ゼロデイ脆弱性の影―不正プログラムの脅威と最先端セキュリティ対策の全貌

近年、ゼロデイ脆弱性を狙った攻撃は急増しており、企業の情報資産や事業継続性に対するリスクがますます深刻化しています。特に2023年には、GoogleのThreat Analysis Group(TAG)とMandiantの共同レポートによれば、97件のゼロデイ脆弱性が実際に悪用されたことが確認されており、前年に比べて50%以上の増加を示しました

さらに、Mandiantの分析では、2023年に公開された138件のアクティブに悪用された脆弱性のうち、70%にあたる97件がゼロデイ攻撃であったことが報告されています

こうした状況を受けて、企業は未知の脆弱性に対しても迅速かつ効果的に備える必要性が高まっています。

今回は、ゼロデイ脆弱性を狙った攻撃、不正プログラムの脅威と最先端セキュリティ対策についての基本について解説してきます。

ゼロデイ脆弱性の重要性と現代のサイバーセキュリティへの影響

ゼロデイ脆弱性とは、ベンダーやセキュリティコミュニティがまだ認識していない状態で悪用されるソフトウェアの欠陥を指します。これにより、パッチや防御策が整う前に攻撃を受けるため、企業は以下のような深刻な影響を被るおそれがあります。

  • 事業継続性への打撃:攻撃を受けたシステムの停止やデータ消失により、数億円規模の損失が発生するケースもあります。
  • ブランド価値の低下:顧客やパートナーからの信頼を失い、競合他社への顧客流出を招くリスクがあります。
  • 法規制・コンプライアンス違反:個人情報保護法やGDPRなどの規制に抵触し、罰金や行政処分の対象となる可能性があります。

以下の表は、近年のゼロデイ脆弱性の発見数をまとめたものです。

年度悪用されたゼロデイ脆弱性件数(Google TAG調査)
2021106
202263
202397
ゼロデイ脆弱性の発見数

このように、ゼロデイ脆弱性の悪用件数は高止まりしており、組織のセキュリティ対策だけでなく、開発プロセスやサプライチェーン全体での脆弱性管理強化が急務となっています。

ゼロデイ脆弱性の基礎知識

ゼロデイ脆弱性は、ベンダーや開発者が認識する前に攻撃者に悪用されるため、発見から対策までの時間がゼロ日であることが最大の特徴です。この章では、まずゼロデイ脆弱性の定義と特性を確認し、既知の脆弱性との違いを明確化した上で、発見から公開までの一般的なプロセスを解説します。

ゼロデイ脆弱性とは何か?

ゼロデイ脆弱性とは、ソフトウェアやハードウェア、ファームウェアに存在しながら、開発者側に認識されておらず、かつパッチが提供されていない状態で攻撃者に利用されるセキュリティホールを指します。

脆弱性が公表・修正される前に悪用されるため、「パッチ適用までの猶予期間がゼロ日」であることが最大のリスク要因です。

代表的な事例として、Stuxnet(2010年)があります。StuxnetはMicrosoft Windowsの複数のゼロデイ脆弱性を組み合わせて利用し、イランの核施設を標的にしたサイバー攻撃として世界的に注目を集めました。この攻撃では、パッチ提供前に深刻な被害をもたらし、ゼロデイ脆弱性の危険性を広く知らしめる契機となりました。

ゼロデイと既知脆弱性の違い

ゼロデイ脆弱性と既知(ノンゼロデイ)脆弱性の主な違いは、以下のとおりです。

項目ゼロデイ脆弱性既知脆弱性
認識状態ベンダーやユーザーに未認識公開済みでパッチが提供済み
パッチ提供までの期間なし(0日)公開後、通常は数日~数週間
検知の難易度高い(シグネチャベースの防御では検知困難)既存の防御策で比較的容易に検知可能
リスクの大きさ非常に高い中~高(環境による)
攻撃者の利用価値最も高い(防御手段が整う前に利用可能)低~中(既に対策が進んでいる場合が多い)
ゼロデイと既知脆弱性の違い

