人工知能におけるトランスフォーマーとは?

1. トランスフォーマーとは?

人工知能(特に自然言語処理分野)における「トランスフォーマー(Transformer)」とは、2017年にGoogleが発表した論文「Attention Is All You Need」で提案された、深層学習モデルの一種です。自然言語処理(NLP)を中心に人工知能(AI)分野で広く活用されています。

このモデルは、従来のRNN(Recurrent Neural Network:リカレントニューラルネットワーク)CNN(Convolutional Neural Network:畳み込みニューラルネットワーク)に代わり、自然言語処理の分野で革命的な進歩をもたらし、RNNやCNNに代わる新しいアーキテクチャとして急速に普及しました。

2. トランスフォーマーの基本構造

トランスフォーマーの主な特徴は、自己注意機構(Self-Attention)を活用した並列処理能力の高さと、長距離の依存関係を効率的に学習できる点にあります。以下にその基本構造を説明します。

2.1 自己注意機構(Self-Attention)

自己注意機構(Attention機構)は、トランスフォーマーの核心となる技術です。入力データ(例えば文章)中の各要素(単語など)間の関係性を計算し、重要な要素に重点を置いて処理することができます。これにより、長文でも文脈を正確に理解することが可能になりました。

具体的には、入力された単語の集合から各単語間の関連性を学習し、適切な重みを付ける仕組みです。各単語のベクトルをQuery(クエリ), Key(キー), Value(バリュー) に変換し、スケーリングされたドット積を使用してスコアを計算し、そのスコアをソフトマックス関数で正規化することで注意の分布を求めます。さらに、Transformerモデルでは、複数の注意機構を並列に実行する「Multi-Head Attention」という仕組みが用いられており、より複雑な関係性を捉えることができます。

スコア計算は以下の式で表されます。

ここで、 はスケーリング因子で、計算の安定性を向上させます。

2.2 マルチヘッドアテンション(Multi-Head Attention)

マルチヘッドアテンション (Multi-Head Attention) は、Transformer の重要な構成要素であり、モデルが 複数の異なる視点 から入力データの関係性を捉えることを可能にするメカニズムです。

1つの自己注意機構だけでは学習できる情報が限られるため、複数の自己注意機構を並列に適用する マルチヘッドアテンション が導入されています。これにより、異なる視点での関連性を同時に学習できます。

基本的なアイデア

通常の注意機構では、Query、Key、Value の組に対して1つの注意重み分布を計算します。マルチヘッドアテンションでは、このプロセスを複数回、異なるパラメータセットを用いて並列に実行します。それぞれの注意機構を「ヘッド」と呼び、各ヘッドは入力データの異なる側面に焦点を当てることができます。

マルチヘッドアテンションの利点

複数のヘッドを用いることで、入力データの異なる側面 (例えば、単語間の意味的関係、構文的な関係など) を捉え、より豊かで多様な表現を獲得できます。 また、1つのヘッドが重要な情報を捉え損ねた場合でも、他のヘッドがそれを補完できる可能性があり、モデルのロバスト性が向上するという利点があります。

2.3 ポジションエンコーディング(Positional Encoding)

トランスフォーマーはリカレント構造を持たないため、単語の順序情報を明示的に加える必要があります。RNNのようにシーケンスを逐次的に処理するのではなく、入力シーケンス全体を一度に処理します。

そのため、単語の順番に関する情報が失われてしまいます。そこで、単語の位置情報をモデルに与えるために、各単語の埋め込みベクトルに ポジションエンコーディング を加算し、順序情報を学習できるようにしています。

ポジションエンコーディングは、各単語の埋め込みベクトルに、その単語の位置を表すベクトルを加算することで実現されます。

ポジションエンコーディングは、Transformerがシーケンスの順序情報を適切に処理するために不可欠です。位置エンコーディングによって、Transformerは自然言語処理タスクにおいて高い性能を達成しています。

余談ですが、、

時々、”位置エンコーディング”という用語がでてきて、一瞬戸惑うことがありますが、一般的に”ポジションエンコーディング”と”位置エンコーディング”は同じ意味で用いられています。但し、文脈によっては、位置エンコーディングがシーケンスデータの位置情報を扱う様々な手法を含む意味で用いられることもあり、Transformerモデルで用いられる、sin関数とcos関数を用いた位置エンコーディングの手法を指す意味での”ポジションエンコーディング”と若干意味合いが異なる場合もありますので、本記事では”ポジションエンコーディング”という用語で解説しています。

3. トランスフォーマーの応用

トランスフォーマーは、NLPだけでなく、多様な分野で応用されていますので、ざっくりとご紹介していきます。

3.1 NLP分野

NLP(自然言語処理:Natural Language Processing)とは、人間が日常的に使っている言葉(自然言語)をコンピュータに理解させ、処理させる技術のことです。

