ゼロトラストエッジ(ZTE)とは?

先日、打合せの中で、”ゼロトラストエッジ(ZTE)”について議論する場がありました。最近はゼロトラスト自体の話題が減りつつありますが、ゼロトラストエッジ自体は非常に有効なセキュリティ対諾でありますので、ゼロトラストエッジ(ZTE)”の定義や基本構成、ZTE実装のためのアーキテクチャなどについてこの場でご紹介していきたいと思います。
- 1. 1. はじめに:ゼロトラストエッジ(ZTE)導入の背景と狙い
- 1.1. 1-1. エッジコンピューティングとゼロトラストの融合が必要な理由
- 1.2. 1-2. デジタル変革におけるセキュリティの新潮流
- 2. 2. ゼロトラストエッジの定義と基本構成
- 2.1. 2-1. ZTEとは何か?──コアコンポーネントと機能
- 2.2. 2-2. 従来のゼロトラスト/エッジと何が違うのか
- 3. 3. ビジネス成果との紐づけ:ZTEがもたらす価値
- 3.1. 3-1. レイテンシ低減・可用性向上による業務効率化
- 3.2. 3-2. セキュリティ強化がもたらすリスク削減効果とROI
- 3.3. 3-3. ユースケース別ベネフィット(製造業、流通業、金融業)
1. はじめに:ゼロトラストエッジ(ZTE)導入の背景と狙い
企業システムはこれまで、オンプレミスのデータセンターやクラウド上に集中していましたが、IoTデバイスや5Gの普及に伴い「エッジコンピューティング」への拡張を余儀なくされ、クラウド+エッジコンピューティングへのシフトが急速に進んでいる状況です。
これにより、データ処理や分析をユーザーやセンサーに近い場所で行うことで、レイテンシの低減や帯域幅の節約といったメリットが得られます。一方で、従来の「境界防御(Perimeter Security)」モデルは、分散した環境を保護しきれず、サイバー攻撃のリスクが増大しているといった状況です。
ゼロトラストエッジ(ZTE)は、こうした課題に対して「すべてを信頼しない」原則をエッジ環境にまで適用することで、デジタル変革を支える新たなセキュリティモデルです。
1-1. エッジコンピューティングとゼロトラストの融合が必要な理由
エッジコンピューティングの導入拡大に伴い、以下のようなセキュリティ上の課題が顕在化しています。
- 分散化による可視性低下
エッジデバイスやローカル拠点でのデータ処理が増えるほど、ネットワーク全体を一元的に監視・管理するのが難しくなっています。 - 拡大する攻撃対象領域
各エッジノードが攻撃者の侵入口となりうるため、従来の境界防御だけでは脅威を防ぎきれない状況になりつつあります。 - 認証・認可の一貫性欠如
中央とエッジで異なる認証基盤を使うと、ポリシー適用漏れや設定ミスによる権限逸脱が発生しやすくなります。
ゼロトラストは「ネットワーク内外を問わず、すべてのアクセスを検証する」アプローチです。これをエッジ環境にまで適用することで、どこからのアクセスであっても以下を保証できます。
- ユーザー/デバイスの正当性検証
- アクセスごとの細粒度ポリシー適用
- 通信の暗号化と異常検知
1-2. デジタル変革におけるセキュリティの新潮流
デジタル変革(DX)を推進する企業は、次のような要件を同時に満たす必要があります。
- ビジネスの俊敏性
新サービスや機能を迅速にローンチするため、従来よりも短い開発サイクルを実現したい。 - 運用コストの最適化
リソースを有効活用し、ネットワーク帯域やデータセンターのコストを抑制したい。 - 堅牢なセキュリティ
境界が曖昧化した環境でも、内部・外部の脅威からシステムを守りたい。
この3つを同時に実現するために、「クラウドネイティブ」「アジャイル/DevOps」「ゼロトラストエッジ」という3つの柱が注目されています。特にZTEは、データの生成地点であるエッジでの認証・暗号化・ポリシー適用を自動化し、DXの加速を支えます。
以下に、DX推進におけるセキュリティ要件とZTEの役割を整理しましたので、ご参考ください。
要件 | 従来モデルの課題 | ZTEによる解決策 |
---|---|---|
俊敏性 | セキュリティ承認に時間がかかり開発が停滞 | エッジでのポリシー適用自動化で承認プロセスを高速化 |
コスト最適化 | データセンターへの集中負荷と帯域使用量増加 | ローカルで処理・集約し、バックホール帯域を節約 |
セキュリティ強度 | 境界が曖昧化し、内部不正や横移動が検知困難 | すべてのアクセスを「ゼロトラスト」で検証・記録 |
2. ゼロトラストエッジの定義と基本構成
エッジコンピューティングとゼロトラストを融合し、ネットワークの“境界”を問わず一貫したセキュリティを実現するのがゼロトラストエッジ(ZTE)です。本セクションでは、まずZTEのコアコンポーネントと機能を整理し、その後、従来のゼロトラストやエッジコンピューティングと何が異なるのかを比較していきます。
2-1. ZTEとは何か?──コアコンポーネントと機能
