改訂シンプレックス法とは

改訂シンプレックス法(Revised Simplex Method)とは、線形計画問題(Linear Programming Problem: LPP)を数値的に効率良く解くためのアルゴリズムであり、通常のシンプレックス法(単体法)を改良し、特に大規模な問題において計算効率を高めた手法を指します。

行列演算を多用することで、計算の冗長性を排除し、丸め誤差の影響を軽減します。

改訂シンプレックス法の基本的な概念

線形計画問題は、与えられた線形の目的関数を、線形の制約条件の下で最大化または最小化する問題です。産業における資源配分、生産計画、輸送問題など、多岐にわたる最適化問題に応用されます。

シンプレックス法は、線形計画問題を解くための最も基本的で広く用いられるアルゴリズムですが、大規模な問題になると計算量が増大し、丸め誤差の影響も無視できなくなります。改訂シンプレックス法は、これらの課題に対応するために開発されました。

主な概念は以下の通りです。

  1. 線形計画問題(LPP): 目的関数とすべての制約条件が線形関数で表現される最適化問題です。標準形は以下のように表されます。 目的関数:最大化 z=cTx 制約条件: Ax=b x≥0 ここで、xは決定変数ベクトル、cは目的関数係数ベクトル、A は制約行列、b は右辺ベクトルです。
  2. 基底(Basis): シンプレックス法では、解の候補となる「頂点」を探索しますが、この頂点は特定の変数の組み合わせによって決定されます。この「基底」を成す変数の組を基底変数と呼び、それ以外の変数を非基底変数と呼びます。
  3. 基底逆行列(Inverse of the Basis Matrix): 改訂シンプレックス法の中核となる要素です。各イテレーションにおいて、現在の基底に対応する制約行列の一部(基底行列)の逆行列を効率的に更新・利用します。通常のシンプレックス法が全てのシンプレックステーブルを更新するのに対し、改訂シンプレックス法は基底逆行列のみを更新するため、計算量を削減できます。
  4. スパース性(Sparsity): 大規模な線形計画問題の制約行列Aは、多くの要素がゼロである「スパース」な構造を持つことが多いです。改訂シンプレックス法は、このスパース性を活用して計算効率をさらに高めることができます。

改訂シンプレックス法の動作原理

通常のシンプレックス法が各イテレーションでシンプレックステーブル全体を計算・更新するのに対し、改訂シンプレックス法は、基底逆行列 B−1の情報を中心に計算を進めます。

改訂シンプレックス法の主要なステップは以下の通りです。

  1. 初期化: 初期実行可能基底を見つけ、その基底行列 Bとその逆行列 B−1を設定します。
  2. 入る変数の決定(Pricing/Optimality Test): 現在の基底において、目的関数をさらに改善できる非基底変数があるかを判定します。これは、非基底変数に対応する相対コスト(reduced cost)を計算して行います。相対コストは以下のように計算されます。 cˉj​=cj​−πTAj​ここで、 \bar{c}_j $ は非基底変数 xj​ の相対コスト、cj​ は目的関数係数、Aj​ は制約行列 A の j 列、πT=cBT​B−1 は双対変数ベクトル(またはシンプレックス乗数ベクトル)です。 目的関数を最大化する問題の場合、cˉj​>0 となる非基底変数があれば、その変数を基底に導入することで目的関数値を改善できます。
  3. 出る変数の決定(Ratio Test): 入る変数を決定したら、現在の基底変数のうち、どれが基底から出るべきかを決定します。これは、入る変数を増加させた際に、どの基底変数が最初にゼロになるか、あるいは負になるかを判断することで行います。この判定には、基底逆行列と、入る変数に対応する制約行列の列ベクトルとの積B−1Aj​が用いられます。
  4. 基底の更新: 入る変数と出る変数を特定したら、基底を更新し、新しい基底行列Bとその逆行列 B−1を計算します。この逆行列の更新は、通常、行列の基本的な行操作(ピボット操作)を通じて効率的に行われます。
  5. 繰り返し: 目的関数を改善できる非基底変数がなくなるまで(すべての相対コストが≤0になるまで)、ステップ2~4を繰り返します。

改訂シンプレックス法の利点と適用

改訂シンプレックス法は、特に大規模な線形計画問題において、通常のシンプレックス法よりも優れた性能を発揮します。

利点

  • 計算効率の向上: 通常のシンプレックス法がイテレーションごとにシンプレックステーブル全体を更新するのに対し、改訂シンプレックス法は基底逆行列のみを更新します。行列のサイズが小さい場合、この差は小さいですが、大規模問題ではこの差が顕著になります。特に、制約行列がスパースである場合、非ゼロ要素のみを扱うことで計算量が大幅に削減されます。
  • 丸め誤差の低減: 多くの数値計算は、浮動小数点演算による丸め誤差の影響を受けます。通常のシンプレックス法は各イテレーションで多くの数値を更新するため、誤差が累積しやすい傾向があります。改訂シンプレックス法は基底逆行列の計算に集中し、必要に応じて $\mathbf{A} $の元のデータにアクセスするため、誤差の累積を抑制し、数値的安定性が向上します。
  • メモリ効率: シンプレックステーブル全体を保持する必要がなく、基底逆行列と元の制約行列の非ゼロ要素のみを保持すれば良いため、大規模問題でのメモリ使用量を削減できます。

適用

改訂シンプレックス法は、商用およびオープンソースの多くの線形計画ソルバー(例: CPLEX, Gurobi, SciPyなど)の内部で、大規模線形計画問題の解決に広く利用されています。 具体的な応用分野としては、以下のようなものがあります。

  • 生産計画: 複数の製品を生産する際の最適な生産量や資源配分。
  • 輸送計画: 複数の拠点間の最適な輸送経路や輸送量。
  • 金融ポートフォリオ最適化: リスクとリターンを考慮した最適な資産配分。
  • スケジューリング: 従業員のシフト、機械の稼働スケジュールなど。
  • 物流最適化: 在庫管理、倉庫配置など。

改訂シンプレックス法(Revised Simplex Method)とは、線形計画問題を数値的に効率良く解くためのアルゴリズムであり、通常のシンプレックス法を改良し、特に大規模な問題において計算効率と数値的安定性を高めた手法です。

この方法は、基底逆行列の効率的な更新と利用に焦点を当てることで、計算の冗長性を排除し、スパース性を活用します。計算効率の向上、丸め誤差の低減、メモリ効率の高さといった利点から、大規模な線形計画問題を扱う多くの最適化ソルバーで中核的なアルゴリズムとして採用されており、生産計画、輸送計画、金融ポートフォリオ最適化など、多岐にわたる現実世界の課題解決に貢献しています。

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