構文木とは

構文木(Syntax Tree)とは、プログラミング言語のソースコードや自然言語の文など、線形に並んだ要素の文法的な構造を、階層的な木構造で表現したデータ構造を指します。特にコンパイラやインタプリタがプログラムを解析する際に内部で構築され、コードの意味解析や最適化、コード生成の基礎となります。

構文木の基本的な概念

構文木は、言語の文法規則に基づいて、より小さな構成要素(トークン)がどのように組み合わされてより大きな意味単位を形成しているかを示します。これにより、コンピュータは単なるテキストの羅列としてではなく、その論理的な構造としてプログラムや文を理解することができます。

主な概念は以下の通りです。

  1. ノード(Node): 構文木を構成する個々の要素であり、文法の非終端記号(例: 式、文、関数定義)や終端記号(例: 演算子、識別子、リテラル)に対応します。
    • 根(Root): 木の最上位にあるノードで、全体のプログラムや文を表します。
    • 葉(Leaf): 木の末端にあるノードで、プログラムの最も基本的な要素(数値、変数名、演算子など)を表します。
  2. 辺(Edge): ノード間の親子関係を示し、上位の構文要素が下位の構文要素から構成されていることを表現します。
  3. 抽象構文木(Abstract Syntax Tree: AST): 構文木の最も一般的な形式です。プログラムの論理的な構造を表現することに重点を置き、括弧やセミコロンなど、文法的には必要だが意味解析上は冗長な要素は省略されることが多いです。ASTは、意味解析、最適化、そして最終的な機械語コード生成において中心的な役割を果たします。
  4. 具象構文木(Concrete Syntax Tree: CST) / パース木(Parse Tree): ソースコードの具体的な文法規則に厳密に従って、すべての終端記号と非終端記号を含む構文木です。ASTよりも詳細な情報を含みますが、一般的にASTの方がコンパイラの内部処理で多く用いられます。

構文木の構築プロセスと役割

構文木は、コンパイラの「構文解析(Parsing)」フェーズで生成されます。

  1. 字句解析(Lexical Analysis): ソースコードの文字列を、意味を持つ最小単位である**トークン(Token)**の列に分解します。
    • 例: x = a + 10; というコードは、x (識別子), = (代入演算子), a (識別子), + (加算演算子), 10 (数値リテラル), ; (文の区切り) といったトークンに分解されます。
  2. 構文解析(Syntax Analysis / Parsing): 字句解析で得られたトークンの列が、言語の文法規則(生成規則)に適合しているかを検査し、同時に構文木を構築します。この段階で文法エラーが検出されます。
    • 構文木は、トークン間の関係性や階層構造を明確にします。例えば、a + 10という式では、+が演算子であり、a10がそのオペランド(被演算子)であることを表現します。

構文木の役割:

  • 意味解析(Semantic Analysis): 構文木の構造を利用して、プログラムの意味的な正当性をチェックします。例えば、変数の型が正しいか、未定義の変数が使用されていないか、関数呼び出しの引数が正しいかなどを検査します。
  • 最適化(Optimization): 構文木を走査し、プログラムの効率を向上させるための変換(例: 不要な計算の削除、定数畳み込み)を行います。
  • コード生成(Code Generation): 構文木の情報に基づいて、最終的な機械語コードや中間コードを生成します。

構文木の例

簡単な算術式の例で構文木の構造を見てみましょう。

ソースコード: (a + b) * c

この式の抽象構文木(AST)は以下のように表現できます。

       *
      / \
     +   c
    / \
   a   b
  • 根ノード: * (乗算演算子)
  • 左の子ノード: + (加算演算子)
    • その子ノード: a (変数), b (変数)
  • 右の子ノード: c (変数)

この木構造は、「abを加算した結果を、cに乗算する」という式の意味を明確に示しています。もし括弧がなければ、演算子の優先順位によって構造が変わり、例えば a + b * c であれば、* の優先度が高いため、b * c が先に計算されるような木構造になります。

自然言語処理における構文木

構文木は、プログラミング言語の解析だけでなく、自然言語処理(NLP)の分野でも重要な役割を果たします。自然言語の文の文法構造を解析するために、「構文解析(Syntactic Parsing)」のステップで構文木が生成されます。

  • 句構造木(Phrase Structure Tree / Constituent Tree): 文を「句」(名詞句、動詞句など)や「節」といった文法的な構成要素に分解し、それらの階層関係を表現します。
  • 依存構造木(Dependency Tree): 文中の単語間の「依存関係」(どの単語がどの単語に修飾されているか、主語と述語の関係など)を矢印で結んだ木構造で表現します。

自然言語処理における構文木は、機械翻訳、情報抽出、質問応答システム、感情分析など、文の意味を理解するための基盤となります。

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