私たちは、文章を読んだり、会話をしたりすることで、相手の意図を理解し、自分の考えを伝えることができます。しかし、コンピュータは、単なる文字列としてしか認識できません。NLPは、コンピュータに人間の言葉の意味や文脈を理解させ、私たちと同じように自然なコミュニケーションを可能にすることを目的としています。

以下は、トランスフォーマーの応用されているNLP分野での例です。

  • 機械翻訳(Google翻訳、DeepL)
  • 文書要約
  • 質問応答システム(ChatGPT, Bardなど)
  • 感情分析

3.2 画像処理分野

トランスフォーマーは画処理の分野でも応用されています。

  • Vision Transformer(ViT):画像をパッチ単位に分割し、トランスフォーマーで処理する手法。
  • DETR(DEtection TRansformer):物体検出タスクに応用。

3.3 音声処理分野

画処理とくれば、音声処理分野!ということで音声処理分野でも応用されています。

  • Whisper(OpenAI):音声認識モデル。
  • Text-to-Speech(TTS):自然な音声合成に活用。

4. 進化系トランスフォーマーモデル

近年、トランスフォーマーの発展により、さまざまな改良モデルが登場していますので、簡単にご紹介しておきます。

4.1 BERT(Bidirectional Encoder Representations from Transformers)

BERT(Bidirectional Encoder Representations from Transformers)は、2018年にGoogleによって開発された、自然言語処理(NLP)における革新的なモデルです。BERTは、Transformerアーキテクチャに基づいており、双方向の文脈を考慮した深い言語表現を学習することを特徴としています。

BERTは、双方向の文脈情報を学習できる事前学習モデルで、文章の意味理解に優れています。BERTの主な特徴は以下の通りです。

BERTの主な特徴

BERTは双方向性(Bidirectional)やTransformerベース、事前学習(Pre-training)とファインチューニング(Fine-tuning)などの他、2つの事前学習タスクをもつ特徴を持ち合わせいます。BERTの特徴とも言うべき”2つの事前学習タスク”について以下にまとめておきます。

  1. マスクドランゲージモデル(Masked Language Model, MLM)
    • 入力テキスト内の一部の単語をランダムにマスク(隠蔽)し、それを予測するように学習です。これにより、単語の文脈を深く学習します。
    • 文全体のコンテキストを考慮しながら単語の意味を推測できる。
  2. 次文予測(Next Sentence Prediction, NSP)
    • 2つの文を与えて、それらが連続する文かどうかを判定するタスク。これにより、文章間の関係性を学習します。
    • 質問応答や文章生成タスクに有用されています。

4.2 GPT(Generative Pre-trained Transformer)

GPTは、大規模データで事前学習した後に特定のタスクにファインチューニングするモデルで、文章生成や対話システムに強みを持ちます。

4.3 T5(Text-to-Text Transfer Transformer)

T5はすべてのNLPタスクをテキスト変換の問題として統一的に扱うモデルで、汎用性が高い特徴があります。

4.4 Switch Transformer

Switch Transformerは、従来のトランスフォーマーと比較してスパースアクティベーションを採用し、大規模モデルの計算効率を向上させています。

5. トランスフォーマーの課題と今後の展望

5.1 計算コストの高さ

トランスフォーマーは並列処理が可能ですが、大規模データでの学習には膨大な計算資源が必要です。。。そのため、より効率的なモデル圧縮手法(量子化、蒸留など)が求められています。

5.2 長文処理の制約

従来のトランスフォーマーは、入力長が一定(例えば512トークン)に制限されることが多く、LongformerやPerformer などの長文対応モデルが開発されています。

5.3 バイアスの問題

事前学習データに依存するため、トランスフォーマーはバイアスを内包する可能性があり、公平性や倫理的課題が指摘されています。

6. まとめ

トランスフォーマーは、AI分野に革命をもたらした技術であり、特にNLPの発展に大きく寄与しています。BERTやGPTなどの派生モデルが次々と登場し、多くの分野に応用が広がっています。しかし、計算コストやバイアスの問題などの大きな課題もあり、今後の研究と技術進展が期待されています。

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この記事を書いた人
株式会社APPSWINGBY
株式会社APPSWINGBY マーケティング

APPSWINGBY(アップスイングバイ)は、アプリケーション開発事業を通して、お客様のビジネスの加速に貢献することを目指すITソリューションを提供する会社です。

ご支援業種

情報・通信、医療、製造、金融(銀行・証券・保険・決済)、メディア、流通・EC・運輸 など多数

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監修
APPSWINGBY CTO川嶋秀一
株式会社APPSWINGBY  CTO 川嶋秀一

動画系スタートアップ、東証プライム R&D部門を経験した後に2019年5月に株式会社APPSWINGBY 取締役兼CTOに就任。
Webシステム開発からアプリ開発、AI、リアーキテクチャ、リファクタリングプロジェクトを担当。C,C++,C#,JavaScript,TypeScript,Go,Python,PHP,Vue.js,React,Angular,Flutter,Ember,Backboneを中心に開発。お気に入りはGo。

APPSWINGBY CTO川嶋秀一
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