障害注入テストとは

障害注入テスト(Fault Injection Testing)とは、意図的に障害をシステムに注入し、その耐障害性や回復能力を評価するテスト手法のこと

障害注入テスト(Fault Injection Testing)は、ソフトウェアまたはハードウェアシステムにおいて、意図的に障害をシステムに注入し、それに対するシステムの耐障害性(Fault Tolerance)や回復能力(Recovery Capability)を評価するテスト手法です。このテストは、実際の運用環境で発生しうる様々な障害シナリオ(例:ネットワークの遅延、ディスクの破損、プロセスのクラッシュ、メモリのエラー)をシミュレートし、システムがこれらの異常事態にどのように対処し、機能を維持、または速やかに回復できるかを確認することを主な目的とします。

障害注入テスト の基本的な概念

システムの信頼性と可用性を確保するためには、障害が発生しないことを期待するだけでなく、障害が発生した際にシステムがどのように振る舞うかを理解することが不可欠です。障害注入テストは、この「障害時の振る舞い」を計画的に検証するための手法です。

主要な概念は以下の通りです。

  1. 目的:
    • システムの耐障害性機能(冗長性、フェイルオーバー、エラー回復など)の有効性検証。
    • 障害発生時のシステムの応答と振る舞いの評価。
    • 障害からの回復時間(Recovery Time Objective, RTO)やデータ損失許容範囲(Recovery Point Objective, RPO)の測定。
    • 潜在的な単一障害点(Single Point of Failure)の特定。
    • エラーハンドリング機構の妥当性確認。
  2. 注入される障害の種類:
    • ハードウェア障害: ディスク故障、メモリ破損、CPUエラー、電源喪失など。
    • ソフトウェア障害: プロセスのクラッシュ、スレッドのデッドロック、メモリリーク、ファイルシステムの破損、ドライバのエラーなど。
    • ネットワーク障害: ネットワークの切断、パケットロス、遅延、帯域制限など。
    • 環境障害: データベースの停止、ミドルウェアの異常終了、外部サービスとの接続断など。
  3. 注入レベル: 障害は、様々なレベルで注入されます。
    • 物理レベル: ケーブルの切断、電源の抜き差し。
    • ハードウェアレベル: CPUレジスタのビット反転、メモリの誤り注入。
    • OSレベル: プロセスの強制終了、ファイルシステムのマウント解除。
    • アプリケーションレベル: 特定のAPI呼び出しの失敗、例外の強制発生。
    • ネットワークレベル: パケットの破棄、遅延の挿入。

障害注入テスト の手法

障害注入テストは、その実現方法によっていくつかの主要な手法に分類されます。

  1. ハードウェアベースの障害注入: 専用のハードウェア装置を用いて、物理的な障害を直接システムに注入します。例:電磁波照射によるメモリビット反転、電源の瞬間的な遮断。
    • 利点: 実際の物理障害に近いシミュレーションが可能。
    • 課題: コストが高く、テストの再現性や制御が難しい場合がある。
  2. ソフトウェアベースの障害注入: ソフトウェアツールやフレームワークを用いて、システムコール、API、アプリケーションコードのレベルで障害をシミュレートします。
    • コンパイル時注入: ソースコードにエラー注入コードを埋め込み、コンパイル時に特定の障害を発生させる。
    • 実行時注入: 実行中のプロセスに介入し、レジスタの値を改ざんしたり、特定の命令をスキップさせたりする。
    • ライブラリフック: システムコールやライブラリ関数の呼び出しをインターセプトし、意図的にエラーを返すように改変する。
    • APIレベルの障害注入: アプリケーションのAPI呼び出しに対して、エラー応答やタイムアウトを強制的に返す。
    • カオスエンジニアリング(Chaos Engineering): マイクロサービスアーキテクチャやクラウド環境において、本番環境に近い形で障害を「実験」的に注入し、システムの耐障害性を検証する比較的新しいアプローチ。NetflixのChaos Monkeyが有名です。
  3. シミュレーションとエミュレーション: 実際のシステム環境ではなく、シミュレータやエミュレータ上で障害をシミュレートします。
    • 利点: 環境構築が容易で、テストの制御性や再現性が高い。
    • 課題: 実際の環境との乖離がある場合、テスト結果の信頼性が低下する可能性がある。

障害注入テスト の実施プロセス

  1. 目標とスコープの定義: どのコンポーネントや機能の耐障害性を検証するのか、どのような種類の障害を注入するのか、何を測定するのかを明確にします。
  2. 障害モデルの設計: 注入する障害のタイプ、発生頻度、影響範囲などを定義します。
  3. 注入ポイントの特定: システム内のどこに障害を注入するか(例:特定の関数、モジュール、ネットワークインターフェース)を決定します。
  4. 測定指標の定義: 障害発生時のシステムの応答、回復時間、データ損失量など、評価すべきメトリクスを定義します。
  5. テスト環境の準備: 本番環境を模したテスト環境を構築し、監視ツールをセットアップします。
  6. 障害注入と監視: 計画に従って障害を注入し、システムの振る舞いを継続的に監視し、データを収集します。
  7. 結果分析と報告: 収集したデータを分析し、システムの耐障害性や回復能力を評価します。発見された脆弱性や改善点を報告し、修正を促します。

障害注入テストは、意図的に障害をシステムに注入し、それに対するシステムの耐障害性や回復能力を評価する重要なテスト手法です。ハードウェア、ソフトウェア、ネットワーク、環境といった様々なレベルで多様な種類の障害が注入され、システムの応答、回復時間、データ損失許容範囲などが詳細に評価されます。ハードウェアベース、ソフトウェアベース(コンパイル時、実行時、APIレベル、カオスエンジニアリング)、シミュレーションといった手法が存在し、目標定義、障害モデル設計、注入ポイント特定、測定、実行、分析といった体系的なプロセスを経て実施されます。このテストは、システムの信頼性向上と、実際の運用環境での予期せぬ障害に対する準備を確実にするために不可欠です。

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