ゼロトラスト導入の全体像:境界なきセキュリティの基本と最新動向

ゼロトラスト導入の全体像:境界なきセキュリティの基本と最新動向

はじめに:ゼロトラストが求められる背景

本記事では、ゼロトラストが求められる背景と基本的な考え方、さらに導入に向けた最新動向や具体的なアプローチまでを総合的に解説していきます。特に次のような方々に向けて、実用的な知見を提供することを目的としています。

特に次のような課題を抱えた方々に向けて、実用的な知見を提供することを目的としています。

  • DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進し、システム全体のセキュリティレベルを向上させたい。
  • 社内外の業務環境が複雑化する中で、今後のセキュリティ戦略をどのように立てるべきか悩んでいる。
  • レガシーシステムを含む既存環境に対して、セキュリティを強化するための具体的な施策を検討中。
  • ゼロトラスト導入の検討段階で、技術的な要点や運用面の課題感を把握したい。
  • 予算化やプロジェクト推進のために必要な情報を整理し、社内説得材料にしたい。

では、さっそくはじめていきましょう。

セキュリティ境界が曖昧になる時代の課題

従来は、社内ネットワーク(オンプレミス環境)とインターネットの境界が明確であり、ファイアウォールやVPNなどで「外部からの脅威」を遮断することでセキュリティを担保できると考えられてきました。しかし、クラウドサービスの普及やリモートワークの常態化、さらにはモバイルデバイスの増加によって、企業システムへのアクセス形態が多様化しています。

  • クラウドの積極利用: SaaS(Software as a Service)の活用、IaaS/PaaS上でのアプリケーション運用が増え、情報が社外にも分散。
  • ハイブリッドワークの広がり: 在宅勤務・外出先からのリモートアクセスが主流化し、物理的なオフィス環境だけでは仕事が完結しない。
  • デバイスの多様化: 社員の私物端末(BYOD: Bring Your Own Device)や社給ノートPC、タブレットなど、管理対象が煩雑化。

こうした状況下では、「社内は安全、社外は危険」という従来の境界型セキュリティの前提が崩れてしまい、以下のような課題が顕在化しています。

  • セキュリティポリシーの形骸化: アクセスが社内ネットワークに限定されなくなり、既存ポリシーでは守りきれないリスクが増大。
  • 監視・ログの不十分さ: クラウドや外部接続が増えることで、従来の仕組みではアクセスログを十分追跡できないケースが多い。
  • 高度なサイバー攻撃の常態化: ランサムウェアや標的型攻撃など、境界を突破する新しい手口が日々進化している。

このように、セキュリティ境界が曖昧となる時代においては、これまでの常識にとらわれない新たなセキュリティアプローチが求められています。

従来の境界防御型セキュリティの限界

従来型のセキュリティ対策は、「社内ネットワーク内は安全で、外部からのアクセスを厳重に制限する」という考え方に基づいています。しかし、現代の業務環境では、この境界防御型アプローチだけでは下記のような問題が表面化してきました。

  1. 内側からの脅威への脆弱性
    境界を突破した攻撃や、内部犯による情報漏洩、誤操作によるインシデントなどが増加しています。社内システム内に侵入された場合、境界防御型セキュリティでは被害が広範囲に及ぶ可能性が高まります。
  2. クラウド・SaaSの活用との不整合
    クラウドサービスを利用するたびにVPNで社内に接続しなければいけない、あるいはセキュリティ例外ルールを頻繁に設けるといった非効率が発生し、業務が煩雑化しがちです。
  3. 実装・運用コストの増大
    複雑化するネットワーク構成や多岐にわたるセキュリティ機器への投資が増え、コストも運用リソースも膨らむ一方。さらに新しいサイバー攻撃手法が登場するたびに追加対策が必要となります。

結果として、企業が守りたい「データ」や「システム」を本質的に防御する仕組みが不十分になり、いつ攻撃を受けても不思議ではない状態に陥りやすくなっています。ゼロトラストは、こうした境界防御型の「信頼」の概念を根本から見直し、常に「検証」を行うことでセキュリティを強化しようという考え方です。

ゼロトラストの基本概念と原則

“Never Trust, Always Verify”とは何か

ゼロトラスト(Zero Trust)は、その名のとおり「何も信用しない」という前提に立ち、常に検証(Verify)を行うことでセキュリティを確保するアーキテクチャおよび思想です。これは、従来の「ネットワーク境界で守る」考え方を大きく転換するものであり、以下のような基本的な原則を含みます。

  1. 境界の内外を区別しない
    • 社内ネットワークや社外ネットワークといった区分を設けず、すべてのアクセスに対して一貫した検証を要求する。
    • オンプレミス環境だけでなく、クラウドやSaaS、リモートデバイスなど、あらゆる接続を対象とする。
  2. 認証・認可を常に実施する
    • ログイン時だけでなく、アクセスリクエストごとに認証・認可のプロセスを行い、動的に権限をチェックする。
    • 例外ルールを最小限に留め、必要に応じて再認証や再確認を促す仕組みが求められる。
  3. データやリソースへのアクセスを最小限に制限する
    • どのユーザーやデバイスであっても、必要なリソースに限定したアクセスのみを許可する(最小特権の原則)。
    • 過剰な権限付与を避け、万が一侵害が起きても被害範囲が最小限となるようにする。

