勾配ブースティングとは

勾配ブースティング(Gradient Boosting)とは、機械学習におけるアンサンブル学習手法の一つで、複数の「弱い予測器(weak learners)」、主に決定木を、前の予測器の誤差(残差)を補正するように逐次的に学習させて組み合わせることで、最終的に高精度な予測モデルを構築する手法を指します。

特に回帰問題や分類問題において、高い予測性能を発揮することで知られています。

勾配ブースティングの基本的な概念

勾配ブースティングは、「ブースティング」と呼ばれるアンサンブル学習のカテゴリーに属します。ブースティングの主なアイデアは、個々の性能はそれほど高くない予測器(例:浅い決定木)を多数用意し、それらを直列につなげて学習させることで、全体の予測精度を高める点にあります。

勾配ブースティングは、このブースティングの考え方を、より汎用的な「勾配降下法」のフレームワークに落とし込んだものです。

主な概念は以下の通りです。

  1. アンサンブル学習(Ensemble Learning): 複数の学習アルゴリズムやモデルを組み合わせることで、単一のモデルよりも優れた予測性能や頑健性を実現する機械学習のアプローチです。
  2. 弱い予測器(Weak Learner): 単独では高い予測性能を持たないシンプルなモデルです。勾配ブースティングでは、主に決定木(Decision Tree)が弱い予測器として用いられます。特に、木の深さが浅い(例えば数段のみの)決定木が使われることが多いため、「決定株(Decision Stump)」と呼ばれることもあります。
  3. 逐次的な学習(Sequential Learning): ブースティングの大きな特徴は、モデルが直列に学習される点です。最初の予測器がデータを学習し、次にその予測器がうまく予測できなかった部分(誤差)を補正するように、次の予測器が学習されます。このプロセスを繰り返すことで、モデル全体が徐々に高精度化していきます。
  4. 残差(Residual): 前の予測器の予測値と、実際の正解値との差です。勾配ブースティングは、この残差(あるいはより厳密には、損失関数の勾配)を次の予測器が学習すべき「ターゲット」として利用します。
  5. 勾配降下法(Gradient Descent): 勾配ブースティングの「勾配」という言葉は、この最適化手法に由来します。損失関数(モデルの予測の誤りを示す指標)を最小化するために、損失関数の「勾配」の方向に沿ってモデルを更新していきます。勾配ブースティングでは、**前の予測器の損失関数の勾配(負の勾配)**を次の予測器が近似するように学習します。

勾配ブースティングの動作原理

勾配ブースティングアルゴリズムは、以下の一般的な手順で動作します。

  1. 初期モデルの構築: まず、ターゲット変数(目的変数)の平均値など、最もシンプルなモデル $F_0(x)$ を初期予測として設定します。
  2. 残差(または勾配)の計算: 各イテレーション($m = 1, 2, \dots, M$)において、現在の予測モデル $F_{m-1}(x)$ が実際の正解値 $y $ に対してどの程度の誤差を持っているかを計算します。厳密には、これは損失関数 $ L(y, F(x)) $ の現在の予測 $F_{m-1}(x)$ における負の勾配として定義されます。この負の勾配が、次の弱い予測器 $ h_m(x)$ が学習すべき「擬似残差(pseudo-residuals)」となります。
  3. 新しい弱い予測器の学習: 計算された擬似残差をターゲット変数として、新しい弱い予測器 $h_m(x) $ (通常は決定木)を学習します。つまり、この新しい決定木は、前のモデルの「間違い」を予測するように訓練されます。
  4. モデルの更新: 学習した弱い予測器 $h_m(x) $ を現在のモデル $ F_{m-1}(x) $ に追加し、モデルを更新します。この際、過学習を防ぎ、学習を安定させるために、通常学習率(learning rate)$\eta$(または$ \nu $)を乗じます。F_m(x) = F_{m-1}(x) + \eta \cdot h_m(x) 習率は0より大きく1以下の値が設定され、各ステップでの寄与度を調整します。学習率を小さく設定することで、より多くの弱い予測器を学習させる必要はありますが、通常はより頑健なモデルになります。
  5. 繰り返し: ステップ2から4を、事前に設定したイテレーション数(木の数)$ M $ に達するまで繰り返します。