ゼロトラストエッジは、「ネットワーク/セキュリティ機能をオンプレミスからクラウド、そしてエッジにまで分散配置し、ゼロトラスト原則に基づいて常に検証・制御を行うアーキテクチャ」です。
ForresterのNow Techレポートによると、SD‑WAN、NGFW、ZTNA(Zero Trust Network Access)の組み合わせを第一歩とし、SWG(Secure Web Gateway)やCASB(Cloud Access Security Broker)と統合することで、あらゆる場所にゼロトラストを適用すると定義されています 。
主なコアコンポーネントとその役割は以下のとおりです。
コンポーネント | 主な機能 | 代表例・サービス |
---|---|---|
Identity and Access Management (IAM) | ユーザー・デバイスの認証、MFA、IDガバナンス | AWS IAM, Azure Active Directory |
Secure SD‑WAN | ネットワーク仮想化、トラフィック最適化 | Fortinet Secure SD‑WAN |
Next‑Generation Firewall (NGFW) | アプリケーションレベルのファイアウォール、脅威防御 | Palo Alto Networks NGFW |
Zero Trust Network Access (ZTNA) | アプリケーション単位のアクセス制御 | Zscaler ZPA |
Secure Web Gateway (SWG) | Webトラフィックの検査・制御 | Netskope SWG |
Cloud Access Security Broker (CASB) | クラウドアプリケーションの可視化・制御 | Microsoft Cloud App Security |
Policy Engine / Policy Administrator | ポリシー決定・実行、ログ記録 | NIST SP 800‑207 Zero Trust Architecture (Policy Engine) citeturn0search6 |
Enforcement Point (PEP) | ポリシー適用箇所(エッジノード、ゲートウェイなど) | Cloudflare Gateway |
Telemetry & Analytics | トラフィック・認証イベントの収集と異常検知 | Splunk, Elastic Security |
上記はあくまで一例であり、上記の中で該当するシステムを統合していくことで、ユーザーやデバイスの認証からトラフィック検査、アプリケーションアクセス制御、ログ分析までをエッジレイヤーで完結できるのというのがZTEの特徴です。
2-2. 従来のゼロトラスト/エッジと何が違うのか
従来、ゼロトラストとエッジコンピューティングは別々の取り組みでした。以下の表で両者とZTEを比較すると、その違いが明確になります。
比較項目 | 従来のゼロトラスト | 従来のエッジコンピューティング | ゼロトラストエッジ(ZTE) |
---|---|---|---|
セキュリティ境界 | クラウド/データセンター中心 | エッジデバイス・ローカルノード中心 | 境界レス、エッジからクラウドまで一貫適用 |
ポリシー適用位置 | 中央集約(クラウド/DCのゲートウェイ) | 各エッジノードで分散 | 中央+エッジで分散適用しつつ、統合管理 |
アクセス制御粒度 | ネットワーク/アプリ単位 | 主にネットワーク単位 | アプリ・ユーザー・デバイス単位の細粒度制御 |
レイテンシ | バックホールによる遅延発生 | 低レイテンシ | エッジでの検証によりさらに最適化 |
運用負荷 | 集中管理の複雑さ | 分散管理の手間 | 統合プラットフォームで運用を簡素化 |
従来のゼロトラストはネットワーク境界を曖昧化し、すべてのアクセスを検証する一方で、処理は主にクラウドやデータセンターで行います。一方、エッジコンピューティングは処理を末端に近づけることで性能を最適化しますが、セキュリティ制御は別のレイヤーで実施されるため可視性や一貫性に課題がありました。
ZTEはこれらを融合し、「エッジで処理しつつ、エッジで検証・制御を完結させる」アプローチを実現します。これにより、レイテンシの低減と高度なセキュリティを両立し、DXを加速させるプラットフォーム基盤を提供します。次章以降では、具体的な導入ステップや運用のベストプラクティスをご紹介します。
3. ビジネス成果との紐づけ:ZTEがもたらす価値
ゼロトラストエッジ(ZTE)は単なる技術導入に留まらず、企業のデジタル変革を加速し、具体的な業務効率化やリスク低減、ROI向上といったビジネス成果をもたらします。
3-1. レイテンシ低減・可用性向上による業務効率化
エッジでの処理・検証を可能にするZTEは、従来のクラウドバックホールに伴う往復遅延を大幅に削減します。これにより、リアルタイム性が求められるアプリケーションやサービスで劇的な効果が得られます。
製造ラインの可用性向上
