差分バックアップとは

差分バックアップ(Differential Backup)とは、データバックアップ戦略の一つで、前回のフルバックアップが行われた時点から、新しく作成されたり、変更されたりしたデータのみを保存する手法を指します。

増分バックアップと異なり、各差分バックアップは常に直近のフルバックアップを基準とするため、データ復旧時にはフルバックアップと最新の差分バックアップの2つがあれば完結します。

差分バックアップの基本的な概念

差分バックアップは、効率性と復旧のしやすさのバランスを取るバックアップ方式として、多くのシステムで採用されています。

主な概念は以下の通りです。

  1. フルバックアップ(Full Backup): 対象となるすべてのデータを完全に保存するバックアップです。差分バックアップの唯一の基準点となります。
  2. 増分バックアップ(Incremental Backup): 前回のあらゆる種類のバックアップ(フルバックアップまたは別の増分バックアップ)以降に変更・追加されたデータのみを保存するバックアップです。差分バックアップとよく比較されます。
  3. 変更管理(Change Tracking): ファイルシステムやバックアップソフトウェアが、どのファイルが変更されたか、あるいは新しく作成されたかを追跡する仕組みです。これには、ファイルの日付情報(更新日時など)やアーカイブビット(Windowsの場合)などが利用されます。
  4. リカバリポイント目標(Recovery Point Objective: RPO): 障害発生時に許容されるデータ損失の最大量を示す指標です。差分バックアップの頻度によってRPOが変動します。
  5. リカバリ時間目標(Recovery Time Objective: RTO): 障害発生からシステムが完全に復旧するまでに許容される最大時間を示す指標です。差分バックアップは、増分バックアップよりRTOを短縮しやすい特性があります。

差分バックアップの動作原理と仕組み

差分バックアップは、常に特定のフルバックアップを基準点として動作します。

  1. 初回バックアップ: まず、対象データのフルバックアップを取得します。これは、以降の差分バックアップの「ベースライン」となります。
  2. 2回目以降のバックアップ:
    • ファイルレベルの検出: バックアップソフトウェアは、直近のフルバックアップが実行された時点以降に、ファイルが変更されたか、新しく作成されたかを検出します。これは通常、ファイルの日付(更新日時)を比較するか、Windowsのファイルシステムが持つアーカイブビットを利用して行われます。
    • 変更データの保存: 検出された変更・追加データのみをバックアップストレージに保存します。このとき、どのフルバックアップ(ベースライン)に対する差分であるかという情報が記録されます。

例で見る動作

  • 1月1日: フルバックアップを実行 (A)
  • 1月2日: ファイルF1、F2、F3が変更
    • 差分バックアップを実行 (B) – 変更されたF1, F2, F3のみを保存(基準はA)
  • 1月3日: ファイルF4、F5が変更。1月2日に変更されたF1, F2, F3も依然として「Aからの変更点」
    • 差分バックアップを実行 (C) – 変更されたF1, F2, F3, F4, F5を保存(基準はA)
  • 1月4日: ファイルF2、F6が変更。1月2日、1月3日に変更されたファイルも依然として「Aからの変更点」
    • 差分バックアップを実行 (D) – 変更されたF1, F2, F3, F4, F5, F6を保存(基準はA)

このように、各差分バックアップは独立してフルバックアップを参照します。

差分バックアップのメリットとデメリット

差分バックアップは、増分バックアップとフルバックアップの中間に位置する特性を持ちます。

メリット

  1. データ復旧(リストア)が比較的容易かつ高速: データを復元する際、最新のフルバックアップと最新の差分バックアップの2つだけがあればよいため、復旧プロセスがシンプルで、比較的短時間で完了します。増分バックアップのように長いチェーンをたどる必要がありません。
  2. バックアップ時間の短縮: フルバックアップと比較して、変更されたデータのみを保存するため、バックアップにかかる時間は短縮されます。ただし、増分バックアップよりは時間がかかります。
  3. ストレージ容量の節約: フルバックアップよりは保存データ量が少ないため、ストレージ容量を節約できます。ただし、増分バックアップよりは多くなります。
  4. 復旧の信頼性が高い: 復旧に必要なファイルが2つに限定されるため、バックアップチェーンのどこか一つでも破損すると復旧できないという増分バックアップのデメリットを回避できます。

デメリット

  1. バックアップ時間の増加: 前回のフルバックアップからの変更をすべて含むため、日数を重ねるごとにバックアップ対象のデータ量が増加し、バックアップにかかる時間が長くなります。増分バックアップに比べるとこの傾向は顕著です。
  2. ストレージ容量の増加: 同様に、日数を重ねるごとに保存されるデータ量が増えるため、増分バックアップに比べて必要なストレージ容量が増大します。
  3. バックアップ頻度への影響: バックアップの時間と容量が増加するため、頻繁なバックアップが難しくなる場合があります。

差分バックアップの活用シナリオ

  • 週次または隔週のバックアップ: 毎週フルバックアップを実行し、その間の平日は毎日差分バックアップを行うといったスケジュールが一般的です。
  • 中規模のデータ環境: フルバックアップを毎日行うのは負担が大きいが、増分バックアップの復旧の複雑性を避けたい場合に適しています。
  • 復旧時間の短縮が重視されるシステム: ダウンタイムを最小限に抑えたいシステムにおいて、増分バックアップよりも迅速な復旧が期待できます。

差分バックアップと増分バックアップの比較

差分バックアップと増分バックアップは混同されやすいですが、その動作原理と復旧時の挙動には明確な違いがあります。

特徴差分バックアップ(Differential Backup)増分バックアップ(Incremental Backup)
基準点前回のフルバックアップ前回のあらゆる種類のバックアップ(フルまたは増分)
保存データ前回のフルバックアップからの変更点すべて前回のバックアップからの変更点のみ
バックアップ時間中程度(増分より長いがフルより短い)短い
ストレージ容量中程度(増分より多いがフルより少ない)少ない
復旧に必要なファイル最新のフルバックアップ + 最新の差分バックアップ最新のフルバックアップ + すべての増分バックアップ
復旧時間短い(常に2つのファイルのみ)長い(チェーンが長いほど)
復旧の複雑性低い(2つのファイルのみの管理)高い(チェーンの破損リスク)
差分バックアップと増分バックアップの比較

差分バックアップ(Differential Backup)とは、前回のフルバックアップを基準として、それ以降に変更・追加されたデータのみを保存するバックアップ手法です。この方式の最大の利点は、データ復旧時に最新のフルバックアップと最新の差分バックアップの2つのファイルだけで済むため、復旧プロセスがシンプルで迅速に完了する点にあります。一方で、時間が経過するにつれて差分データの量が増加し、バックアップ時間とストレージ容量も増大するというデメリットがあります。増分バックアップと比較すると、効率性では劣るものの、復旧の信頼性とシンプルさで優位性があります。システムやデータの特性、リカバリ目標(RPO/RTO)を考慮し、フルバックアップ、差分バックアップ、増分バックアップを適切に組み合わせて運用することが、効果的なデータ保護戦略を構築する上で重要です。

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