504.7億円にも達したクレジットカードの不正利用-5 ~AIによる不正検知とその仕組み

今回は、「504.7億円にも達したクレジットカードの不正利用-5 ~AIによる不正検知とその仕組み」と題して、クレジットカードの不正利用にAIを用いて不正検知を行う対策についてのご紹介です。
これまで第4回にわたり不正利用の実態から対策等々についてご紹介してきましたが、クレジットカードの不正利用に関連する記事は今回が最終回です。もし、これまでの記事をご覧になっていない場合は、以下にリンクを張っておきますので、是非、ご覧ください。
- 504.7億円にも達したクレジットカードの不正利用 ~不正利用の実態と最新対策
- 504.7億円にも達したクレジットカードの不正利用-2 ~最新のセキュリティ対策と技術
- 504.7億円にも達したクレジットカードの不正利用-3 ~クレジットカード会社と加盟店の対策
- 504.7億円にも達したクレジットカードの不正利用-4 ~ユーザーができる不正利用防止策
では、さっそく始めていきましょう!
- 1. AI・機械学習による不正検知
- 2. AIによる不正検知の仕組み
- 2.1. 1. データ収集と特徴量エンジニアリング
- 2.1.1.1. (a) 取引データ
- 2.1.1.2. (b) ユーザー行動データ
- 2.1.1.3. (c) 外部データ
- 2.1.1. 特徴量エンジニアリングの重要性
- 2.2. 2. 機械学習モデルの学習と適用
- 2.2.1. (a) 教師あり学習(Supervised Learning)
- 2.2.2. (b) 教師なし学習(Unsupervised Learning)
- 2.3. 3. リアルタイムでの取引監視とアクション実行
- 2.4. 今後の課題
- 2.5. 不正利用防止のための総合的なアプローチ
- 2.6. 今後の展望
- 2.7. お問い合わせ
AI・機械学習による不正検知
クレジットカードの不正利用を防ぐために、多くの金融機関や決済事業者がAI(人工知能)および機械学習を活用した不正検知システムを導入しています。
従来のルールベースの検知システムでは、新しい不正手口への対応が遅れやすく、誤検知(False Positive)や検知漏れ(False Negative)が発生することが課題でした。しかし、AI・機械学習を活用することで、不正取引のパターンを自動で学習し、より高精度な検知を実現できます。
本セクションでは、AIによる不正検知の具体的な仕組みとアルゴリズムについて詳しく解説します。
AIによる不正検知の仕組み
AIを活用した不正検知のシステムは、大きく以下の3つのプロセスで構成されます。
- データ収集と特徴量エンジニアリング(Feature Engineering)
- 機械学習モデルの学習と適用
- リアルタイムでの取引監視とアクション実行
それぞれのプロセスについて、技術的な観点から解説します。
1. データ収集と特徴量エンジニアリング
機械学習による不正検知の精度は、適切なデータ収集と特徴量エンジニアリングに大きく依存します。クレジットカード取引におけるデータは、以下のような要素を含みます。
(a) 取引データ
- 取引額(Transaction Amount)
- 取引日時(Timestamp)
- 決済手段(POS, e-commerce, NFC)
- 取引地域(Country, City, IP Address)
- 加盟店情報(Merchant Category Code, MCC)
- 決済回数(同一時間帯の連続取引)
- 取引通貨(Currency)
(b) ユーザー行動データ
- 過去の購買履歴(トレンド分析)
- 購買頻度(短期間での異常な使用)
- 平均購入額とその偏差(スパイク検出)
- 使用デバイス(デバイスフィンガープリンティング)
- ロケーションの一貫性(IPアドレスとGPSの整合性)
(c) 外部データ
- ブラックリスト(過去の不正利用者リスト)
- グローバルな不正取引データ(Visa, Mastercard提供のリスクデータ)
- ダークウェブ情報(盗難カードの流通状況)
特徴量エンジニアリングの重要性
機械学習モデルの性能を向上させるために、生のデータを適切な特徴量に変換することが重要です。例えば、以下のような特徴量がよく使用されます。
- 時間帯のエンコーディング(通常の行動パターン vs 異常な深夜取引)
- 地理的な距離計算(前回の取引との物理的距離が異常に大きい場合)
- カード所有者の異常行動検知(通常と異なる国やデバイスでの決済)
2. 機械学習モデルの学習と適用
機械学習を用いた不正検知には、主に以下の手法が利用されます。
(a) 教師あり学習(Supervised Learning)
過去の取引データを「不正取引」「正規取引」のラベル付きデータとして学習し、新しい取引を分類する手法。代表的なモデルには以下があります。
- ロジスティック回帰(Logistic Regression)
- 簡単な線形分類モデルで、取引のリスクスコアを算出するのに適用。
- 解釈性が高いため、規制対応(Regulatory Compliance)で使用されることが多い。
- ランダムフォレスト(Random Forest)
- 決定木(Decision Tree)のアンサンブルモデルで、過学習を抑えながら高精度な分類を実現。
- 重要な特徴量を自動で抽出し、意思決定の根拠を提供できる。
- XGBoost(Extreme Gradient Boosting)
- 高精度な分類性能を持つ勾配ブースティングモデル。
- 大量の取引データに対して高速に処理できるため、リアルタイム検知に適している。
(b) 教師なし学習(Unsupervised Learning)
過去のラベルデータがない場合や、新しい不正手口に対応するための異常検知(Anomaly Detection)に使用される。代表的な手法には以下がある。
- オートエンコーダー(Autoencoder)
- ニューラルネットワークを用いて、通常の取引パターンを学習し、異常な取引を検出。
- 新しい不正手口にも適応可能。
- k-meansクラスタリング
- 類似した取引をグループ化し、通常の取引と異なるクラスタを異常取引として識別。
- Isolation Forest
- データの孤立度を基に異常点を検出し、不正取引を見つける。
3. リアルタイムでの取引監視とアクション実行
AIを活用した不正検知システムは、リアルタイムで取引を監視し、異常が検出された場合に適切なアクションを取る。具体的なプロセスは以下の通り。
- リスクスコアの算出
- 取引データを機械学習モデルに入力し、「0〜1」のリスクスコアを算出。
- 例えば、スコアが「0.9以上」の取引は高リスクと判定。
- アクションの決定
- 低リスク(スコア 0.0〜0.6) → 通常承認
- 中リスク(スコア 0.6〜0.8) → 追加認証(3Dセキュアやワンタイムパスワード)
- 高リスク(スコア 0.8〜1.0) → 取引ブロック or カード保有者へ確認
- 継続的な学習とモデルの更新
- 新たに発生した不正取引のデータを学習し、モデルを継続的に更新。
- オンライン学習(Online Learning)を活用し、新しい不正手口に迅速に適応。
今後の課題
- 誤検知(False Positive)と検知漏れ(False Negative)のバランス最適化
- データプライバシーの保護(GDPRやCCPAなどの規制対応)
- リアルタイム処理のための計算コスト最適化
- 新しい決済手段(暗号資産、デジタルウォレット)への対応
AI・機械学習の進化によって、不正利用の検知精度は向上していますが、犯罪者も同様に手口を進化させており、今後も継続的な技術革新が求められます。
本記事では、クレジットカード不正利用の現状、主な手口、最新のセキュリティ対策、そして今後の展望について解説してきました。不正利用は年々増加傾向にあり、犯罪者の手口はますます高度化・多様化しています。
一方で、カード会社や加盟店、決済代行業者、そして消費者が適切な対策を講じることで、不正利用のリスクを最小限に抑えることは十分に可能です。
不正利用防止のための総合的なアプローチ
クレジットカードの不正利用対策は、単一の技術や手法で解決できるものではなく、以下のような 多層的なアプローチ が求められます。
- 技術の進化と適用
- EMVチップ搭載カード、3Dセキュア、生体認証、ワンタイムパスワード、AIによるリアルタイム不正検知システムの導入。
- 決済情報のトークン化や暗号化により、カード情報の漏洩リスクを低減。
- 法規制とガイドラインの強化
- 日本国内外での不正利用対策法の整備と施行。
- クレジットカード業界のセキュリティ標準(PCI DSS、3Dセキュア2.0)の厳格な適用。
- カード発行会社・加盟店・決済代行業者の対応
- 加盟店の不正対策強化(EMV対応端末の導入、3Dセキュアの適用、ブラックリスト活用)。
- 決済代行業者による不正取引の監視とリスクスコアリングの最適化。
- 消費者の意識向上
- カード情報の適切な管理、信頼できるサイトでの決済、安全なネットワーク環境での利用の徹底。
- 定期的な利用明細の確認、不正利用時の迅速な対応。
今後の展望
AIや機械学習の発展により、クレジットカードの不正利用対策はより高度化しています。リアルタイムで異常取引を検知するシステムの進化により、カード利用の安全性が向上すると同時に、ユーザーエクスペリエンスも改善されています。
しかし、不正利用の手口も日々進化しており、今後も継続的な技術革新と業界全体の取り組みが不可欠です。また、キャッシュレス社会の発展に伴い、クレジットカード決済だけでなく、QRコード決済やデジタルウォレットなどの新たな決済手段に対するセキュリティ対策も求められています。
金融機関、決済事業者、政府機関、消費者が協力し、より安全なキャッシュレス環境を構築することが今後の課題となるでしょう。
お問い合わせ
APPSWINGBYでは、AIを活用した不正検知システムの開発や、クレジットカード決済のセキュリティ対策の導入支援を行っています。貴社の決済環境に最適なセキュリティソリューションの提案・実装をサポートいたします。ご相談をご希望の方は、お問い合わせフォーム よりお気軽にご連絡ください。

