サプライチェーンセキュリティ:ランサムウェア・改ざんリスクへの対策強化ガイド

はじめに
サプライチェーンセキュリティの重要性
デジタルトランスフォーメーション(DX)の加速に伴い、企業のソフトウェア開発におけるサプライチェーンの複雑化が進んでいます。オープンソースソフトウェア(OSS)の活用、クラウドサービスの利用、外部ベンダーとの協業など、開発環境は急速に広がりを見せています。
この変化は開発効率を大きく向上させる一方で、新たなセキュリティリスクをもたらしています。当社が2023年に実施した調査では、国内の大手企業の約65%がサプライチェーンを通じたセキュリティインシデントを経験、もしくは懸念を抱えているという結果が出ています。
ランサムウェアや改ざんリスクがもたらすビジネスへの影響
特に深刻な脅威となっているのが、ランサムウェアによる攻撃と、ソースコードの改ざんです。2023年には大手製造業A社のケースで、サプライチェーン攻撃により基幹システムが2週間停止し、推定30億円の損害が発生しました。また、某金融機関では、改ざんされた外部ライブラリの使用により、顧客情報が流出するインシデントが発生しています。
ランサムウェア攻撃やシステム改ざんは、企業の機密情報の漏洩や業務停止を引き起こし、深刻な経済的損失をもたらします。さらに、信頼の失墜や法的リスクが伴うケースも少なくありません。これらの被害を未然に防ぐためには、サプライチェーン全体を見渡した包括的なセキュリティ対策が必要です。
- 1. はじめに
- 1.1. サプライチェーンセキュリティの重要性
- 1.2. ランサムウェアや改ざんリスクがもたらすビジネスへの影響
- 2. 1.サプライチェーンセキュリティを取り巻く現状
- 2.1. 増加するサプライチェーン攻撃の実態と最新事例
- 2.2. 開発現場が直面する具体的なリスクと課題
- 2.3. 法規制・ガイドラインの動向
- 2.3.1.1.1. 注目すべき法規制・ガイドラインの動向
- 3. 2.サプライチェーン攻撃の実態
- 3.1.1. ランサムウェア攻撃の手口とその進化
- 3.1.2. 主要な攻撃パターンと侵入経路の分析
- 3.1.3. ソフトウェア供給チェーンにおける改ざん事例
- 3.1.3.1. SolarWinds事件の概要
- 3.1.3.2. 攻撃の流れ
- 3.1.3.3. 攻撃の手法と特徴
- 3.1.3.4. 影響範囲
- 3.1.3.5. 事件から得られた教訓
1.サプライチェーンセキュリティを取り巻く現状
増加するサプライチェーン攻撃の実態と最新事例
サプライチェーン攻撃の件数は年々増加しており、被害の規模や深刻度も拡大しています。例えば、2020年に発生したSolarWinds攻撃では、同社のネットワーク監視ツールを通じて数多くの企業や政府機関が被害を受けました。この事件は、単一の脆弱性がどれだけ広範囲な影響を及ぼすかを示しています。
また、最近では、特定のプログラムライブラリやオープンソースソフトウェアの改ざんを通じた攻撃が増加傾向にあります。これにより、開発プロセス自体が狙われるケースが目立っています。
その他、IPAの統計によると、2023年のサプライチェーン攻撃は前年比40%増加し、特に以下の攻撃が顕著になっています:
- ビルドパイプラインへの侵入によるマルウェア混入
- 依存ライブラリへのバックドア埋め込み
- CI/CDツールの脆弱性を突いた攻撃
当社で確認した事例では、正規の開発ツールを装った偽装アプリケーションによる情報窃取や改ざんされたnpmパッケージによる認証情報の漏洩などの不正プログラムが確認されています。
開発現場が直面する具体的なリスクと課題
開発現場では、以下のような課題に直面しています:
- 依存関係の把握困難
- 利用しているOSSの依存関係が複雑で、全容把握が困難
- 脆弱性が発見された際の影響範囲特定に時間がかかる
- セキュリティと開発速度のバランス
- セキュリティチェックによる開発遅延
- リソース不足による対策の先送り
- サードパーティリスクの管理
- 外部ベンダーのセキュリティ態勢の評価が不十分
- 契約更新時のセキュリティ要件の見直しが不規則
- セキュリティ文化の未成熟
- 従業員がセキュリティ意識を持たないことが、内部からのリスクを高めているケースがある
多くの企業がコスト削減や効率化のためにオープンソースを活用していますが、これらのソフトウェアには未発見の脆弱性が潜んでいる可能性があります。また、サプライヤーやベンダーのセキュリティ対策が不十分な場合、これが直接的な攻撃の入り口となるリスクがあります。
法規制・ガイドラインの動向
セキュリティ対策の指針となる法規制やガイドラインも整備が進んでいます。
特に注目すべきは、米国国立標準技術研究所(NIST)が発行するSP 800-161r1です。サプライチェーンリスクマネジメントにおける重要な指針として多くの企業で採用されています。
注目すべき法規制・ガイドラインの動向
- NIST SP 800-161r1:サプライチェーンリスク管理の包括的フレームワーク
- 経済産業省:サイバーセキュリティ経営ガイドライン Ver 2.0
- サイバーセキュリティ基本法の改正(2024年4月施行予定)
これらのガイドラインは、以下のような具体的なポイントを示しています。
- リスク評価の標準化
- 供給者との契約におけるセキュリティ要求事項の明確化
- 継続的なモニタリングの重要性
これらの規制対応には、専門的な知識と体系的なアプローチが必要です。APPSWINGBYでは、規制対応のコンサルティングから具体的な実装支援まで、包括的なサービスを提供しています。
2.サプライチェーン攻撃の実態

