「コードをきれいにする」とは?リファクタリングの基本概念とその目的

「コードをきれいにする」とは?リファクタリングの基本概念とその目的

前回の記事では、「コード品質改善で解決する様々な開発課題」と題し、システムが抱えるパフォーマンスやバグの問題が、表面的な「技術負債」だけでなく、その根底にある「コードの品質」に深く関わっていることをご説明しました。特に「スパゲッティコード」が引き起こす隠れたコストとリスクについてもご理解いただけたかと思います。

では、実際にこの「複雑に絡み合ってしまったコード」をどのように「きれいにする」のでしょうか? その鍵となるのが、ソフトウェア開発の世界で長年実践されてきた重要な手法、それが「リファクタリング」です。

今回は、リファクタリングの基本とその目的について、解説していきます。

なぜコードを「きれい」にするのか?その本質的な意味とメリット

「リファクタリング」と聞くと、専門的で難しく感じるかもしれません。しかし、その本質は非常にシンプルです。私たちが普段、散らかった部屋を片付けたり、古くなった機械をメンテナンスしたり、傷んでしまった部品を交換して性能を維持したりするのと何ら変わりません。

「コードをきれいにする」とは、プログラムの外部からの振る舞いを変えずに、内部の構造を改善することを指します。つまり、機能はそのままで、コードの「見た目」や「作り」をより良いものに変えていく作業です。

では、なぜ「きれいにする」ことがそれほど重要なのでしょうか? その本質的な意味と、得られるメリットは以下の3点に集約されます。

1.可読性の向上(読みやすさ)

コードは、一度書いたら終わりではありません。

むしろ、書かれた後の方が、他の開発者によって読まれ、理解され、修正される機会が圧倒的に多くなります。読みやすいコードは、まるで整理整頓された本棚のように、必要な情報がどこにあるか一目でわかります。

これにより、新しくプロジェクトに加わったメンバーでも迅速にコードを理解でき、既存のメンバーも過去のコードをすぐに思い出して作業に取りかかれます。これは、開発チーム全体の生産性を底上げする最も基本的な要素です。

2.保守性の向上(手入れのしやすさ)

システムは常に変化するビジネス要件に合わせて進化しなければなりません。

可読性の高いコードは、どこを修正すれば目的の動作を実現できるか、また、その修正が他の部分にどのような影響を与えるかを予測しやすくなります。これにより、バグの修正や機能追加の際に発生する手戻りが減り、迅速かつ安全にシステムの変更を行えるようになります。

まるで、各部品が独立していて交換しやすい機械のように、メンテナンスが格段に楽になるのです。

3.拡張性の向上(変更への対応力)

現代のビジネス環境は常に変化し、システムにも柔軟な対応が求められます。

きれいに整理されたコードは、新しい機能を追加したり、既存の機能を変更したりする際に、最小限の労力で対応できる基盤を提供します。将来的にシステムをスケールさせたり、新しい技術を導入したりする場合でも、構造が明確なコードであればスムーズに進められます。

これは、まるでレゴブロックのように、新しい部品を簡単に追加・交換できる状態を目指すことです。

これらのメリットは、単に開発者にとっての「気持ちよさ」に留まりません。可読性、保守性、拡張性が高まることで、結果としてシステムの開発コスト、運用コストが削減され、ビジネスの変化に迅速に対応できる強い組織作りへと繋がっていくのです。

バグを減らし、パフォーマンスを向上させる「コードの磨き方」

バグを減らし、パフォーマンスを向上させる「コードの磨き方」

では、実際にコードを「きれいにする」とは、具体的にどのような作業を指すのでしょうか? いくつか代表的な「コードの磨き方」を簡単な概念でご紹介します。

これらの小さな改善の積み重ねが、バグの削減やシステム応答速度の向上に直結します。

1.関数・メソッドの分割(小さくまとめる)

一つの関数やメソッドの中に、あまりにも多くの処理が詰め込まれているコードを見たことはありませんか? これらは「巨大な関数(God Object)」と呼ばれ、可読性や保守性を著しく低下させます。

改善例として以下にわかりやすい例を挙げておきます。複雑な処理を、それぞれが単一の役割を持つ小さな関数やメソッドに分割します。

  • Before: processOrder()の中に、「在庫確認」「支払い処理」「発送手配」「顧客通知」の全てが入っている。
  • After: checkStock(), processPayment(), arrangeShipping(), notifyCustomer() といった独立した関数に分ける。 効果: 各機能の責任が明確になり、コードが理解しやすくなります。どこにバグがあるか特定しやすくなり、特定の機能だけを修正・改善することが容易になります。