この違いから、ゼロデイ脆弱性は従来のシグネチャベース検知や定期的なパッチ管理だけでは防ぎきれない点が特徴です。

2.3 発見から公開までのプロセス

ゼロデイ脆弱性のライフサイクルは以下のフェーズに分かれます。組織としては、各フェーズでの迅速な対応が被害最小化に直結します。

  1. 発見(Day 0)
    セキュリティ研究者や攻撃者が未知の脆弱性を初めて確認します。
  2. 報告
    発見者がベンダーやCSIRT(Computer Security Incident Response Team)に通知し、修正作業が開始されます。
  3. パッチ開発
    ベンダーが脆弱性の解析を行い、修正プログラムを作成します。複雑度によっては数週間から数カ月かかる場合があります。
  4. パッチ提供
    ベンダーが公式に修正パッチをリリースし、ユーザーへの適用を促します。
  5. 公開(Public Disclosure)
    通常、パッチ提供後または一定期間(例:Google Project Zeroの90日ルール)経過後に詳細情報が公開され、攻撃手法や脆弱性の技術的詳細が共有されます。
フェーズ期間の目安主なアクション
発見Day 0脆弱性の特定
報告数日以内ベンダーへの通知
パッチ開発数週間~数カ月修正プログラムの作成
パッチ提供リリース時ユーザーへの配布・適用
公開パッチ提供後または90日後技術情報の公開
発見から公開までのプロセス

このプロセスを短縮・可視化するため、組織内での脆弱性管理フローや外部専門機関との連携体制を構築し、発見からパッチ適用までの時間を極力短くすることが求められます。

ゼロデイ脆弱性利用型不正プログラム

この章では、不正プログラムの定義と代表的な種類を整理したうえで、実際に確認されたゼロデイ攻撃の事例を分析し、攻撃者がどのような経路・手法で侵入してくるのかを解説します。

不正プログラムの定義と種類

不正プログラム(マルウェア)とは、「ユーザーや管理者の意図しない状態で、破壊・盗聴・侵入・迷惑・感染などの不正な動作を行うプログラム」の総称です

企業システムへの深刻な被害をもたらすため、以下のように不正プログラム(マルウェア)の主な種類を押さえておく必要があります。

分類主な特徴代表例
ウイルス他プログラムに寄生し、自己複製して感染を拡大するファイル感染型ウイルス
ワームネットワーク経由で自己複製し、ホスト間を自動拡散Blasterワーム
トロイの木馬正規アプリに偽装して潜入し、バックドア設置や情報窃取を行うEmotet、Zeus
ランサムウェアファイルを暗号化し、復号の身代金を要求するWannaCry、REvil
スパイウェア利用者の行動や情報を密かに収集・送信するDarkHotel、FinSpy
ルートキットOSの深層に潜伏し、他のマルウェアを隠蔽・永続化させるStuxnetのカーネルドライバコンポーネント
エクスプロイトキットブラウザやプラグインの脆弱性を自動的に悪用するツールRIG EK、Sundown EK
ファイルレス型メモリ上で直接動作し、ディスクに痕跡を残さないPowerShellベースの攻撃
不正プログラム(マルウェア)の主な種類

これらの不正プログラムは単独で用いられることもありますが、ゼロデイ脆弱性を狙う攻撃では「エクスプロイトキット+バックドア」「ランサムウェア+ルートキット」のように複合的に組み合わせられることが多く、検知や対応をさらに困難にします

ゼロデイ攻撃の実例と事例分析

実際に確認されたゼロデイ脆弱性利用型攻撃の中から、代表的な事例を2つピックアップして分析します。

事例1:Microsoft Exchange Server ゼロデイ攻撃(2022年9月)

