非金融企業が注目するエンベデッドファイナンス戦略とは

エンベデッドファイナンス戦略とは

はじめに:エンベデッドファイナンスが非金融企業にもたらす価値

エンベデッドファイナンスとは、非金融のプラットフォームやサービスの中に「支払い」「融資」「保険」などの金融機能をシームレスに組み込むことを指します。

従来、金融サービスは銀行や証券会社など専門業者が提供していましたが、APIやAIの進化により、あらゆる業界の企業が自社のUX(顧客体験)に合わせて金融機能を内製化・連携できる時代となりました。

以下は、その例ですが、

  • ECプラットフォームが購入フロー内で即時決済を完結させる
  • SaaSサービスが顧客の利用状況に応じて与信枠を自動提案する
  • シェアリングビジネスが利用者向けに利用保険を即時発行する

など、顧客満足度の向上だけでなく、新たな手数料収入や利息収益、クロスセルによる収益機会を創出します。

世界のエンベデッドファイナンス市場は2024年に約1126億米ドル規模に達し、2029年には約2374億ドルまで成長すると予測されるなど、ビジネス機会として放置できない規模です。

関連情報:

Global Embedded Finance Market Forecast Report 2024-2029, with Case Studies of Booksy, Stripe, Shopify, Booksy, Adorama and Paypal(外部リンク)

1.1 エンベデッドファイナンスの定義と背景

エンベデッドファイナンスの基本構造は以下の3要素で成り立ちます。

  1. API連携プラットフォーム:金融機能を提供するパートナー企業(例:Stripe、Plaid)とのシステム接続
  2. ユーザー体験設計:顧客アプリやWeb上で金融機能を自然に呼び出すUI/UX
  3. リスク・コンプライアンス管理:与信審査やKYC、システムセキュリティの担保

背景には、Open BankingやPSD2(欧州版オープンバンキング指令)、日本国内でも2021年改正資金決済法の施行など、規制面の追い風があります。また、AIによる信用スコアリングや不正検知の精度向上が、エンベデッドファイナンスの導入コスト・リスクを低減しています。

1.2 非金融企業が今すぐ注目すべき理由

非金融企業におけるエンベデッドファイナンス導入のメリットは大きく分けて3点あります。

  1. 追加収益の獲得
    サービス利用料の決済手数料や融資利息、保険料の一部を収益化できます。例えばEC事業者が自社決済を内製化し、従来の外部決済手数料の一部を利益として取り込むケースが増えています。
  2. 顧客ロイヤルティの強化
    ワンストップで金融機能を提供することで離脱率を抑制し、LTV(顧客生涯価値)の向上につながります。ある調査では、決済体験を内製化したプラットフォームはリピート率が15~25%改善したとの報告もあります。
  3. データドリブンなビジネス拡大
    与信・取引データを自社で保有することで、AIによる顧客分析やアップセル提案が可能になります。実際に、サブスクリプション企業が利用履歴と返済履歴を組み合わせ、信用スコアに基づくパーソナライズド融資プランを提供したところ、融資成約率が従来比30%向上しました

市場動向と機会の全体像

2.1 世界市場規模と成長予測

前述しましたが、世界のエンベデッドファイナンス市場は、2024年に約1,126億米ドルと推定され、2029年には約2,374億米ドルまで成長すると予測されています。これは年平均成長率(CAGR)16.1%という高い伸びを示しており、デジタル化の加速とともに金融機能を自社サービスに組み込む企業が急増していることを裏付けています。

  • 2024年:1,126億米ドル
  • 2029年:2,374億米ドル

こうした成長ドライバーには、消費者ニーズの多様化、プラットフォーム連携の容易化、規制緩和の追い風が挙げられます。

2.2 日本国内の採用状況と課題

日本国内でもエンベデッドファイナンスへの関心が高まっており、2024年の市場規模は約106.6億米ドルに達すると見込まれています。ただし、消費者の利用率は依然として低く、直近3か月でエンベデッドレンディングを利用したのは8.1%にとどまっています。また、MSB(マネーサービス事業者)の利用率も5.3%と慎重な姿勢がうかがえます。
主な課題としては、
・銀行側のAPI開発人材不足による高コスト転嫁
・消費者・事業者双方の信用リテラシー不足
・規制対応・セキュリティ構築の初期投資
などが挙げられ、導入ハードルを下げるためのアーキテクチャ共有や教育プログラムの整備が求められています。

関連情報:

Embedded Finance Catches On With Credit-Shy Japanese Consumers(外部リンク)

2.3 他業界での先行事例から学ぶポイント

非金融企業によるエンベデッドファイナンス成功事例からは、以下の“勝ちパターン”が見えてきます。

  • ECプラットフォーム(Shopify)
    Shopifyは「Shopify Balance」をローンチし、Stripe連携で入出金・決済管理を内製化。中小事業者の資金管理を一元化し、手数料収益を自社に取り込む仕組みを構築しました。
  • 美容予約サービス(Booksy)
    BooksyはStripeを導入後、予約から支払い、売上入金までをワンストップ化。決済事業者手数料の削減と顧客体験の向上を両立させています。
  • 小売/家電量販(Adorama)
    AdoramaはPayPalと提携し、オンラインストアと実店舗の購買体験をシームレスに統合。顧客がストレスなく分割払いや即時返金を利用できる仕組みを構築しました。

これらの事例に共通するポイントは、「自社のコアUXに金融機能を自然に溶け込ませる設計」と「手数料や利息を自社収益に変換するビジネスモデルの明確化」です。

次章では、非金融企業が自社に最適な収益モデルを設計するための具体手法の解説を予定しています。

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この記事を書いた人
株式会社APPSWINGBY
株式会社APPSWINGBY マーケティング

APPSWINGBY(アップスイングバイ)は、アプリケーション開発事業を通して、お客様のビジネスの加速に貢献することを目指すITソリューションを提供する会社です。

ご支援業種

情報・通信、医療、製造、金融(銀行・証券・保険・決済)、メディア、流通・EC・運輸 など多数

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監修
APPSWINGBY CTO川嶋秀一
株式会社APPSWINGBY  CTO 川嶋秀一

動画系スタートアップ、東証プライム R&D部門を経験した後に2019年5月に株式会社APPSWINGBY 取締役兼CTOに就任。
Webシステム開発からアプリ開発、AI、リアーキテクチャ、リファクタリングプロジェクトを担当。C,C++,C#,JavaScript,TypeScript,Go,Python,PHP,Vue.js,React,Angular,Flutter,Ember,Backboneを中心に開発。お気に入りはGo。

APPSWINGBY CTO川嶋秀一
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動画系スタートアップ、東証プライム R&D部門を経験した後に2019年5月に株式会社APPSWINGBY 取締役兼CTOに就任。
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