スプリットブレインとは

スプリットブレインは、クラスターシステムにおいて、ネットワーク分断などの問題により、複数のノードがそれぞれ独立して稼働していると誤認識し、データの不整合やサービスの競合を引き起こす状態のことです。

この状態は、システムの可用性とデータの一貫性を脅かす深刻な問題となります。

スプリットブレインの概要

クラスターシステムは、複数の独立したコンピューター(ノード)を連携させ、あたかも単一のシステムであるかのように機能させることで、システムの可用性や処理能力を高めることを目的としています。

しかし、クラスター内のノード間の通信が何らかの原因で途絶した場合、それぞれのノードが「自分だけが生き残っている」と誤解し、本来は単一のノードが実行すべき処理を複数のノードが同時に実行しようとすることがあります。この状態がスプリットブレイン(Split-Brain)、直訳すると「脳が分裂した状態」です。

スプリットブレインが発生すると、以下のような問題が引き起こされる可能性があります。

  • データの不整合: 複数のノードが同じデータに対して書き込みを行い、それぞれのノードが異なる状態を持つことで、データの整合性が失われます。
  • サービスの競合: 同じサービス(例えば、データベースやWebサーバー)が複数のノードで同時に起動してしまい、リソースの競合やユーザーからのリクエスト処理の混乱が生じます。

スプリットブレインが発生する主な原因

スプリットブレインは、主にクラスター内のネットワーク分断が原因で発生します。

1. ネットワーク分断

クラスター内のノード間通信に使用されるネットワークが、物理的または論理的な問題によって遮断されることが最も一般的な原因です。

  • 物理的なネットワーク障害: ネットワークケーブルの切断、スイッチの故障、ネットワークインターフェースカード (NIC) の故障など。
  • 論理的なネットワーク障害: ファイアウォールの設定ミス、ルーティングの問題、ネットワークデバイスの過負荷によるパケットロスなど。

2. クラスターソフトウェアの誤認識

ネットワーク自体は健全であっても、クラスター管理ソフトウェアやハートビート機構の不具合により、ノード間の通信が途絶したと誤認識される場合があります。

  • ハートビートの遅延: ハートビート(ノード間の生存確認信号)が一時的に遅延し、他のノードがダウンしたと誤判定される。
  • クラスター設定の不備: クォーラム(多数決)設定が不適切である、またはネットワークタイムプロトコル (NTP) による時刻同期が不十分である場合など。

スプリットブレインが引き起こす影響

スプリットブレインは、クラスターシステムにとって致命的な影響を及ぼします。

  • データ破損: 複数のノードが同じ共有データストレージに同時に書き込みを行うと、データの競合が発生し、最も新しい更新が失われたり、データが破損したりする可能性があります。特にデータベースのような状態を持つアプリケーションでは深刻です。
  • サービスの中断または誤動作: 同じIPアドレスやポートで複数のサービスが起動し、ネットワーク上で競合することで、クライアントからの接続が不安定になったり、期待通りの動作をしなくなったりします。
  • リソースの無駄な消費: 不要なサービスが複数起動することで、CPU、メモリ、ディスクI/Oなどのシステムリソースが無駄に消費されます。
  • 復旧作業の複雑化: スプリットブレイン状態から正常な状態へ復旧させるには、手動での介入が必要となる場合が多く、データの整合性を取り戻すために複雑な手順を踏む必要があります。

スプリットブレインの対策

スプリットブレインは避けなければならない状況であるため、クラスターシステムを設計・構築する際には、この問題への対策が非常に重要になります。主な対策は以下の通りです。

1. クォーラムメカニズム

クラスター内のノードが、システム全体の状態に関する合意形成(クォーラム)を行うためのメカニズムです。これにより、ネットワーク分断が発生した場合でも、過半数のノードが合意した側のみがサービスを継続し、残りのノードはサービスを停止(またはフェンス)することで、スプリットブレインを防ぎます。

  • : 奇数個のノードでクラスターを構成する、クォーラムディスク(共有ストレージ上の投票領域)を使用する、第三者ノード(タイブレーカー)を設置するなど。

2. フェンシング(Fencing)

スプリットブレインの発生を検知した際に、システムが自動的に問題のあるノードを切り離し、共有リソースへのアクセスを強制的に遮断するメカニズムです。これにより、データ破損やサービス競合を防ぎます。

  • ハードウェアフェンシング: 電源制御(PDUを利用した強制シャットダウンや再起動)、SANストレージのポート切断など。
  • ソフトウェアフェンシング: SSH経由での強制プロセス停止、仮想マシンの停止など。

3. 冗長なネットワークパス

クラスター内のノード間通信に複数の独立したネットワークパスを用意することで、単一のネットワーク障害がクラスター全体の分断に繋がるリスクを低減します。

  • : 複数のNIC、異なるスイッチやルーターを使用する。

4. ハートビートの監視とタイムアウト設定

ノード間のハートビート間隔を適切に設定し、応答がない場合のタイムアウトを考慮することで、一時的なネットワーク遅延と実際のノードダウンを区別し、誤判定によるスプリットブレインを避けます。

5. クラスターソフトウェアの選定と設定

スプリットブレイン対策機能が充実しているクラスターソフトウェア(例: Pacemaker, Corosync, Kubernetesのetcdなど)を選定し、クォーラムやフェンシングの各種設定を適切に行うことが重要です。

スプリットブレインは、クラスターシステムにおいて避けるべき重大な状態であり、データの整合性とサービスの可用性に直接的な影響を与えます。

堅牢なクォーラムメカニズムとフェンシング技術を組み合わせ、冗長なネットワーク構成と適切な監視を行うことで、このリスクを最小限に抑え、信頼性の高いシステム運用を実現することが可能です。

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