シグネチャとは
シグネチャ(Signature)とは、情報セキュリティの分野において、マルウェア、不正アクセス、またはその他の脅威を識別するために用いられる、特定のデータやコード、あるいは振る舞いの特徴を抽出した一意のデジタル識別子を指します。
ウイルス対策ソフトや侵入検知システム(IDS)などが、このシグネチャデータベースと照合することで、既知の脅威を検知し、対応を判断します。
シグネチャの基本的な概念
シグネチャは、特定の悪意ある活動を効率的かつ正確に特定するための「指紋」のようなものです。
主な概念は以下の通りです。
- パターンマッチング(Pattern Matching): 対象となるデータ(ファイル、ネットワークトラフィックなど)が、既知の脅威のシグネチャと一致するかどうかを比較するプロセスです。
- データベース(Database): 検出対象となるすべてのシグネチャが格納されている場所です。ウイルス対策ソフトであれば「ウイルス定義ファイル」や「パターンファイル」と呼ばれることが多く、常に最新の状態に保つ必要があります。
- 誤検知(False Positive): 正常なファイルや活動を誤って不正なものとしてシグネチャが検知してしまうことです。誤検知が多いと、ユーザーの利便性を損ねたり、重要なシステムが停止したりする原因となります。
- 見逃し(False Negative): 実際に不正なファイルや活動が発生しているにもかかわらず、シグネチャがそれを検知できないことです。これは、新しい脅威や既存の脅威の変種(亜種)に対して、シグネチャがまだ作成されていない場合に発生します。
シグネチャの種類と適用領域
シグネチャは、監視対象や検知の目的によっていくつかの種類があります。
1. ウイルス・マルウェアシグネチャ
- 概要: 既知のウイルス、トロイの木馬、ワーム、ランサムウェアなどのマルウェアが持つ、特定のバイナリコードの断片、ファイルのハッシュ値、特定のAPI呼び出しパターンなどを識別子として定義したものです。
- 適用領域:
- アンチウイルスソフトウェア: ファイルがウイルスに感染しているかどうかをスキャンする際に、ファイルのシグネチャとデータベースを照合します。
- エンドポイントプロテクション(EPP): 端末(PC、サーバー)上の不審なファイルを検知・隔離します。
- 例:
- 特定のウイルスの特徴的なバイト列のシーケンス。
- ファイル全体のMD5やSHA256ハッシュ値。
2. ネットワーク侵入シグネチャ
- 概要: ネットワークトラフィック(通信パケット)の中に含まれる、既知のネットワーク攻撃(例: 特定の脆弱性を悪用する通信、ポートスキャン、不正なプロトコルシーケンスなど)の特徴的なパターンを識別子として定義したものです。
- 適用領域:
- 侵入検知システム(IDS: Intrusion Detection System): ネットワークを流れるパケットを監視し、不正な通信パターンを検知して警告を発します。
- 侵入防止システム(IPS: Intrusion Prevention System): IDSの機能に加え、不正な通信を自動的に遮断します。
- 例:
- 特定の脆弱性を狙ったHTTPリクエストの文字列。
- 悪意のあるペイロードのバイナリパターン。
- 特定のポートへの異常な接続試行パターン。
3. 不正アクセス・活動シグネチャ(ホストベース)
- 概要: 個々のシステム(サーバー、PC)のログファイル、レジストリ変更、ファイルシステムへのアクセスパターン、特定のプロセス実行など、不正な活動の兆候となるパターンを識別子として定義したものです。
- 適用領域:
- ホストベースIDS(HIDS): サーバーやワークステーション内部の不審な挙動を監視します。
- SIEM(Security Information and Event Management): 複数のシステムから収集されたログデータを分析し、相関関係から不正な活動を検知します。
- 例:
- 特定のシステムファイルのアクセス権限が不正に変更された記録。
- 通常とは異なる時間帯に、特権ユーザーアカウントがログインを試みたログ。
シグネチャベース検知のメリットとデメリット
シグネチャを用いた検知方法は、長年にわたりセキュリティ対策の中心的な役割を担ってきましたが、限界も存在します。
メリット
- 高い検知精度: 既知の脅威に対しては、非常に高い精度で検知し、誤検知が少ない傾向があります。
- 低い誤検知率: 明確なパターンに合致するもののみを検知するため、正常な活動を誤って検知するリスクが比較的低いです。
- 高速な処理: パターンマッチングは比較的単純な計算で実行できるため、高速な処理が可能です。
デメリット
- 未知の脅威への対応不能: シグネチャが存在しない新しい脅威(ゼロデイ攻撃など)や、既知の脅威のわずかな変種(亜種)に対しては検知できません。これが最大の弱点です。
- シグネチャデータベースの更新の必要性: 常に新しい脅威に対応するためには、シグネチャデータベースを頻繁に(数時間ごと、あるいは数分ごと)更新し続ける必要があります。
- シグネチャ回避の可能性: 攻撃者は、シグネチャを回避するために、マルウェアのコードを難読化したり、多態性(Polymorphism)や変態性(Metamorphism)を用いて自身を変化させたりする手法を用います。
シグネチャの限界と補完技術
シグネチャベースの検知だけでは、現代の巧妙なサイバー攻撃に対応しきれません。そのため、以下の補完技術と組み合わせて利用されることが一般的です。
- ヒューリスティック検知(Heuristic Detection): ファイルの内容やプログラムの挙動を分析し、既知のシグネチャがなくても、悪意ある可能性のあるパターンや振る舞いを発見する手法です。
- アノマリ(異常)検知(Anomaly Detection): 正常なシステムやネットワークのベースライン(プロファイル)を学習し、そこから逸脱する「異常な振る舞い」を検知する手法です。未知の脅威にも対応できる可能性があります。
- サンドボックス(Sandbox): 疑わしいファイルを隔離された仮想環境で実行し、その挙動を監視・分析することで、悪意ある活動の有無を判断する技術です。
- 機械学習(Machine Learning)/ AI: 大量のデータからパターンを学習し、マルウェアの分類や不正アクセスの検知を自動化・高度化する技術です。シグネチャに依存しない検知能力が期待されます。
- EDR(Endpoint Detection and Response): エンドポイント上での継続的な監視、データ収集、分析を行い、不審な活動や攻撃の兆候を検知し、迅速な対応を支援するソリューションです。
現代のサイバーセキュリティ対策は、これらの多角的な検知技術を組み合わせた「多層防御」が主流となっています。
シグネチャ(Signature)とは、ウイルスや不正アクセスといったサイバー脅威を識別するために用いられる、特定のデータやコード、振る舞いの特徴を抽出した一意のデジタル識別子です。
ウイルス対策ソフトがファイル内のマルウェアコードと照合したり、侵入検知システムがネットワーク通信中の攻撃パターンを検知したりする際に利用されます。シグネチャベースの検知は、既知の脅威に対して高い精度と低い誤検知率を発揮しますが、シグネチャが未定義の「ゼロデイ攻撃」や巧妙に変形された脅威には対応できないという限界があります。
このため、近年では、ヒューリスティック検知、アノマリ検知、サンドボックス、機械学習、EDRといった多様な技術とシグネチャ検知を組み合わせた「多層防御」のアプローチが、現代の高度なサイバー脅威に対抗するための標準的なセキュリティ戦略となっています。
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