【速報】NIST最新ガイドが示すゼロトラスト実装の新基準 NIST SP 1800-35を徹底解説

NIST最新ガイドが示すゼロトラスト実装の新基準 NIST SP 1800-35

ゼロトラストアーキテクチャ(ZTA)は、現代のサイバーセキュリティにおいて不可欠な概念となっています。企業の皆様が直面する複雑な脅威環境において、従来の境界型防御ではもはや十分とは言えません。

NIST(米国国立標準技術研究所)は、この新たなセキュリティパラダイムを具体的に実装するための指針として、SP 1800-35を公開(外部リンク)しました。本稿では、この最新ガイドラインの核心に迫り、企業の皆様がゼロトラストを効果的に導入し、ビジネスを加速させるための実践的な洞察を解説します。

1. NIST最新ガイドが示すゼロトラスト実装の新基準

情報システムがクラウドへ移行し、ハイブリッドワークが常態化する中で、組織のデータとリソースは従来の「境界」を越えて分散しています。これに伴い、サイバー攻撃の手法も巧妙化し、企業はこれまで以上に強固なセキュリティ基盤の構築を迫られています。このような背景から、米国政府機関のセキュリティ標準を策定するNISTが、ゼロトラスト実装に関する新たなガイドラインSP 1800-35を発表したことは、セキュリティ業界全体にとって画期的な出来事と言えるでしょう。

1-1. NIST最新ガイドの公開背景と重要性

NIST SP 1800-35「Implementing a Zero Trust Architecture」は、2025年6月13日に公開されました。この文書は、NIST SP 800-207で示されたゼロトラストの原則を、実際の商用技術を用いてどのように実装できるかについて、具体的なガイダンスを提供することを目的としています。

公開の背景

今日の企業環境は、以下の課題に直面しています。

  • サイバー攻撃の高度化と頻度増加: ランサムウェアや国家レベルの攻撃など、侵入手口は日々進化しており、従来の「信頼できる内部ネットワーク」という考え方は通用しなくなっています。
  • ハイブリッドワークと多様なアクセスポイント: オフィス外からのアクセスや、個人のデバイス利用が増加し、保護すべき「境界」が曖昧になっています。
  • データ分散と複雑なIT環境: クラウドサービスやSaaSの利用拡大により、データが様々な場所に分散し、一元的な管理が困難になっています。

これらの課題に対し、従来のセキュリティモデルでは「一度境界内に入れば安全」という前提がありました。しかし、悪意あるアクターが一度侵入してしまうと、内部での横移動を許してしまうリスクが高まります。この状況を打破するため、NISTは「決して信頼せず、常に検証せよ (Never Trust, Always Verify)」というゼロトラストの原則に基づくセキュリティアーキテクチャの導入を強く推奨しているのです。

NIST SP 1800-35の重要性

本ガイドラインが企業にとって非常に重要である理由は以下の通りです。

  • 実践的な実装指針の提供: ゼロトラストの概念は広く認知されてきましたが、具体的な実装方法や、既存システムとの連携方法に悩む企業が少なくありませんでした。SP 1800-35は、技術情報、アーキテクチャ例、ユースケースを豊富に含み、企業が自社の環境に合わせたゼロトラスト戦略を策定するための実用的なロードマップを提供します。
  • 市販の技術を用いた実現性: 特定のベンダー製品に限定せず、市場で利用可能な技術を活用した実装方法が示されているため、企業は既存のIT投資を最大限に活用しながら、段階的にゼロトラストへと移行することが可能です。
  • セキュリティ強化によるビジネス価値創出:
    • 場所を問わない安全なアクセス: リモートワーク環境下でも、ユーザーがどこからでも安全にシステムへアクセスできるようになり、ビジネスの継続性を高めます。
    • 機密情報の保護強化: データの場所や種類に関わらず、アクセスごとに厳格な認証と認可を行うことで、機密情報の漏洩リスクを大幅に低減します。
    • 侵害の影響範囲限定: たとえ一部が侵害されたとしても、マイクロセグメンテーションなどのゼロトラストの仕組みにより、被害が全体に波及するのを防ぎ、ビジネスへの影響を最小限に抑えます。

1-2. ゼロトラストの基本原則と従来のセキュリティモデルとの違い

ゼロトラストアーキテクチャ(ZTA)は、従来のセキュリティモデルが抱える根本的な課題に対処するために提唱されました。ここでは、ゼロトラストの核となる原則と、それが従来の「境界型防御」とどのように異なるのかを詳しく解説します。

ゼロトラストの基本原則:アクセス制御、最小特権、継続的検証

NIST SP 800-207「Zero Trust Architecture」では、ゼロトラストの基本的な考え方を定義しています。その中心となるのが、以下の3つの原則です。