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この記事を書いた人

株式会社APPSWINGBY マーケティング
APPSWINGBY(アップスイングバイ)は、アプリケーション開発事業を通して、お客様のビジネスの加速に貢献することを目指すITソリューションを提供する会社です。
ご支援業種
情報・通信、医療、製造、金融(銀行・証券・保険・決済)、メディア、流通・EC・運輸 など多数

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監修

株式会社APPSWINGBY CTO 川嶋秀一
動画系スタートアップ、東証プライム R&D部門を経験した後に2019年5月に株式会社APPSWINGBY 取締役兼CTOに就任。
Webシステム開発からアプリ開発、AI、リアーキテクチャ、リファクタリングプロジェクトを担当。C,C++,C#,JavaScript,TypeScript,Go,Python,PHP,Vue.js,React,Angular,Flutter,Ember,Backboneを中心に開発。お気に入りはGo。

株式会社APPSWINGBY CTO 川嶋秀一
動画系スタートアップ、東証プライム R&D部門を経験した後に2019年5月に株式会社APPSWINGBY 取締役兼CTOに就任。
Webシステム開発からアプリ開発、AI、リアーキテクチャ、リファクタリングプロジェクトを担当。C,C++,C#,JavaScript,TypeScript,Go,Python,PHP,Vue.js,React,Angular,Flutter,Ember,Backboneを中心に開発。お気に入りはGo。