最終的な予測モデル $

 F_M(x)

$ は、全ての弱い予測器の加重和として表現されます。

勾配ブースティングの主なメリットとデメリット

勾配ブースティングは非常に強力なアルゴリズムですが、その特性を理解しておくことが重要です。

メリット

  • 高い予測精度: 多くのデータセットや機械学習コンペティションにおいて、非常に高い予測性能を発揮することで知られています。特にTabular Data(表形式データ)に対しては、最も優れたアルゴリズムの一つとされています。
  • 多様な損失関数に対応: 勾配降下法のフレームワークに基づいているため、二乗誤差(回帰)、交差エントロピー(分類)など、様々な損失関数に対応できます。これにより、幅広い種類の問題に適用可能です。
  • 特徴量重要度の算出: 決定木をベースとしているため、どの特徴量が予測に大きく寄与しているかを算出できます。これはモデルの解釈性向上に役立ちます。
  • 外れ値への頑健性(ロバスト性): 損失関数の選択によっては、外れ値に対して比較的頑健なモデルを構築できます。

デメリット

  • 計算コストと学習時間: モデルを逐次的に構築するため、並列処理が難しく、データセットが大規模になると学習に時間がかかる傾向があります。
  • 過学習のリスク: 強力なモデルであるため、適切なハイパーパラメータ調整(木の深さ、学習率、木の数など)を行わないと、訓練データに過度に適合し、未知のデータに対する汎化性能が低下する「過学習」を起こしやすいです。
  • ハイパーパラメータ調整の複雑さ: 多くのハイパーパラメータが存在し、それらの最適な組み合わせを見つけるのが難しい場合があります。
  • 解釈性の難しさ: 多数の決定木が複雑に組み合わさるため、最終的なモデルがなぜ特定の予測を行ったのかを完全に理解することが、単一の決定木よりも難しいです。

勾配ブースティングの主要な実装ライブラリ

勾配ブースティングアルゴリズムは、多くの最適化が施され、高速かつ高精度なライブラリとして広く利用されています。

  • XGBoost (eXtreme Gradient Boosting): データサイエンスのコンペティションで頻繁に優勝実績を持つ、非常に高速で拡張性の高い実装です。並列処理、正則化、欠損値処理などの機能が充実しています。
  • LightGBM (Light Gradient Boosting Machine): Microsoftが開発した、XGBoostに匹敵する、あるいはそれ以上の高速性とメモリ効率を持つ勾配ブースティングフレームワークです。大規模データセットに特に強いとされます。
  • CatBoost (Categorical Boosting): Yandexが開発した勾配ブースティングライブラリで、特にカテゴリカル特徴量の自動処理に強みを持っています。

これらのライブラリは、勾配ブースティングの性能を最大限に引き出すための様々な工夫が凝らされており、実務において広く活用されています。

勾配ブースティング(Gradient Boosting)とは、複数の弱い予測器(主に決定木)を、前の予測器の誤差(損失関数の勾配)を補正するように逐次的に学習させて組み合わせることで、最終的に高精度な予測モデルを構築する機械学習のアンサンブル学習手法です。

高い予測精度を持つ点が最大の強みであり、回帰や分類問題において広く用いられています。XGBoost、LightGBM、CatBoostといった主要なライブラリを通じて実装されており、データ分析や機械学習の実務において不可欠なツールとなっています。

一方で、計算コストや過学習のリスク、ハイパーパラメータ調整の複雑性といった課題も存在するため、適切な利用にはこれらの特性を理解しておくことが重要です。

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