大手の調査会社からは、グローバル製造企業がIoTセンサーとエッジ解析を組み合わせた結果、ダウンタイムが30%減少し、全設備総合効率(OEE)が25%向上しましたという報告例も聞こえてきました。
指標 | 従来環境 | ZTE導入後 |
---|---|---|
オンライン決済レイテンシ | 200ms | 120ms(-40%) |
顧客コンバージョン率 | 2.0% | 2.3%(+15%) |
製造ライン稼働率 | 85% | 90%(+5ポイント) |
ダウンタイム | 月間10時間 | 月間7時間(-30%) |
これらの改善により、ユーザー体験向上だけでなく、業務プロセスの迅速化・コスト削減が同時に達成されます。
3-2. セキュリティ強化がもたらすリスク削減効果とROI
セキュリティ侵害の平均コストは年々増加しており、外資系大手Sierと海外のITインフラのセキュリティを専門とした研究所の2023年報告では、グローバル平均で1件あたり4.45百万ドルに達しています 。
ZTEのコアとなるゼロトラスト技術を採用した場合、以下のようなリスク低減と投資回収効果が期待できます。
- 侵害件数の削減
Forrester TEI調査によると、Zscaler Private Access(ZTNA)の導入により、セキュリティ侵害が55%減少しました。 - インフラコスト削減
同調査では、年間最大1.75百万ドルのインフラライセンス・運用コスト削減を実現し、3年で289%のROIを達成しています。 - 総合ROIの試算例 項目 数値 侵害コスト削減額 4.45M USD × 0.55 = 2.45M USD/年 インフラ運用コスト削減 1.75M USD/年 合計年間効果 約4.20M USD ZTE導入コスト(推定) 1.10M USD/年 年間ROI (4.20 − 1.10) / 1.10 ≒ 281%
このように、ZTEのセキュリティ基盤は導入コストを大きく上回るリスク低減効果を生み、短期間での投資回収を可能にします。
3-3. ユースケース別ベネフィット(製造業、流通業、金融業)
業界 | 課題 | ZTE導入による主なベネフィット | 事例・根拠 |
---|---|---|---|
製造業 | 設備予知保全、品質管理のリアルタイム性 | ・ダウンタイム30%削減・OEE25%向上 | IDC調査:70%の運用速度改善 citeturn1search3 |
流通業 | 顧客体験向上、在庫最適化 | ・レイテンシ40%削減によるコンバージョン15%向上・コスト1,000万USD削減 | Gartner調査:小売チェーン事例 citeturn1search3 |
金融業 | 高頻度取引(HFT)のレイテンシ要件 | ・取引遅延をサブミリ秒(100μs)まで短縮 | 学術論文:エッジで100μs達成 citeturn3search1 |
- 製造業では、ZTEを活用したエッジ解析で設備の異常検知をリアルタイム化し、保全コストを大幅に低減できます。
- 流通業では、エッジでのパーソナライズドレコメンデーションを実現し、顧客接点の即時応答によって売上拡大を支援します。
- 金融業では、アルゴリズム取引の注文応答時間を100マイクロ秒まで短縮し、ミリ秒単位の競争優位を確保できます。
以上のように、ゼロトラストエッジは業界を問わず、リアルタイム性・可用性・セキュリティ強度を同時に高め、具体的なビジネス成果を実現します。次回の記事では、これらの価値を実現するためのアーキテクチャとフレームワークについて詳しく解説してみたいと思います。
解説記事「ゼロトラストエッジ(ZTE)とは?」の続きは
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この記事を書いた人

株式会社APPSWINGBY マーケティング
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監修

株式会社APPSWINGBY CTO 川嶋秀一
動画系スタートアップ、東証プライム R&D部門を経験した後に2019年5月に株式会社APPSWINGBY 取締役兼CTOに就任。
Webシステム開発からアプリ開発、AI、リアーキテクチャ、リファクタリングプロジェクトを担当。C,C++,C#,JavaScript,TypeScript,Go,Python,PHP,Vue.js,React,Angular,Flutter,Ember,Backboneを中心に開発。お気に入りはGo。

株式会社APPSWINGBY CTO 川嶋秀一
動画系スタートアップ、東証プライム R&D部門を経験した後に2019年5月に株式会社APPSWINGBY 取締役兼CTOに就任。
Webシステム開発からアプリ開発、AI、リアーキテクチャ、リファクタリングプロジェクトを担当。C,C++,C#,JavaScript,TypeScript,Go,Python,PHP,Vue.js,React,Angular,Flutter,Ember,Backboneを中心に開発。お気に入りはGo。