの頻度によってRPOが変動します。
- リカバリ時間目標(Recovery Time Objective: RTO): 障害発生からシステムが完全に復旧するまでに許容される最大時間を示す指標です。増分バックアップの特性上、復旧に時間がかかる可能性があります。
増分バックアップの動作原理と仕組み
増分バックアップは、その性質上、常に直前のバックアップの状態を参照して、差分を検出します。
- 初回バックアップ: まず、対象データのフルバックアップを取得します。これは、以降の増分バックアップの基準となる「ベースライン」です。
- 2回目以降のバックアップ:
- ファイルレベルの検出: バックアップソフトウェアは、前回のフルバックアップ、または前回の増分バックアップが実行された時点以降に、ファイルが変更されたか、新しく作成されたかを検出します。これは通常、ファイルの日付(更新日時)を比較するか、Windowsのファイルシステムが持つアーカイブビット(ファイルが変更されると自動的にオンになるフラグ)を利用して行われます。
- 変更データの保存: 検出された変更・追加データのみをバックアップストレージに保存します。このとき、どのフルバックアップ(ベースライン)の後の、何番目の増分バックアップであるかという情報が記録されます。
例で見る動作
- 1月1日: フルバックアップを実行 (A)
- 1月2日: ファイルF1、F2、F3が変更
- 増分バックアップを実行 (B) – 変更されたF1, F2, F3のみを保存(基準はA)
- 1月3日: ファイルF4、F5が変更
- 増分バックアップを実行 (C) – 変更されたF4, F5のみを保存(基準はB)
- 1月4日: ファイルF2、F6が変更
- 増分バックアップを実行 (D) – 変更されたF2, F6のみを保存(基準はC)
このように、各増分バックアップは直前のバックアップに「連鎖」していく形になります。
増分バックアップのメリットとデメリット
増分バックアップは、その効率性から多くのシステムで採用されていますが、デメリットも理解しておく必要があります。
メリット
- バックアップ時間の短縮: フルバックアップと比較して、変更されたデータのみを保存するため、バックアップにかかる時間が大幅に短縮されます。これは、データ量が多いシステムや、バックアップウィンドウが限られている場合に特に有効です。
- ストレージ容量の節約: 保存するデータ量が少ないため、バックアップデータを格納するためのストレージ容量を節約できます。
- ネットワーク負荷の軽減: リモート環境へのバックアップやクラウドバックアップの場合、転送データ量が少ないため、ネットワーク帯域幅の消費を抑えられます。
デメリット
- データ復旧(リストア)時間の長期化: データを復元する際、最新のフルバックアップと、それ以降に取得されたすべての増分バックアップを順番に適用していく必要があるため、復旧プロセスが複雑になり、時間が長くなる傾向があります。特に、増分バックアップのチェーンが長くなるほど、復旧時間は増加します。
- 復旧の信頼性への影響: 増分バックアップのチェーンのどこか一つでも破損や欠損があると、それ以降のデータや最終的な復旧が不可能になるリスクがあります。フルバックアップと増分バックアップの整合性が重要です。
- 管理の複雑性: 複数の増分バックアップとフルバックアップの世代を管理する必要があり、運用が複雑になる可能性があります。どの増分バックアップがどのフルバックアップに基づいているかを正確に把握しなければなりません。
増分バックアップの活用シナリオ
- 日次バックアップ: 週末にフルバックアップを行い、平日は増分バックアップを行うといったスケジュールが一般的です。
- 大規模データ環境: データ量が膨大で、毎日フルバックアップを行うのが非現実的なシステムに適しています。
- 帯域幅が限られたリモート環境: ネットワーク速度が遅い場所へのオフサイトバックアップに適しています。
増分バックアップと差分バックアップの比較
増分バックアップと差分バックアップは混同されやすいですが、その動作原理と復旧時の挙動には明確な違いがあります。
特徴 | 増分バックアップ(Incremental Backup) | 差分バックアップ(Differential Backup) |
基準点 | 前回のあらゆる種類のバックアップ(フルまたは増分) | 前回のフルバックアップ |
保存データ | 前回のバックアップからの変更点のみ | 前回のフルバックアップからの変更点すべて |
バックアップ時間 | 短い | 中程度(増分より長いがフルより短い) |
ストレージ容量 | 少ない | 中程度(増分より多いがフルより少ない) |
復旧に必要なファイル | 最新のフルバックアップ + すべての増分バックアップ | 最新のフルバックアップ + 最新の差分バックアップ |
復旧時間 | 長い(チェーンが長いほど) | 短い(常に2つのファイルのみ) |
復旧の複雑性 | 高い(チェーンの破損リスク) | 低い(2つのファイルのみの管理) |
増分バックアップ(Incremental Backup)とは、前回のバックアップ(フルバックアップまたは直前の増分バックアップ)以降に変更・追加されたデータのみを保存する、効率的なバックアップ手法です。これにより、バックアップにかかる時間とストレージ容量、ネットワーク負荷を大幅に削減できるという大きなメリットがあります。しかしながら、データ復旧時には最新のフルバックアップとそれに続くすべての増分バックアップが必要となるため、復旧プロセスが複雑化し、時間も長くなるというデメリットも存在します。このため、運用管理の複雑性や復旧の信頼性を考慮し、システムやデータの特性に応じた適切なバックアップ戦略(フル、増分、差分バックアップの組み合わせなど)を立案することが重要です。
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