流体解析とは

流体解析(Fluid Analysis)とは、流体の運動やそれに伴う物理現象を、数学モデルと数値計算手法を用いてシミュレーション・分析する科学技術のこと

流体解析(りゅうたいかいせき、Fluid Analysis)は、流体力学の原理に基づき、液体や気体といった「流体」の運動、圧力、温度、速度などの物理量分布、およびその流れが周囲の物体や環境に与える影響を、数学的なモデルと数値計算手法を用いてシミュレーションし、詳細に分析する科学技術です。この分野は、計算流体力学(Computational Fluid Dynamics, CFD)とも呼ばれ、実際に実験を行うことが困難または非効率な場合や、より深い物理現象の理解が求められる場合に強力なツールとして活用されます。

流体解析 の基本的な概念

流体解析の根底には、流体の運動を支配する物理法則、特に以下の連続の式、運動方程式、エネルギー方程式があります。これらの方程式は、ナヴィエ・ストークス方程式(Navier-Stokes equations)として知られており、流体の速度、圧力、密度、温度などの時空間的な変化を記述します。

  1. 連続の式(保存則): 流体の質量が保存されることを表します。

 \frac{\partial \rho}{\partial t} + \nabla \cdot (\rho \mathbf{u}) = 0

ここで、ρ は密度、u は流体速度ベクトル、∇⋅ は発散を表します。

  1. 運動方程式(運動量保存則): 流体における運動量の保存を表します。ニュートンの運動法則を流体に適用したものです。粘性流体の場合、ナヴィエ・ストークス方程式となります。

 \rho \left( \frac{\partial \mathbf{u}}{\partial t} + (\mathbf{u} \cdot \nabla) \mathbf{u} \right) = -\nabla p + \mu \nabla^2 \mathbf{u} + \mathbf{f}

ここで、p は圧力、μ は粘性係数、∇2 はラプラシアン、f は外力(例:重力)を表します。

  1. エネルギー方程式(エネルギー保存則): 流体におけるエネルギーの保存を表します。

 \rho C_p \left( \frac{\partial T}{\partial t} + (\mathbf{u} \cdot \nabla) T \right) = \nabla \cdot (k \nabla T) + \Phi + Q

ここで、Cp​ は定圧比熱、T は温度、k は熱伝導率、Φ は粘性散逸関数、Q は内部発熱量です。

これらの偏微分方程式は、一般に解析的に解くことが非常に困難であるため、コンピュータを用いた数値解析が不可欠となります。

流体解析 の主要なステップ

流体解析は、主に以下のステップで実行されます。

  1. プリプロセス(Pre-processing):
    • CADモデルの作成: 解析対象となる物体や流体領域の三次元形状をCADソフトウェアで作成します。
    • メッシュ生成(Meshing): 作成されたCADモデルを、有限個の小さな要素(セルまたはメッシュ)に分割します。このメッシュの細かさや品質が、解析精度と計算時間に大きく影響します。要素の形状には、四面体、六面体、角柱などがあります。
    • 境界条件の設定: 解析領域の境界(入口、出口、壁面、対称面など)において、流体の速度、圧力、温度などの物理量を定義します。
    • 物性値の設定: 解析対象の流体(水、空気など)や固体の密度、粘性係数、熱伝導率などの物性値を設定します。
  2. ソルバー(Solver): プリプロセスで設定されたメッシュと境界条件、物性値に基づいて、ナヴィエ・ストークス方程式などの支配方程式を数値的に解きます。この段階で、有限体積法(Finite Volume Method, FVM)や有限要素法(Finite Element Method, FEM)といった離散化手法が用いられます。複雑な流れ(乱流など)を扱う場合、適切な乱流モデル(例:k-ϵモデル、RANSモデル)も選択されます。
  3. ポストプロセス(Post-processing): ソルバーによる計算結果(速度分布、圧力分布、温度分布など)を、グラフ、等高線図、ベクトル図、流線、アニメーションなどの形で可視化し、分析します。これにより、流体の挙動を直感的に理解し、設計の改善点や問題点を特定します。

流体解析 の種類と分類

流体解析は、扱う流体の種類や流れの状態によってさらに分類されます。

  • 圧縮性流体と非圧縮性流体: 音速に比べて流速が速い(マッハ数が大きい)場合に密度が変化する圧縮性流体(例:航空機の周囲を流れる空気)と、密度がほとんど変化しない非圧縮性流体(例:水、低速の空気)に分けられます。
  • 定常流と非定常流: 時間とともに流体の状態が変化しない定常流と、時間とともに変化する非定常流に分けられます。
  • 層流と乱流: 流体が秩序立って流れる層流と、不規則かつ複雑に混ざり合いながら流れる乱流に分けられます。多くの実世界の問題では乱流を扱うため、乱流モデルの選択が重要になります。
  • 伝熱、物質輸送、反応流など: 熱の移動(伝熱)、化学物質の混合・拡散(物質輸送)、化学反応を伴う流れ(反応流)などを考慮に入れた解析も行われます。

流体解析 の応用分野

流体解析は、その多岐にわたる応用性から、科学技術の様々な分野で不可欠なツールとなっています。

  • 航空宇宙: 航空機やロケットの空力特性解析、エンジン内の燃焼解析。
  • 自動車: 車両の空力性能改善、エンジンルーム内の冷却、エアコンの室内気流解析。
  • 機械: ポンプ、ファン、タービンなどの流体機械の性能評価と最適化。
  • 建築・都市: 建築物の風圧解析、室内空調設計、都市のヒートアイランド現象解析。
  • エネルギー: 風力発電の風車設計、原子力発電所の冷却システム、燃料電池の流路設計。
  • 化学・プロセス: 化学反応器内の混合、熱交換器の設計、配管内の流動。
  • 医療・バイオ: 血管内の血流解析、薬物送達シミュレーション、医療機器の設計。
  • 環境: 河川や海洋の汚染拡散予測、大気汚染物質の拡散解析。

流体解析は、流体の運動やそれに伴う複雑な物理現象を、ナヴィエ・ストークス方程式などの数学モデルと数値計算手法(CFD)を用いてシミュレーション・分析する科学技術です。プリプロセス、ソルバー、ポストプロセスという主要なステップを経て、流体の速度、圧力、温度分布などを詳細に把握します。航空宇宙、自動車、機械、建築、エネルギー、医療、環境など、極めて広範な分野で製品設計の最適化、性能向上、安全性評価、問題解決に貢献しており、現代工学における不可欠な技術の一つとして発展を続けています。

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