ランサムウェア攻撃の手口とその進化
ランサムウェア攻撃のもともとの攻撃パターンは、企業の重要データを暗号化し、復旧のための身代金を要求するサイバー攻撃でしたが、その手口は年々高度化しており、近年では単なるファイル暗号化から高度な二重脅迫へと進化しています。
特に開発環境を標的とした攻撃では、以下のような新たな手法が確認されています。
- ソースコードの窃取と脅迫:開発中のソースコードを窃取し、公開を脅迫(ダブルエクストーション:暗号化だけでなく、盗み取ったデータを公開する脅迫を併用。)
- サプライチェーン攻撃との組み合わせ: ソフトウエアパッケージを提供する一次ベンダーを経由してターゲットに到達する間接的な手法。
- ビルドシステムの破壊:CIパイプラインを破壊し、本番環境へのデプロイを妨害
- バックドア埋め込み:ランサムウェア感染時に同時にバックドアを設置
APPSWINGBYでは、これらの新しい攻撃手法に対応する専門的な対策プログラムをご用意しています。
主要な攻撃パターンと侵入経路の分析
サプライチェーン攻撃における主要な侵入経路を分析すると、以下のパターンが顕著です。
- フィッシングメール
- 開発者やIT部門を標的にした悪意のあるメール
- 依存パッケージを介した侵入
- 悪意のあるnpmパッケージの混入
- 改ざんされたライブラリの配布
- タイポスクワッティング攻撃
- プラグインに脆弱性を埋め込む
- 開発ツールチェーンを介した侵入
- CI/CDパイプラインの脆弱性悪用
- ビルドサーバーへの不正アクセス
- 開発者の認証情報の窃取
- 開発環境の構成ミスを悪用
- アクセス権限の誤設定
- 開発用サーバーの公開設定ミス
- セキュリティ設定の不備
- 未修正の脆弱性が攻撃者に悪用される。
ソフトウェア供給チェーンにおける改ざん事例
サプライチェーン攻撃の代表的な事例として、2020年に発覚したSolarWinds社へのサイバー攻撃事件を詳しく見ていきましょう。この事件は、ソフトウェアサプライチェーンの脆弱性がもたらすリスクを如実に示した重大なインシデントです。
この攻撃では、SolarWindsが提供するネットワーク監視ツール「Orion」のアップデートプロセスに攻撃者が侵入し、悪意のあるコードを挿入しました。
SolarWinds事件の概要
- 攻撃者は2019年9月から、SolarWinds社の製品「Orion」のビルドプロセスに侵入
- 正規のソフトウェアアップデートに悪意のあるコードを密かに混入
- 約18,000の組織が改ざんされたアップデートをインストール
- 影響を受けた組織には、米国政府機関や大手IT企業なども含まれる
攻撃の流れ
- 攻撃者はSolarWindsの開発環境に侵入。
- 「Orion」ソフトウェアのビルドプロセスにバックドアを埋め込み、正規のアップデートとして配信。
- 攻撃者はバックドアを利用して顧客のネットワークにアクセス。
攻撃の手法と特徴
- 高度な潜入戦略
- テスト環境での事前検証により、マルウェア検知を回避
- 正規のデジタル署名を悪用し、信頼性を確保
- コードの改ざんを巧妙に隠蔽
- 攻撃の段階的実行
- 初期段階:バックドアの設置
- 潜伏期間:約2週間の待機時間を設定
- 標的選定:特定の組織のみを詳細な調査の対象に
- 被害の連鎖
- 一次被害:SolarWinds製品の直接ユーザー
- 二次被害:取引先や関連組織への感染拡大
- 三次被害:さらなる組織への攻撃の踏み台として悪用
影響範囲
- 約18,000の顧客が感染した可能性があるとされ、企業だけでなく米国政府機関も被害を受けました。
- 攻撃者は情報盗取やシステム内での長期的な潜伏を実現。
事件から得られた教訓
- サプライチェーンの重要性
- 信頼できるベンダーであっても、リスクは存在
- サプライチェーン全体の可視化と監視が必要
- サードパーティ製品の定期的なセキュリティ評価の重要性
- 開発環境のセキュリティ強化・対策の必要性
- 開発プロセス自体が攻撃対象となることを認識し…
次回の記事では、「事件から得られた教訓(続き)」「実際の被害事例から学ぶリスクの深刻性」「効果的な対策アプローチ」などについてご紹介する予定です。ぜひ続編もご覧いただき、貴社の2025年以降のサプライチェーンセキュリティ戦略にお役立てください。
解説記事「【AI医療】医療データ分析で患者の予後を予測」の続きは
現在準備中です。
公開までお待ちください。
もし本記事を読み、貴社におけるサプライチェーンセキュリティの導入やご検討されているのであれば、ぜひお気軽にお問い合わせフォームからご連絡ください。私たちが持つ専門的な知見と経験を活かし、最適なセキュリティソリューションをご提案させていただきます。

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この記事を書いた人

株式会社APPSWINGBY マーケティング
APPSWINGBY(アップスイングバイ)は、アプリケーション開発事業を通して、お客様のビジネスの加速に貢献することを目指すITソリューションを提供する会社です。
ご支援業種
情報・通信、医療、製造、金融(銀行・証券・保険・決済)、メディア、流通・EC・運輸 など多数
監修

株式会社APPSWINGBY
CTO 川嶋秀一
動画系スタートアップ、東証プライム R&D部門を経験した後に2019年5月に株式会社APPSWINGBY 取締役兼CTOに就任。
Webシステム開発からアプリ開発、AI、リアーキテクチャ、リファクタリングプロジェクトを担当。C,C++,C#,JavaScript,TypeScript,Go,Python,PHP,Vue.js,React,Angular,Flutter,Ember,Backboneを中心に開発。お気に入りはGo。