この「Never Trust, Always Verify」の思想は、企業環境がクラウドやリモートワークで分散化し、境界防御型の前提が崩れた現代において、セキュリティを根本から見直すための重要な基礎となります。

ゼロトラストの主要コンポーネント(認証・認可、暗号化、監査など)

ゼロトラストを実践する上では、さまざまな技術要素やコンポーネントが必要となります。代表的なものを以下に挙げます。

  1. アイデンティティとアクセス管理(IAM)
    • ユーザーやデバイスを厳格に識別し、ロールやポリシーに基づいてアクセスを制御する。
    • シングルサインオン(SSO)や多要素認証(MFA)などを組み合わせ、なりすましや不正アクセスを防ぐ。
  2. 暗号化とトランスポートセキュリティ
    • 通信経路上のデータを常に暗号化(HTTPS/TLS)し、盗聴や改ざんを防止する。
    • 重要情報は保存時(静止データ)も暗号化し、万が一の漏洩リスクを低減する。
  3. ネットワークセグメンテーション
    • ネットワークを細分化(マイクロセグメンテーション)し、セグメント間の通信を最小限に制限する。
    • 一部のリソースに不正アクセスが生じても、被害が全体に拡散しにくい構造を作る。
  4. 監査・ログ収集と分析
    • アクセスログや操作ログを一元的に収集し、リアルタイムで異常検知を行う。
    • SIEM(Security Information and Event Management)やSOAR(Security Orchestration, Automation and Response)を活用して対応を自動化し、セキュリティ運用を効率化する。
  5. 継続的なセキュリティ評価とコンプライアンス対応
    • 定期的に脆弱性スキャンやペネトレーションテストを実施し、システムのセキュリティ状態を検証する。
    • 各種セキュリティ規格やデータ保護規制への準拠(ISO 27001、PCI DSS、GDPRなど)を意識し、ガバナンス体制を整備する。

APPSWINGBYが携わるシステム開発やリファクタリング案件でも、これら主要コンポーネントを組み合わせて、ゼロトラストの考え方に基づいた安全性の高いアプリケーションとインフラ環境を提供しています。特にクラウドネイティブ技術やマイクロサービスアーキテクチャと相性がよいため、レガシーシステムのモダナイゼーションと同時に導入を検討される企業が増えています。

マイクロセグメンテーションと最小特権の考え方

ゼロトラストを導入する際にしばしば取り上げられるキーワードが、マイクロセグメンテーション最小特権です。どちらも、万が一攻撃や侵害が起きても被害を最小限に抑えるための重要な手法です。

  1. マイクロセグメンテーション
    • ネットワークをアプリケーション単位、サービス単位、さらにはコンテナ単位など、より細かい単位で分割します。
    • セグメント間の通信には厳密なポリシーを設定し、不必要な通信を遮断することで、内部拡散リスクを大幅に低減できます。
    • 例:社内人事システムへのアクセスは特定ユーザーのみ許可し、他の部署・アプリケーションからは通信経路をブロックする。
  2. 最小特権(Least Privilege)
    • ユーザーが業務を行う上で必要な権限のみを割り当て、それ以上の権限を与えないという原則です。
    • 不要なアクセス権限を付与しないことで、ミスや悪意ある行為による被害を最小化します。
    • アクセス権限は動的に調整することも多く、プロジェクト終了後や役職変更のタイミングで権限を再評価する仕組みが重要です。

これらの考え方は、ゼロトラスト導入におけるコアとなる要素です。従来の境界防御型セキュリティとは違い、「一度認証されれば社内のどこにでも自由にアクセスできる」状態を避ける点が特徴になります。結果として、仮に特定のユーザーアカウントが侵害されても、企業全体への影響を極小化できるのです。

今回の記事では、ゼロトラストが求められる背景からゼロトラストの基礎や考え方を中心にご紹介しました。次章以降では、ゼロトラストアーキテクチャ(ZTA)の進化や最新動向、SASE(Secure Access Service Edge)やSSE(Security Service Edge)についてさらに掘り下げ、ご紹介します。

もし本記事を読み、貴社におけるゼロトラストの導入や技術サポート等をご検討中であれば、ぜひお気軽にお問い合わせフォームからご連絡ください。私たちが持つ専門的な知見と経験を活かし、最適なソリューションをご提案させていただきます。

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この記事を書いた人

株式会社APPSWINGBY

株式会社APPSWINGBY マーケティング

APPSWINGBY(アップスイングバイ)は、アプリケーション開発事業を通して、お客様のビジネスの加速に貢献することを目指すITソリューションを提供する会社です。

ご支援業種

情報・通信、医療、製造、金融(銀行・証券・保険・決済)、メディア、流通・EC・運輸 など多数

監修

APPSWINGBY CTO川嶋秀一

株式会社APPSWINGBY
CTO 川嶋秀一

動画系スタートアップ、東証プライム R&D部門を経験した後に2019年5月に株式会社APPSWINGBY 取締役兼CTOに就任。
Webシステム開発からアプリ開発、AI、リアーキテクチャ、リファクタリングプロジェクトを担当。C,C++,C#,JavaScript,TypeScript,Go,Python,PHP,Vue.js,React,Angular,Flutter,Ember,Backboneを中心に開発。お気に入りはGo。