階層的softmaxとは

階層的softmax(Hierarchical Softmax)とは、自然言語処理(NLP)の分野、特に言語モデリングなどのタスクにおいて、出力層が非常に大きな語彙サイズを持つ場合に、標準的なsoftmax関数の計算コストを大幅に削減するために用いられる効率的な手法です。語彙を階層的な木構造で表現し、予測対象の単語に至るまでの確率を計算することで、計算量を語彙サイズに対して対数スケールにまで低減します。

階層的softmax の基本概念

標準的なsoftmax関数は、出力層の各ノード(各単語に対応)に対して指数関数の計算を行い、その総和で正規化することで、各単語の出現確率を求めます。語彙サイズが数万から数十万にも及ぶ場合、この計算コストは非常に大きくなり、学習や推論のボトルネックとなります。

階層的softmaxは、語彙全体を二分木(通常はハフマン木などの平衡木に近い構造)で表現します。各葉ノードが語彙中の個々の単語に対応し、内部ノードは左右の子ノードへの分岐を表します。出力層での予測は、根ノードから葉ノード(目的の単語)に至るまでのパス上の各分岐点における二項分類(左右どちらの子ノードを選択するか)の確率の積として計算されます。

階層的softmax の仕組み

  1. 語彙の木構造化: まず、学習データにおける各単語の出現頻度に基づいて、語彙全体を二分木で表現します。出現頻度の高い単語は、根に近い浅い位置に配置されることが多く、ハフマン木がよく用いられます。
  2. パスの確率計算: 出力層で単語を予測する際、根ノードから目的の単語に対応する葉ノードまでのユニークなパスを辿ります。このパス上の各内部ノードにおいて、左右どちらの子ノードを選択するかをsigmoid関数を用いた二項分類器で予測します。
  3. 単語の確率の算出: 目的の単語の確率は、根からその単語に至るパス上の全ての二項分類の確率の積として計算されます。二分木であるため、各内部ノードでの分岐は二択であり、sigmoid関数の出力(0から1の間の値)が確率を表します。

例えば、ある単語 w へのパスが n 個の内部ノードを経由するとした場合、その単語の確率は以下のようになります。

P(w)=i=1∏n​P(選択が左の子ノードである∣内部ノードi​)

または

P(w)=i=1∏n​P(選択が右の子ノードである∣内部ノードi​)

ここで、P(選択が左/右の子ノードである∣内部ノードi​) は、内部ノード i の表現と、その分岐に対応する学習可能なパラメータベクトルとの内積をsigmoid関数に通した値です。

階層的softmax のメリット

  • 計算コストの削減: 標準的なsoftmax関数が語彙サイズ V に対して O(V) の計算量を必要とするのに対し、階層的softmaxでは、木構造の深さに比例する O(logV) の計算量で済みます。これは、大規模な語彙を持つモデルにおいて、学習と推論の速度を大幅に向上させます。
  • 頻度の高い単語の高速処理: ハフマン木を用いる場合、出現頻度の高い単語は木の上部に配置されるため、より少ない計算ステップで確率が計算されます。
  • メモリ使用量の削減: 出力層の全結合層における重み行列のサイズが削減されるため、メモリ使用量を低減できます。

階層的softmax のデメリット

  • 木の構造への依存: 性能は構築された木構造に依存します。最適でない木構造の場合、効率が低下する可能性があります。
  • 低頻度語の処理: 出現頻度の低い単語は木の深い位置に配置されるため、確率計算に必要なステップ数が多くなり、学習が遅れることがあります。
  • 厳密な確率分布の制約: 階層的softmaxは、全ての単語の確率の合計が1になることを保証しますが、その制約がモデルの表現力をわずかに制限する可能性があります。

階層的softmax の応用例

階層的softmaxは、主に大規模な語彙を扱う自然言語処理モデルで利用されています。

  • 言語モデリング: Word2Vec (CBOW, Skip-gram)、FastTextなどの単語埋め込みモデルの学習における出力層の高速化。
  • ニューラルネットワーク言語モデル (NNLM): 大規模なテキストデータを用いた言語モデルの学習。
  • 機械翻訳: 特にターゲット言語の語彙サイズが大きい場合。

階層的softmaxは、大規模な語彙を持つ自然言語処理モデルにおいて、出力層の計算コストを対数スケールに削減する効率的な手法です。語彙を階層的な木構造で表現し、根から目的の単語までのパス上の二項分類の確率を掛け合わせることで、高速な学習と推論を実現します。言語モデリングや機械翻訳など、多くのNLPタスクにおいて、大規模語彙を扱う際の重要な最適化技術として活用されています。

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