目標計画法(GP)とは

目標計画法(Goal Programming)とは、複数の競合する目標が存在する場合に、それぞれの目標からの逸脱を最小化することを目指す多目的最適化手法のこと

目標計画法(もくひょうけいかくほう、Goal Programming, GP)は、複数の目的関数(目標)が存在し、それらが互いに競合する場合に、各目標の達成度合いを事前に設定された目標値にできるだけ近づける(つまり、目標からの逸脱を最小化する)ことを目的とする、数理計画法の一種です。

これは、単一の目的関数を最大化または最小化する従来の最適化手法とは異なり、非現実的または実現不可能な「理想的な解」を追求するのではなく、各目標からの許容可能な「妥協点」を見つけ出すことに焦点を当てます。

目標計画法 の基本的な概念

多くの現実世界の意思決定問題では、企業は利益最大化と同時に環境負荷の最小化、顧客満足度の向上、従業員満足度の確保など、複数の、時には相反する目標を同時に追求する必要があります。このような状況において、目標計画法は非常に有効なツールとなります。

従来の線形計画法が制約条件の範囲内で目的関数を最適化するのに対し、目標計画法は、目標そのものを「ソフトな制約条件」として扱います。

目標計画法の構成要素:

  1. 目標変数(Goal Variables): 達成したいそれぞれの目標を定量的に表す変数です。例:生産量、コスト、利益、品質指標など。
  2. 目標値(Aspiration Levels / Targets): 各目標変数に対して、達成したい理想的な数値です。これは、必ずしも実現可能である必要はありません。
  3. 逸脱変数(Deviation Variables): 各目標変数と目標値との間の「差」を表す変数です。
    • 負の逸脱変数(d−): 目標値に満たない(目標値よりも小さい)部分を表します。
    • 正の逸脱変数(d+): 目標値を超過した(目標値よりも大きい)部分を表します。 すべての逸脱変数は非負です。(d−,d+≥0)
    各目標は、一般的に以下の形式で表現されます。

 f_k(X) + d_k^- - d_k^+ = G_k

ここで、fk​(X) はk番目の目標を表す関数(Xは決定変数のベクトル)、Gk​ はk番目の目標の目標値です。

  1. 優先順位(Preemptive Priorities)または重み(Weights): 複数の目標が存在する場合、それらの目標の重要度に応じて優先順位を付けたり、重みを割り当てたりします。
    • 優先順位付き目標計画法(Preemptive Goal Programming): 目標に厳格な優先順位 P1​>P2​>⋯>Pn​ を設定し、まず最も高い優先順位の目標の逸脱を最小化し、それが達成された上で、次に高い優先順位の目標の逸脱を最小化するという階層的なアプローチを取ります。
    • 加重目標計画法(Weighted Goal Programming): 各逸脱変数に重み wk​ を与え、その合計を最小化します。

 \text{Minimize } \sum_{k=1}^m (w_k^- d_k^- + w_k^+ d_k^+)

ここで wk−​ と wk+​ は、それぞれ負の逸脱と正の逸脱に対するペナルティ(重み)です。

    目的関数: 逸脱変数の和を最小化することが目的関数となります。この目的関数は、設定された優先順位や重みに基づいて構成されます。

目標計画法 の利点

  • 多目的問題への対応: 複数の競合する目標を同時に考慮できる点が最大の利点です。
  • 柔軟性: 厳格な最適解ではなく、「妥協点」を見つけることを目指すため、より現実的な意思決定を支援します。
  • 意思決定者の意図反映: 意思決定者が各目標の重要度や優先順位をモデルに反映させることが可能です。
  • 解釈の容易さ: 各目標からの逸脱度合いが明確に示されるため、結果が理解しやすいです。
  • 非現実的な目標設定の許容: 必ずしも到達不可能であっても、理想的な目標値を設定できるため、目標設定の自由度が高いです。

目標計画法 の課題と限界

  • 目標値の設定: 適切な目標値を設定することが、モデルの質に大きく影響します。目標値が非現実的すぎたり、あるいは保守的すぎたりすると、適切な解が得られません。
  • 優先順位と重みの決定: 複数の目標に優先順位や重みを付けることは、主観的であり、意思決定者の価値観を反映します。この設定がモデルの結果を大きく左右するため、慎重な検討が必要です。
  • 線形性の仮定: 多くの目標計画法は、線形計画法に基づいているため、目標関数や制約条件が線形であるという仮定が前提となります。非線形な関係を含む問題には、非線形目標計画法を適用する必要があります。
  • 解の唯一性: 必ずしも唯一の「最適解」が存在するわけではなく、複数の妥協解が存在する可能性があります。

目標計画法 の応用分野

目標計画法は、多様な分野における意思決定問題に応用されています。

  • 生産計画: 生産量、コスト、品質、納期、在庫レベルなど、複数の目標を同時に満たす生産計画の策定。
  • 財務計画: 利益、キャッシュフロー、リスク、負債比率など、複数の財務指標を考慮した投資ポートフォリオの最適化や予算配分。
  • 環境管理: 経済的利益と環境負荷の削減(例:CO2排出量、廃棄物量)を両立させるための戦略策定。
  • 人事管理: 人件費の最適化、従業員のスキルバランス、福利厚生の満足度など、複数の目標を考慮した人員配置計画。
  • 公共政策: 医療費の削減、医療サービスの質の向上、アクセス性の確保など、複数の社会目標を達成するための政策立案。

目標計画法は、複数の競合する目標が存在する多目的最適化問題において、それぞれの目標からの逸脱を最小化することを目指す数理計画法の一種です。各目標を逸脱変数を含むソフトな制約として表現し、目標の優先順位や重みを考慮して、最も望ましい妥協点を見つけ出します。

多目的問題への対応、柔軟な意思決定支援、意思決定者の意図反映といった利点を持つ一方で、目標値や重みの設定の難しさ、線形性の仮定といった課題も存在します。生産、財務、環境、人事、公共政策など、多様な分野で、複数の目標を同時に追求する現実世界の意思決定に貢献する強力な分析ツールです。

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