  1. アクセス制御(Verify Explicitly): 従来のセキュリティモデルでは、一度ネットワーク内部に入ってしまえば、比較的自由にリソースにアクセスできる傾向がありました。しかし、ゼロトラストでは、ユーザーやデバイスがどこにいるかに関わらず、すべてのアクセス要求に対して「明示的に検証」を行います。これは、ユーザーの身元、デバイスの状態、アクセスするリソースの種類、アクセス環境など、あらゆるコンテキストを考慮し、正当性を確認するプロセスです。例えば、従業員が社内ネットワークから特定の機密情報にアクセスしようとする場合でも、事前に設定されたポリシーに基づき、そのアクセスが本当に許可されているか、デバイスがセキュアな状態にあるかなどを厳密にチェックします。
  2. 最小特権(Use Least Privilege): これは、ユーザーやデバイスに与える権限を、その業務遂行に「必要最小限」に限定するという原則です。例えば、経理部の従業員が人事部の機密データにアクセスする必要がない場合、そのデータへのアクセス権限は付与されません。これにより、万が一、ユーザーアカウントが侵害されたとしても、攻撃者がアクセスできる範囲を限定し、被害の拡大を防ぐことができます。これは、従来の「必要であれば後で許可する」という考え方から、「許可しなければアクセスできない」というデフォルトで拒否する姿勢への大きな転換を意味します。
  3. 継続的検証(Assume Breach & Monitor Continuously): ゼロトラストは、「常に侵害されている可能性がある(Assume Breach)」という前提に立ちます。一度認証されたからといって、その後のアクセスが無条件に許可されるわけではありません。ユーザーやデバイスの状況は常に変化し得るため、アクセスが行われている間も、その正当性を継続的に監視し、検証し続けます。例えば、ユーザーが不審な行動パターンを示したり、デバイスのセキュリティ設定が変更されたりした場合には、即座にアクセスを遮断したり、再認証を要求したりするなどの対応が取られます。これは、セキュリティが一度設定すれば終わりではなく、常に動的なプロセスであることを示しています。

これらの原則は、互いに補完し合い、組織全体のセキュリティ態勢を強化する上で不可欠です。

従来のセキュリティモデルとの決定的な違い:境界型防御からの脱却

従来のセキュリティモデルの多くは、「境界型防御」という考え方に基づいて構築されてきました。これは、組織のネットワークと外部ネットワークの間に強固な壁(ファイアウォールなど)を築き、その内部は「信頼できる領域」と見なすアプローチです。例えるならば、城壁で囲まれた城のようなもので、一度城内に入ってしまえば、ある程度の自由が許されるという構造です。

しかし、このモデルには以下の限界があります。

  • 内部からの脅威への脆弱性: 一度境界を突破されると、内部ネットワーク内での横移動(Lateral Movement)が容易になり、攻撃が組織全体に広がるリスクがあります。フィッシング詐欺などで従業員の認証情報が盗まれた場合、内部に侵入した攻撃者は、比較的自由に動き回ることができてしまいます。
  • クラウド環境への不適合: クラウドサービスやSaaSの利用が一般的になった現代では、保護すべきリソースが特定の「境界」の外に存在することが多く、境界型防御だけではそれらを適切に保護することが困難です。
  • リモートワーク環境での限界: 従業員が社外からアクセスする場合、VPNなどを利用して一旦「信頼できる内部」に接続しますが、その接続元であるデバイス自体のセキュリティ状態が不確かな場合、リスクが内在します。

これに対し、ゼロトラストは、ネットワークの場所にかかわらず、すべてのユーザー、デバイス、アプリケーション、データフローを「信頼できない」ものとして扱います。信頼は推測されるものではなく、すべてのアクセス要求に対して明確に検証されるべきであるという考え方です。これにより、社内ネットワークからのアクセスであっても、クラウドサービスへのアクセスであっても、同レベルの厳格なセキュリティポリシーが適用されます。

項目従来の境界型防御ゼロトラストアーキテクチャ
信頼の前提ネットワーク境界の内側は「信頼できる」全てを「信頼できない」と仮定する(Never Trust)
認証・認可の頻度境界通過時に一度認証されれば、内部では比較的自由すべてのアクセス要求、継続的に検証(Always Verify)
重点防御ポイントネットワークの境界(ファイアウォールなど)アクセスされる各リソース、ユーザー、デバイス
脅威への対処外部からの侵入阻止に注力内部侵入を前提とし、横移動と被害拡大を防止
アクセス管理IPアドレスやVLANに基づくアクセス制御アイデンティティとコンテキストに基づくきめ細かい制御
適用範囲主にオンプレミスネットワークオンプレミス、クラウド、ハイブリッド環境すべて
表1: ゼロトラストと従来の境界型防御の比較

このように、ゼロトラストは従来の「性善説」に基づいたセキュリティモデルから脱却し、「性悪説」に立ってセキュリティを構築する、根本的に異なるアプローチと言えます。これにより、企業はより堅牢で、現代の脅威環境に適応したセキュリティ基盤を構築することが可能になります。

次回は、「1-3. 企業が直面する課題とゼロトラストが提供する解決策」について解説していきます。

貴社のシステム開発やリファクタリングにおいて、ゼロトラストの原則を組み込むことは、将来的なセキュリティリスクを大幅に低減し、持続可能なビジネス成長を実現するための重要な投資となります。APPSWINGBYでは、このような最先端のセキュリティ設計に基づいたシステム構築、あるいは既存システムのゼロトラスト対応化を支援いたします。ぜひお気軽にお問い合わせください。

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この記事を書いた人
株式会社APPSWINGBY
株式会社APPSWINGBY マーケティング

APPSWINGBY(アップスイングバイ)は、アプリケーション開発事業を通して、お客様のビジネスの加速に貢献することを目指すITソリューションを提供する会社です。

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情報・通信、医療、製造、金融(銀行・証券・保険・決済)、メディア、流通・EC・運輸 など多数

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監修
APPSWINGBY CTO川嶋秀一
株式会社APPSWINGBY  CTO 川嶋秀一

動画系スタートアップ、東証プライム R&D部門を経験した後に2019年5月に株式会社APPSWINGBY 取締役兼CTOに就任。
Webシステム開発からアプリ開発、AI、リアーキテクチャ、リファクタリングプロジェクトを担当。C,C++,C#,JavaScript,TypeScript,Go,Python,PHP,Vue.js,React,Angular,Flutter,Ember,Backboneを中心に開発。お気に入りはGo。

APPSWINGBY CTO川嶋秀一
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動画系スタートアップ、東証プライム R&D部門を経験した後に2019年5月に株式会社APPSWINGBY 取締役兼CTOに就任。
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