  • 攻撃概要
    ベトナムのGTSCが報告したMicrosoft Exchange Serverの未修正脆弱性を狙うゼロデイ攻撃です。遠隔コード実行の脆弱性(ProxyShellなど)が悪用され、Webシェルを設置して社内ネットワークを横断的に侵害しました jp.tdsynnex
  • 被害内容
    • 複数組織でメールデータの窃取
    • 社内サーバへの不正アクセスと情報流出
  • 分析ポイント
    1. 攻撃者はエクスプロイトキットを用いて、ブラウザやExchange OWAの脆弱性を自動的に悪用
    2. 一度Webシェルを設置すると、次段階の不正プログラム(バックドアやランサムウェア)を導入
    3. 既存のシグネチャベース検知では捕捉が難しく、EDRの挙動検知が有効だった eset

事例2:Windows カーネルドライバ偽装脆弱性(CVE-2024-26234)

  • 攻撃概要
    プロキシドライバーになりすますカーネルモードの脆弱性を利用し、モバイル端末やPCを遠隔操作するバックドアを仕込む攻撃が確認されました jp.tdsynnex
  • 被害内容
    • デバイスの完全制御(ファイル操作、スクリーンキャプチャ、キーログ収集)
    • 既存のセキュリティ機能(SmartScreenプロンプト)をバイパス(CVE-2024-29988)
  • 分析ポイント
    1. カーネルレベルで動作するため、アンチウイルスやファイアウォールの検知を回避
    2. 初期侵入には標的型メールを利用し、ユーザー操作でマルウェアを実行させる
    3. システムリブート後も永続化し、セキュリティログを改ざんして痕跡を隠蔽

不正プログラムの攻撃経路と侵入手法

ゼロデイ脆弱性利用型攻撃では、以下のような経路・手法で侵入が試みられます。事前対策を講じるには、各フェーズの特徴を把握することが重要…

次回予告
次の記事では、”不正プログラムの攻撃経路と侵入手法”の続きから、更に踏み込んで”ゼロデイ攻撃の手法と実態”、さらに”ゼロデイ脆弱性の発見と情報管理”についてご紹介します。

APPSWINGBYでは、業務システムやアプリ、AIの開発からリファクタリング・リアーキテクチャ、システムのクラウドネイティブ化の他、システムのセキュリティ強化支援などの技術支援サービスもご提供しております。

お問い合わせフォームはこちら

システム開発にお困りではありませんか?

この記事を書いた人
株式会社APPSWINGBY
株式会社APPSWINGBY マーケティング

APPSWINGBY(アップスイングバイ)は、アプリケーション開発事業を通して、お客様のビジネスの加速に貢献することを目指すITソリューションを提供する会社です。

ご支援業種

情報・通信、医療、製造、金融(銀行・証券・保険・決済)、メディア、流通・EC・運輸 など多数

株式会社APPSWINGBY
株式会社APPSWINGBY マーケティング

APPSWINGBY(アップスイングバイ)は、アプリケーション開発事業を通して、お客様のビジネスの加速に貢献することを目指すITソリューションを提供する会社です。

ご支援業種

情報・通信、医療、製造、金融(銀行・証券・保険・決済)、メディア、流通・EC・運輸 など多数

監修
APPSWINGBY CTO川嶋秀一
株式会社APPSWINGBY  CTO 川嶋秀一

動画系スタートアップ、東証プライム R&D部門を経験した後に2019年5月に株式会社APPSWINGBY 取締役兼CTOに就任。
Webシステム開発からアプリ開発、AI、リアーキテクチャ、リファクタリングプロジェクトを担当。C,C++,C#,JavaScript,TypeScript,Go,Python,PHP,Vue.js,React,Angular,Flutter,Ember,Backboneを中心に開発。お気に入りはGo。

APPSWINGBY CTO川嶋秀一
株式会社APPSWINGBY  CTO 川嶋秀一

動画系スタートアップ、東証プライム R&D部門を経験した後に2019年5月に株式会社APPSWINGBY 取締役兼CTOに就任。
Webシステム開発からアプリ開発、AI、リアーキテクチャ、リファクタリングプロジェクトを担当。C,C++,C#,JavaScript,TypeScript,Go,Python,PHP,Vue.js,React,Angular,Flutter,Ember,Backboneを中心に開発。お気に入りはGo。