2.変数名・関数名の改善(分かりやすく命名する)

意味不明な変数名や、省略しすぎた関数名は、コードを読解する上で大きな障害となります。

変数名と関数名の改善例も以下に挙げておきます。ポイントは、 変数や関数が何を表しているのか、何をするのかを明確に伝える名前をつけることです。

  • Before: tmp, val, f()
  • After: customerData, totalAmount, calculateTotalPrice()効果: コードの意図が明確になり、読み解く手間が省けます。特に、複数人で開発するプロジェクトでは、コミュニケーションコストの削減に大きく貢献します。

3.重複コードの排除(DRY原則の適用)

「Don’t Repeat Yourself(DRY)」はソフトウェア開発の基本的な原則の一つです。

同じような処理が複数の場所にコピー&ペーストで存在している場合、それは重複コードとなります。共通の処理を一つの関数やクラスとしてまとめ、必要な場所から呼び出すようにすることで効率の良いコードなるのです。

コード量が減ると、保守性が向上します。

ある処理のロジックを変更する際に、一箇所を修正すれば全ての関連箇所に反映されるため、修正漏れによるバグのリスクを大幅に減らすことができます。

また、冗長な処理が減ることで、システムの実行効率が向上し、パフォーマンス改善にも繋がることがあるのです。

4.コメントの最適化

コメントはコードを理解する上で役立ちますが、コードの内容をそのまま説明するだけのコメントや、古い情報が残ったコメントはむしろ有害です。

APPSWINGBYでは、他社ベンダーが書いたソースコードをお預かりし、コードをきれいにするリファクタリングサービスをご提供しているのですが、過去にソースコードがコメントで埋め尽くされているコードをお預かりしたことがあります^^;

コードが、「何をしているか」ではなく、「なぜそのようにしたのか」

という背景や意図、あるいは複雑なアルゴリズムの解説など、コードだけでは読み取れない情報を補足ことが最適なコメントというものです。

適切なコメントは、コードの設計意図を正確に伝え、将来の改修時に誤解を防ぐことができます。

これらの「コードをきれいにする磨き方」は、一見地味な作業に見えるかもしれません。

しかし、これらを継続的に実践することで、コードベースは徐々に「健康的」になり、その結果としてバグの発生頻度が減少し、システムの応答速度や処理能力が向上します。

まるで、定期的に車のメンテナンスを行うことで、燃費が良くなり、故障が減るのと同じです。

コードを「きれいにする」ことは、単なる美学ではなく、システム開発の効率性、安定性、そして将来性に対する、最も確実で効果的な「投資」なのです。

APPSWINGBYでは、長年の開発やベンダーの変更などで、コードが複雑化し、バグやセキュリティホールの大量発生や新規機能追加や保守メンテナンスに多くの課題を抱えるシステムのリファクタリングやリアーキテクチャサービスをご提供しています。

コードをきれいにして、様々な課題や問題を解決したいとお考えの際は、お気軽にお問い合わせください。

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この記事を書いた人
株式会社APPSWINGBY
株式会社APPSWINGBY マーケティング

APPSWINGBY(アップスイングバイ)は、アプリケーション開発事業を通して、お客様のビジネスの加速に貢献することを目指すITソリューションを提供する会社です。

ご支援業種

情報・通信、医療、製造、金融(銀行・証券・保険・決済)、メディア、流通・EC・運輸 など多数

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監修
APPSWINGBY CTO川嶋秀一
株式会社APPSWINGBY  CTO 川嶋秀一

動画系スタートアップ、東証プライム R&D部門を経験した後に2019年5月に株式会社APPSWINGBY 取締役兼CTOに就任。
Webシステム開発からアプリ開発、AI、リアーキテクチャ、リファクタリングプロジェクトを担当。C,C++,C#,JavaScript,TypeScript,Go,Python,PHP,Vue.js,React,Angular,Flutter,Ember,Backboneを中心に開発。お気に入りはGo。

APPSWINGBY CTO川嶋秀一
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動画系スタートアップ、東証プライム R&D部門を経験した後に2019年5月に株式会社APPSWINGBY 取締役兼CTOに就任。
Webシステム開発からアプリ開発、AI、リアーキテクチャ、リファクタリングプロジェクトを担当。C,C++,C#,JavaScript,TypeScript,Go,Python,PHP,Vue.js,React,Angular,Flutter,Ember,Backboneを中心に開発。お気に入りはGo。